表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第七章 南海群島
113/123

第一百十一話 再会

確かに、他の船がほぼ例外なく損傷している中で――


一隻だけ、まるで嵐を避けてきたかのように、ぴかぴかの状態を保った船があった。


「……まさか、僕以外にも“やったやつ”が?」


訝しげに眺めていたその時だった。


その船の片翼――魟魚型の下部にある格納スペースから、そっと人影が現れた。


「…………?」


陸虚は目を細めながら、ゆっくりとその二人を見つめた。


「……あれ、もしかして……」


すぐ隣でその姿を見たリュミエールも、思わず小さく息を呑んだ。


その顔にはわずかに戸惑いの色が浮かぶ。


「……リュミエール?」


「……ううん、大丈夫。行ってみましょうか。」


そう言って、二人はそっと影に紛れながら、静かに背後へと近づいた。


そして――


「よっ。」


陸虚が、そっと肩に手を置いた。


「っ!?」


肩を叩かれた人物がびくりと震え、ゆっくりとこちらを振り返る。


そして、その顔を見た瞬間――


「……陸先生!? マジで!?」


驚きと喜びが入り混じった声を上げたのは――アイゼルだった。


その隣で、苦しいそうの仲間を肩に担いでいるのは、ガルド。


「…………」


陸虚は額に手を当てながら、深いため息をついた。


「アイゼル、ガルド……お前ら、こんなとこで……何してんだ、まったく。」


陸虚は顔をしかめながら、倒れ込んだガルドの様子を覗き込んだ。


「おいおい……その顔、まさかさっきの空間潮汐に巻き込まれて――負傷したんじゃないだろうな?」


そう問いかけた瞬間――


「はぁ!? そんなわけないだろ!」


元気よく飛び跳ねるように立ち上がったのは、隣のアイゼルだった。


「オレたちは無事だって! 心配すんな!」


……ドサッ。


「あ。」


勢いよく立ち上がった瞬間、アイゼルが支えていたガルドがそのまま地面に倒れた。


「ぐっ……うぉぉぉぉ……」


ガルドの顔は、さっきよりも数倍苦しそうになっていた。


「うわっ!? わ、悪い! ごめんごめん!」


アイゼルは慌ててガルドをもう一度抱き起こしながら、必死に言い訳する。


「ち、違うんだって! ケガじゃない! こいつ、ただ――」


「……酔っただけなんだ……」


「……」


「……え?」


陸虚の表情が、一瞬フリーズした。


「……?」


「う、うん……この人、船苦手なんだよ……ずっと揺れてると、目も開けられないぐらいで……」


「………………」


隣で様子を見ていたリュミエールが、ふっと堪えきれずに笑みをこぼした。


「ふふっ……ガルドさんに、そんな一面があったなんて。炎の獅子で見せた強さからは、ちょっと想像できませんわね。」


ガルドは顔を青くしながら、言葉も出せずに手だけをぱたぱたと振る。


何か言いたげではあったが、あまりの気持ち悪さに声すら出せないようだった。


その様子を見つめながら、陸虚はふと考えるような顔になり、言った。


「……じゃあさ、ガルドのことはリュミエールに任せるよ。僕とアイゼルは、ちょっと“逆さ海”の方を見てくる。」


リュミエールは不意を突かれたように、目を瞬かせた。


そして――ぽっと頬を染め、恥ずかしそうに視線を逸らしながら、こくんと小さくうなずいた。


「……ええ、わかりました。気をつけてくださいね。」


その仕草に、陸虚は少しだけ目を細めて微笑む。


だが――その空気をぶち壊すように、隣から間の抜けた声が飛んできた。


「だ、ダメだって! シフさんに言われてるんだ、“この人を一人にするな”って! オレ、ちゃんと任務あるし!」


「うるさい。」


パァンッ!


「いでっ!? またっ!?」


返事より早く、アイゼルの頭に陸虚の手が落ちた。


「いいからついて来い。しばらく借りるぞ、お前の“ガーディアン魂”。」


「な、なんだよそれ……!」


「じゃ、リュミエール。またあとでな。僕、逆さ海が終わったらちゃんと学院にも行くから、校長に伝えといてくれよ!」


「――待ってください、陸先生。」


立ち去ろうとする背中に、リュミエールの声が追いかけてきた。


陸虚が振り返ると、彼女は懐から何かを取り出していた。


それは、淡い光を放つ青緑色の――海螺だった。


「これ、差し上げます。今後の連絡用に使えるものです。」


「ほう、これは……?」


陸虚は興味深そうに海螺を手に取り、角度を変えながらじっと眺めた。


「南海周辺で使われている、遠隔通話用の魔導装置です。


魔力でお互いの“波”を記録し、一定距離以内なら会話が可能になります。」


「へぇ、便利だな……」


「それで――もし最近、この近海で何か身につけているものがあれば、教えていただけますか?

そちらの魔力波を記録して、私の端末とリンクさせますので。」


「……えーっと……」


「じゃあ……これでもいいかな?」


そう言いながら、陸虚が懐から取り出したのは、一枚の奇妙なカード。


それは以前、港町で出会った謎の女から渡されたもの。


中央には巨大な海亀と人魚、周囲には無数の海洋生物が描かれている。


「……奇妙なデザインですね。」


リュミエールは目を細め、絵柄をじっと見つめた。


しばらく黙っていたが、やがて頷いた。


「……ええ、大丈夫です。これなら魔力反応も十分。リンクに使えます。」


そう言って、彼女はカードを受け取り、そっと胸元の小さな鞄にしまい込んだ。


「では、お帰りの際に返却いたしますね。」


「おう、よろしく頼むよ。」


陸虚は軽く手を振り、踵を返す。


「……じゃ、他に何もなければ――そろそろ出発するわ。」


その言葉に、リュミエールはわずかに唇を開いたが、結局何も言わず、小さく微笑んで頷いた。


「……ふふっ、はい。お気をつけて、陸先生。」


銀髪を風に揺らしながら、リュミエールは静かに手を振った。


その笑顔を背に、陸虚とアイゼルは、南の“謎”へと歩みを進めていく――。

仕事関係で週二回更新を変更しますので、ご理解頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ