第十六話 加工
魔法部 共用工房
陸虚は一心不乱に、メイド服の布地に複雑な回路を縫い込んでいる。ちょうどその時、シオンは魔法のスクロールを換金して手に入れた金貨を持って入ってきた。
「陸先生、これは低級スクロール20枚を回収した分よ。金貨2枚、銀貨60枚ね。」
「あ、ありがとう」
陸虚が金貨に手を伸ばした瞬間、シオンはいたずらっぽく微笑みながら、それをさっと引っ込めた。
「金貨2枚、銀貨60枚を引いて、残りはまだ金貨37枚銀貨40枚の借金よ。」
「渡す気がないなら、わざわざ見せなくてもいいのに……」
「ちゃんと働いてお金を返すためなんだから、ここでサボっているんじゃないわよ。で、何をしている?」
シオンは衣服から淡い光沢が浮かんでいるのを見て、すぐに興味を持ち、目を輝かせた。
「この魔力の波動……やはり防御魔法ですね。店主は“この服には魔法回路は描けない”と言っていましたが……あなた、一体どうやって?」
「確かに、この星蚕糸の特性上、直接魔法回路を描くのは不可能です。でも――発想を変えてみたらどうですか、ね?」
そう言うと、陸虚は雷を針とし、防御回路の構造に従って、あらかじめ用意していた魔法糸を衣服に縫い込んでいった。
「すごい……刻印じゃなくて、魔法陣をそのまま縫い込んだのね?」
「その通りです、ところで……エルフは魔法が使えないはずだよな?でもシオンは魔力の波動に対して、やけに敏感だ。下手すれば、術式の構造まで見抜いているように見えるけど……?」
「普通は、魔法が使えない人は魔力を感じ取ることもできないはずだが、エルフ族は元々魔法を使える種族だったが、ある理由によりその力を失ってしまった。ただし、魔法への感知能力は失われていない。」
「理由.....100年前の災難が.....」
「みんなあの災厄のせいにしてるけど、結局のところ、誰も本当の理由なんて知らないんだ」
「それで、答えを探しにオレリスまで来たってわけ?」
「誰も教えてくれないし、自分で探しに行くしかないでしょ?その話はもういいから、さっさと続けて。どうせ防御魔法陣ひとつだけで終わるつもりじゃないんでしょ?……ふん、完成品がどんなのか、見せてもらうわよ。」
彼女の横顔を見ながら、ふと陸虚は思った。
「言うのは簡単だけど、実際にここまで来るのは、相当の覚悟が要ったはずだ。エルフの里から、魔法の使えない自分の体で、わざわざ人間の街まで来て、それも魔法学校に通うなんて。
その過程を、彼女は一言も重く語らない。ただの“当たり前”みたいに振る舞っている。けれど——そう簡単な話じゃないよな、絶対に。」
シオンが口をつぐんだまま、黙々と魔法陣の光を目で追っているのを見て、陸虚は密かにため息をついた。
二時間後
陸虚は完成品を見て、満足そうな表情を浮かべた。全過程は一見単純に見えるが、細かい技術と忍耐が詰まっており、最終的な成果は間違いなく成功だと感じさせるものだった。
「ついに完成か。」
陸虚は静かに呟きながら、目の前の法阵をじっと見つめた。服の表面には微かな光沢が現れ、強力な防御力を持っているように見える。
指が法陣の縁を滑ると、その魔力の流れを感じ、内心で満足げに頷いた。こんな一着の衣服は、単に防御力を持つだけでなく、その繊細な法陣のデザインによって、どこか独特で非凡な印象を与えていた。
シオンはその服を見つめながら、わずかに感心の色を浮かべたが、すぐに表情を引き締め、冷静を装って言った。
「思ったより早かったわね。まさかこんなに精巧な防御法陣を縫い込めるなんて。」
陸虚は彼女の挑発に答えず、ただ微笑んだ後、静かに言った。
「君の目が間違っていなかったようだ。上手くいったかどうかは、やっぱり完成品を見てみないと分からない。」
シオンは言葉を詰まらせ、しばらく黙っていたが、心の中では彼の技術にさらに感心していた。
「つまり、防御魔法陣に加えて、清潔とか温度調整とかサイズ調整とか、そういう生活系の魔法まで縫い込んだってこと?ほんと、手間のかかることを」
「どうせこれはノアに着せるんだし、防御以外、こういうのは生活魔法の方がよい、特にサイズ調整の魔法陣な。今は細すぎるくらいだけど、これから体つきが変わったら、この服が着れなくなって無駄になるだろ?」
「陸先生は、自分のメイドにはずいぶん気を使うんですね。まったく」
そう言って、シオンはぷいっと顔をそらした。けれど、その頬がほんのり赤く染まっているのを、陸虚は見逃さなかった。
「うん?これは何の反応だよ」
それらには特に気を留めることもなく、陸虚は服の中央にある開口部をじっと見つめながら呟いた。
「――あとは、魔力供給の問題だけだな。」
シオンは得意げにニヤリと笑いながら言った。
「自業自得でしょ?あんなに余計な魔法陣を詰め込むから……さて、どうするのかしら?」
「正直言って、僕にもいい方法は思いつかないし……仕方ない、校長先生に聞いてみるしかないか。」
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