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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第七章 南海群島
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第一百二十話 メリーの選び

リュミエールの手元の貝殻が、パリッとひび割れる。


「……っ、今の……何……?」


まるで空間ごと断ち切られたような不自然な切断。


冷たい汗が背筋を伝い落ちる。


「まさか、予言は本当に……」


南海の予言は、陸虚だけ知るわけじゃない、彼女は一瞬だけ呆然としたが、すぐに顔を上げた。


「校長……どこにいるんですか……!」


リュミエールは大きく深呼吸を二度、三度繰り返した。


「……リュミエール、落ち着け。こういう時こそ、焦ってはいけない……校長の教えを思い出して……」


小さく自分に言い聞かせるように呟くと、静かに目を閉じた。


心を沈め、周囲に満ちる魔力の流れに意識を集中させる。


──風。


無数の風が、島のあちこちを駆け巡っていた。


荒々しく、けれど正確に、島そのものを作り変えるように吹いている。


あまりにも異常な風の奔流。


……けれど、誰も気づいていない。


なぜ? なぜこの風の異変に、学院の誰一人として反応していないの?


──水だ。


リュミエールの脳裏に、次の瞬間ある確信が閃いた。


「……水が、風を打ち消してる……!」


風の流れを包み込むように、柔らかく、しかし絶対的な力で制御している“何か”。


それはまさしく、メリー校長奥義!


風の流れに導かれるように、リュミエールは学院の中西部——普段は誰も立ち入らない小さな洞窟の奥へと辿り着いた。


そこには……青白い魔法陣が刻まれた円環の中心に、静かに佇むメリー校長の姿があった。


「校長……!」


駆け寄るリュミエール。メリーは目を閉じたまま、微動だにせず術式を維持している。


魔力の奔流が、彼女の足元から天へと螺旋を描き、島全体へ広がっていく——。


リュミエールは息を切らしながら叫ぶ。


「校長、今すぐ来てください! 逆さ海の下に……“虚空”の裂け目が現れたんです! 陸先生は今どうか——」


メリーは静かに頷いた。


校長の体内から……生命の鼓動が、ゆっくりと、確かに……消えていく。


「ど、どうして……!? 校長、あなた、魔力を……命そのものを……!」


賢いリュミエールはメリーをするつもりことすぐ分かった


次の瞬間——


「え……?」


リュミエールの足元を、優しい風が包み込んだ。


その風は、まるで母が子を抱き上げるような——


温かく、切なく、どこか別れを告げるような気配を帯びていた。


「ま、待ってください……校長……!」


叫ぶ間もなく、風はリュミエールの身体をそっと宙に浮かべ、


祭壇の洞窟から、外の世界へと押し戻した。


一歩でも近づこうと、魔力を駆使して術式を展開する。


空間転移、結界解除、


思いつく限りの手段を試す。


だが。


「……入れない……っ!」


洞窟の入り口は、まるで最初から存在しなかったかのように、


風と水に包まれ、リュミエールを拒む。


……静かだった。


島の中心は、嘘のように静まり返っていた。


リュミエールは唇を噛みしめ、拳を握ったまま、しばらくその場に立ち尽くしていたが——


「……まだ、終わってなんかいません……!」


ぎゅっと涙を拭い、目を真っ赤にしながらも顔を上げる。


「きっと……きっと方法はある。私が、絶対に見つけてみせる……!」


彼女は振り返り、風に逆らうように駆け出した。


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