表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第七章 南海群島
107/123

第一百五話 予言

南風が心地よく吹く午後。


陸虚は街角の小さなカフェの前にある木製のベンチに腰掛け、広げた南海諸島の地図をじっと見つめていた。


「……船はここから出て、途中の島に寄港して……ふむ、潮の流れ次第か。」


そんな時だった。ふと気配を感じて顔を上げると、そこに立っていたのは――黒いフードに身を包んだ、どこか神秘的な雰囲気の女性。


まるで物語に出てくる“女巫”のような風貌だ。


「……若いの、予言って、興味あるかい?」


「ほう? 怪しいな……でも、面白そうだ。」


陸虚はにやりと笑って、近くの店員に手を挙げた。


「すみません、彼女にも一杯。お好きなものを。」


「へぇ、なかなか気が利くじゃないの。じゃあ――特別に教えてあげようかね。」


女はグラスを受け取ると、まるで呪文のように、低く静かな声で語り始めた。


「深海の底にて、虚空は目覚める。


やがて黒き裂け目が開かれ、海を喰らい、空を蝕む。


水は引き、命は干からび、南海はその全てを奪われるだろう。


蒼き楽園は虚無へと還り、そこはもう、海ではなくなる――


そこは、虚空の領域。」


陸虚は地図をたたみながら、顎に手を当てて少し考え込んだ。


「――面白いな、その予言。で、その先は?」


そう尋ねると、女はにやりと笑うだけで、言葉を続けなかった。


代わりに、懐から分厚い束を取り出す。それは不思議な絵柄が描かれたカードの山だった。


「さ、引いてごらん。運命の導きに身を任せてみな。」


「……なるほど、そういう流れか。」


陸虚は一枚を引いた。


そこに描かれていたのは――


大きな海亀の上。その真ん中には、神秘的な瞳を持つ美しい人魚。


その周囲を、様々な海の生き物たちが円を描くように取り囲んでいる。


「……これ、どういう意味なんだ?」


カードを眺めながら首を傾げる陸虚に、女は肩をすくめ、微笑んで言った。


「それは――ご自身で読み解くものさ。」


そしてすっと手を差し出すと、笑顔のまま言い添えた。


「ご愛顧、感謝いたします。一枚一回、一金貨でございます。」


「……はぁ? 一枚で金貨一枚? それボッタクリだろ!」


陸虚は椅子から勢いよく立ち上がり、呆れた声を上げた。


「なんでそんなもんに金貨が一枚も必要なんだよ。強盗か、あんた?」


だが、女はまったく動じる様子もなく、にこにこしたまま言った。


「……あら、払いたくないのかい?」


その瞬間、左右の路地からごつい筋肉の男たちが二人、無言で現れ、陸虚の両脇を固めるように立った。


「……チッ、これって、いわゆる“あれ”ってやつか。」


状況を察した陸虚は、内心でため息をつきつつ、指先に魔力を込め始める。


(仕方ねぇ、やるしかないか……)


だが――


ピィィィィィーーーーッ!!


高く鋭い笛の音が、街の喧騒を裂くように響いた。


「止まれ! 動くな! この詐欺グループ、また観光客を狙っていやがったな!」


怒号とともに、数人の都市警備隊が駆けつけてきた。


女が警備隊の姿を見た瞬間、態度が一変した。


「……おっと、これはマズいわね。」


そう呟いたかと思うと、筋肉男たちと一緒に一目散に逃げ出した。


だが――すれ違いざまに、彼女はふいに陸虚の手をつかみ、何かを押し付けてきた。


手のひらに残されたのは――奇妙な模様のついた貝殻だった。


陸虚が呆気に取られてその貝を見つめていると、女は振り返りざまに意味ありげな笑みを浮かべた


次の瞬間、彼女たちは人混みに紛れて姿を消した。


「……なんだったんだ、あれ。」


ぼそりと呟いたところで、さっきまで注文を取っていた店の侍者が慌てて駆け寄ってきた。


「お客様、大丈夫ですか!? 実は……警備隊を呼んだのは私なんです。あの連中、最近ずっと観光客を狙って詐欺まがいの商売をしてて……こちらでも警備は強化してるんですが、なかなか捕まえきれなくて……本当に、申し訳ありません!」


「……ああ、助かった。ありがとう。」


陸虚は貝殻をそっとポケットにしまいながら、深く考えを落ち込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ