第一百十二話 シフの涅槃
「そういえばさ、お前……シフ教頭を助けに王都へいくでけ、なんでガルドと一緒に南海なんか来てんの?」
その言葉を聞いた途端、アイゼルの目がぎらりと光った。
待ってましたと言わんばかりに身を乗り出してきた。
「それそれ! ちょうど俺も言おうと思ってたんだよ!あのシフさん、マジでヤバいから!」
「……ヤバいって、どんな風に?」
「いやもうね、俺が現場に着いたとき、すでに戦闘始まってたんだよ!お互いボロボロなのに、まだ全然手加減なしでやり合っててさ!」
「ふんふん……」
「しかもさ、シフさん相手してたの、あの“毒蛇”だぞ!?あいつの攻撃、普通の人なら一発で昏倒するって聞いたのに……それでも殴り合っててさぁ、マジでおっかねぇって!」
「……まぁ、あの人ならな……」
「でさ! 問題はそこからなんだよ!!」
アイゼルのテンションがさらに一段階跳ね上がる。
「途中でどっからともなく、“巨大なクマ”が乱入してきてさ!どっちが味方でどっちが敵かわかんない状態で、とにかく“シフ vs 蛇 vs クマ”の三つ巴!」
「……クマってお前、灰熊公爵?」
「奥義真形だ!しかもあのクマ……明らかにザグレウス側なのに、なぜか途中から蛇じゃなくてシフさんに肩入れし始めてさ!!」
「でさ、俺も『よっしゃ、そろそろ俺の出番だな!』って思ってたらさ――」
アイゼルは両手を振り上げ、いきなり声を張った。
「シフさんが――突然! 炎に包まれて灰になっちまったんだよ!!」
「……は?」
陸虚の足が一瞬止まる。
「いやマジで。真っ白な灰になって、風に舞うように……で、俺、『うわ、今ので死んだ!?』ってガチで思ったんだよ!」
「……あの人がそんな簡単にくたばるわけないだろ」
「だよなぁ。でもそのときは本気でビビったんだよ……そしたら次の瞬間、バーン!って火柱が立ち上って――」
アイゼルは手を広げ、火の鳥のような形を空中に描いた。
「――“フェニックスの奥義”を完全にモノにして、そこからマジで……“不死鳥のごとき再誕”ってヤツよ!」
陸虚は静かに呟いた。
「……まさに、鳳凰の涅槃か。因果の果てに、ようやく昇華したってことだな。」
「うん! しかもその後の強さがヤバかったんだよ!!新たに“第6階梯”に上がったばっかりなのに、すでに俺とほぼ互角――いや、下手すりゃそれ以上かもしれん!」
アイゼルの顔には、心底からの驚きと尊敬が滲んでいた。
「いやー、あれはマジで燃えたな……! “修行”とか“成長”とか、そういうのの全部が一気に爆発した感じで!」
「で、そっからどうなったんだ?」
陸虚が振り返りながら尋ねると、アイゼルは少し得意げな顔で続けた。
「そしたらさ、シフさんが言うわけよ――『新しい魔法学院を立ち上げたい』って!」
「へぇ……?」
「でもな、それには“拠点用の魔法陣”が必要なんだけど……オレリスがないからメイヴィレーナ融合魔法学院が専門らしい。」
「なるほど。」
「で、ちょうどその時にガルドが『リュミエールとは知り合いだ』って言い出してさ!それならってことで、メイヴィレーナ融合魔法学院に魔法陣の技術を借りに行くことになったんだよ。」
「でもガルドって、まだ4級だろ? 南海までの道、危なくないか?」
「そうそう! だから俺が付き添うことになったってわけ!」
アイゼルは胸を張って言った。
「なるほどな……」
陸虚は軽く頷きながら、空を仰いだ。
仕事関係で週二回更新を変更しますので、ご理解頂ければ幸いです。