表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第七章 南海群島
125/143

第一百二十三話 導き

一方その頃、メイヴィレーナ融合魔法学院。


学院の中心広場には、すでに百人を超える学生たちが集まっていた。


海族も、人族も、その顔には不安の色が浮かんでいる。


「……どうして、校長が現れないの……?」


「家族の村が、海龍族の襲撃を受けたって……!」


「嘘だろ、こんな時に……」


ざわつき、恐れ、そして誰ともなく口にされる“絶望”という言葉。


魔力を持つ者であっても、心が砕ければ、力は意味を成さない。


そんな中—


「静かにッ!」


一喝する声が響いた。


その中心に立っていたのは、炎狮の血を引く少年、ガルドだった。


額に汗を浮かべながらも、その眼光は鋭く、広場全体を包み込むように見渡していた。


「……気持ちは分かる。家族が心配なのも、不安でたまらないのも。だが……!」


ガルドは拳を握りしめ、声を張り上げた。


「ここでバラバラになったら、メリー校長が命を賭けて守っているこの学院が崩れる!オレたちが今やるべきことは、不安に飲まれることじゃない……互いに支え合い、生き延びる道を考えることだ!!」


その言葉に、場が静まり返る。


だが——静寂は決して“安心”ではなかった。


押し寄せてくる“虚空”の影は、まだ誰にも見えない形で、学院の周囲に滲み始めていたのだから——。


その時——リュミエールが学院へと戻ってきた。


濃密な魔力の流れを追いながら歩いていた彼女は、周囲のざわめきに気づく暇すらなかった。


だが、気がつけば、学院の中央広場に集まった生徒たちは、まるで彼女のために道を開けるかのように、静かに身を引いていた。


リュミエールは立ち止まり、ゆっくりと顔を上げる。


目に映ったのは、無数の視線。


怯え、戸惑い、不安……しかしその奥に、確かに“希望”があった。


それは——誰かが導いてくれるという、心の奥底からの願い。


「……私が……?」


呟くように自問する。


そうだ、校長は今ここにいない。


リーダー不在の学院を、支える誰かが必要なのだ。


そして今、この場にいる“最も信頼された者”は——


「……分かりました」


リュミエールは、胸に手を当て、深く息を吸い込んだ。


海風の匂い。学院を包む結界のかすかな光。みんなの鼓動。


「皆さん、聞いてください!」


その声は決して大きくなかった。けれど——不思議と、全員の耳に届いた。


「メリー校長は、今、……私たち、南海を守るために戦っています。一人一人の力は小さくても、心をひとつにすれば……必ず乗り越えられると、私は信じてる!!」


沈黙のあと——


「リュミエール先輩……!」


広場に小さな声が広がり、それはやがて——大きなうねりとなって島全体を包み込んでいった。


その中心に、彼女はいた。


学院に結集した希望の灯が、確かに燃え始めたその時——


リュミエールのポケットから、まばゆい光が弾けるように放たれた。


「……これは——」


あの時、陸虚から預かったカード。


彼女はすぐさまそれを手に取り、輝く文字と模様を凝視した。


幾何学的に並ぶ魔法陣、中央に描かれた巨大な海亀——玄武。


その周囲には、多様な種族たちの象徴が並ぶ——人魚、海老、鮫、海星……そして、人間。


まるでこの学院そのものを写したような図。


リュミエールはゆっくりと息を吸い、目を閉じ、そして静かに開いた。


「……そういうこと、だったのね」


彼女は静かに立ち上がり、手にしたカードを掲げる。


「ガルドさん!」


「はい……!」


「これから、各部族の学生たちを、このカードが示す場所へ誘導して。これはただの地図じゃない、玄武の“神経網”……この島全体がその身体なの!」


「お、おう……でも、リュミエール、君は——」


「私は……玄武を目覚めさせる」


彼女の瞳は、もはや迷いのない強さで満ちていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ