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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第七章 南海群島
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第一百八話 偶然の出会い

(ヤバいヤバいヤバい!!)


完全に動揺した陸虚は、背後のローストチキンを守るように抱きかかえながら、冷や汗をたらした。


(このままだと不法侵入がバレる……しかもチキン付き……!!)


「……こ、これはその、あの……」


守衛が一歩、踏み出す。


「すみませんが、そちらを見せていただけますか?」


(……くそ、こうなったら一瞬で気絶させて、記憶を改変して……いや、それはさすがにやりすぎか? でも他に方法が……!?)


陸虚の脳内会議がフル稼働する中――


事態は、思わぬ方向へと転がっていく――。


――その時だった。


「――その者は、私の助手です。夜食を取りに行かせただけですよ。」


澄んだ声が、静かな甲板に響いた。


守衛がその声の方を振り返ると、そこには優雅な佇まいの少女が立っていた。


月光に照らされた銀髪、気品あるドレス、そしてその瞳はまっすぐに陸虚を見ていた。


「リュミエール姫様……っ! し、失礼いたしました!」


守衛は驚愕とともに直立し、深く頭を下げた。


「姫様のご関係でしたら、まったく問題ございません。私はこれで失礼いたします!」


ぺこぺこと頭を下げながら、守衛は足早に立ち去っていく。


(……助かった……!)


陸虚は心の底から安堵の息を吐きつつも、少女の名前にふと引っかかりを覚えた。


「リュミエール……? どこかで聞いたような……」


そんな彼の耳元に、やれやれといった様子で少女が歩み寄り、小さな声で囁いた。


「……陸先生。いったい何をしていらっしゃるんですか?」


「え……いや、その……」


「校長先生から、きちんと招待状と乗船券をお渡ししたはずですが……まさか、忘れ物ついでに“生活体験”でもなさってたんですか?」


その言葉には、呆れと優しさ、そしてほんの少しの茶目っ気が混ざっていた。


陸虚はじっと彼女の顔を見つめ――そして、ようやく思い出した。


(……ああ、見たことある。たしか、学院試合の時に……)


メイヴィレーナ融合魔法学院の学生代表として、学生部門で優勝を勝ち取った人魚。


そしてリセルの兄――ガルドとなにやら親しげに話していた姿が記憶に残っていた。


「……あー、リュミエールさん、ですよね。いやはや、お久しぶりで……」


陸虚はぎこちない笑みを浮かべながら、チキンを抱えたまま頭を下げた。


「その……乗船券を、どうやら忘れまして……。でもどうしても“逆さ海”が見たくて、つい……」


「……つい?」


リュミエールは両腕を組み、冷ややかな目線を送ってくる。


「それで……まさかとは思いますが、あなた、船の外側に――」


ちらりと船の左舷を見て、彼女は小さくため息をついた。


「……しがみついていた、とかじゃないですよね?」


「い、いや……しがみついてたっていうより……」


陸虚は目をそらしながら、ぼそぼそと弁明を始めた。


「ちゃんと、座れる場所では……あった。結界も張ったし、安全性はバッチリだったし……!」


「……」


「では……私の部屋にいらっしゃいませんか? 船長には私から説明しておきます。校長先生の大事なお客様ですし。」


そう申し出るリュミエールに、陸虚は手をブンブン振って全力で否定した。


「い、いやいやいや、それはちょっと……!」


「……?」


「いや、ほら、そっちの船室って……たぶん気まずいだろ? なんかその、“関係者枠”みたいなやつ、苦手なんだよ、僕。」


陸虚は目を逸らしながら、汗をかきかき続けた。


「大丈夫、大丈夫。こっちのスタイル、けっこう気に入ってるし。迷惑もかけない。静かにしてる。ほら、もう行くから!」


そう言うなり、リュミエールの返事も待たず、陸虚は結界の下へとひらりと飛び降りた。


「……ちょ、ちょっと!? 陸先生っ!」


慌てて声を上げる彼女の前で、陸虚は片手をひらひらと振りながら、格子の中へと戻っていった。


「じゃ、また後で~。夜風が気持ちいいからさ~」


「……はぁ……」


リュミエールは呆れ半分、苦笑半分の顔でその背中を見送った。


「……あの人、本当に何者なのかしら。」

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