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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第七章 南海群島
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第一百十三話 到着

そして――


陸虚とアイゼルは、ついにその場所へと辿り着いた。


「……ここが、“逆さ海”……!」


アイゼルがぽつりと呟く。


目の前に広がっていたのは、地平線ではなく――空に浮かぶもう一つの海だった。


海面は鏡のように輝き、その上を、巨大なクジラや無数のクラゲが悠々と泳いでいる。


潮の匂いは、下からではなく頭上から届き、波音も空から降り注ぐように響いていた。


「うわぁ……すげぇ……」


アイゼルが子供のような声を漏らす。


「こりゃ、絵にも残したいくらいだぞ……!」


その横で、陸虚はじっと空を見上げていた。


「……本当に、不思議だな。」


ゆっくりと語るその声は、好奇心に満ちていた。


「海が空にあるのも……その中に生き物がいるのも……なのに、あれほど大質量の“海”が、どうして落ちてこないんだ……法則か?」


「これは……空間法則の影響だな。」


アイゼルが急に真面目な顔をして、空を見上げながら口を開いた。


「――俺の親父が言ってたんだ。大陸の北には“時間の法則”が宿ってる場所があるって。彼が7級に上がったのも、“時間”を部分的に理解したからなんだよ。」


陸虚は少し驚いたように目を細める。


「時間の法則……確かに、あの方ならやりかねんな。」


「で、南にはそれに対応する“空間の法則”が眠ってるってわけ。つまり、この“顛倒海”に妙な空間構造が現れるのも……何も不思議じゃないってことだ!」


アイゼルは自信ありげに胸を張る。


「逆さの海も、浮かぶ海洋生物も、それどころか“上にあるものが、下にあるよりも重い”って現象すら――全部、“空間の理”が乱れてる証拠ってわけだ!」


「なるほどな……」


陸虚は静かに懐へ手を伸ばし、一枚の銀白色の鱗を取り出した。


それは、氷龍王アイスからもらった鱗だった。


彼はそれを手のひらに乗せ、目を閉じた。


「……これは、“時間”の気配だ。」


鱗の奥深くには、悠久の時を生きた古き龍の“記憶”と、“時間の流れ”そのものが刻まれていた。


手に取るだけで、思考が緩やかに引き伸ばされるような、静かな流動感が全身を包む。


だが――


今、自分が立っているこの“逆さ海”の大気は、まるで別の力を帯びていた。


「……対照的、だな。」


頭上の海、宙に浮かぶ生き物、ねじれる空間、歪む距離感。


ここには空間法則が強く現れており、時間の流れすらどこか不安定に感じられる。


(もし……この“時間”と“空間”の境界に、意識を深く沈めることができたなら――僕も、“何か”を掴めるかもしれない……)


陸虚はそう呟きながら、龍鱗を握りしめ、しばし無言のまま、静かに法則の交差点に身を浸した。


しばらくの間、陸虚は静かに目を閉じ、龍鱗と法則の波動に意識を研ぎ澄ませていた。


だが――やがて眉をひそめ、ぽつりと呟いた。


「……ダメだ。遠すぎる。このままじゃ、“触れる”ことはできない。」


そして隣のアイゼルに目を向ける。


「アイゼル、上の海まで僕を連れて行ってくれ。もっと近くで、“空間の核”を感じてみたい。」


アイゼルは一瞬たりとも迷わなかった。


「任せろ、そう言うと思ってたぜ!」


次の瞬間、アイゼルの体が銀光をまとって変化を始めた。豪快に羽ばたく白翼の竜へと変化し、その背に陸虚を乗せて、空へと駆け上がっていく。


――蒼穹を裂き、“天の海”へと。


その広大な逆さの海域に差しかかると、アイゼルは口から魔力の霧を吐き出し、


陸虚の周囲に隔水の結界を張り巡らせた。


その結界の内側に座り込み、陸虚はそっと息を吐いた。


陰と陽が絡み合うように、彼の腹部に宿る金丹が、静かに――だが確かに、回転を始める。

仕事関係で週二回更新を変更しますので、ご理解頂ければ幸いです。

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