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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第六章 氷原
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第九十九話 誅邪(中)

だが——


「ぐああああああッ!!」


氷龍王が頭を抱え、残酷な記憶を思い出し、再び暴れ出した。邪神の力が突如として強まり、引き出されていた瘴気が逆に鎖を巻き込んで、じりじりと体内に戻ろうとする。


「だめだ! このままじゃ——!」


そのとき。


「まったく……仕方ないのう」


ヴァルゼリナがぽんっと懐から、金色の宝石を取り出した。それは年季の入ったが、ピカピカ輝いている。


彼女はそれを、氷龍王の足元にぽとんと投げ落とす。


「アイス。返してやるぞ……お主の、大切だった宝物じゃ」


コロン、と転がった宝石が氷の床に当たる音とともに、氷龍王の動きが止まった。


その瞳の奥が、微かに揺れる。


(あれは……おれの……)


記憶の断片が、痛みとともに氷龍王の中で交錯する。今にも引き裂かれそうな精神の中で、かつての「大切な何か」が静かに息を吹き返していた——。


陸虚はすぐに判断を下した。すぐさま陰陽金丹を演化し、手のひらから造化の息を放つ。その柔らかくも力強い気息が氷龍王を包み込むと、彼の瞳に再び光が戻り始めた。


その視線の先には――


白衣を纏った一人の青年が、柔らかな微笑みを浮かべてこちらを見つめていた。


「……今だ、もう少し!」


氷龍王の中で暴れる邪神の気配がわずかに弱まり、全員が握る鎖にもそれが反映されたかのように、抵抗が一段階軽くなる。


だが、喜びも束の間——


「……クッ、まだ……残ってやがるか!」


鎖の先端、邪神の“核”と思しき部分が、氷龍王の体内にしぶとく張り付いて離れない。氷龍王の顔が再び歪み、咆哮と共に全身から黒気が逆流する。


それに引かれるように、せっかく引き抜いてきた鎖が、またじりじりと体内へと引き戻されはじめた。

陸虚は歯を食いしばりながらも、なお策を巡らせる——


「ダメだ……このままじゃ……!」


「くそっ……あと少し、ほんの少しなのに……! 一体、何が……!? ――そうだ、ティリオンだ!」


陸虚の目が見開かれる。


「ティリオンの気配……何か、それに関わる物は……!」


一瞬の沈黙のあと、陸虚は拳を強く握りしめた。


「……あった!」


ふと閃いた陸虚はティアリアの枝を作った眼鏡を外し、全力でその魔力を演化させた。やがて、眼鏡はティリオンの種となり――彼はそれを氷竜王へと投げつけた!


ティリオンの種が触れたその瞬間、氷竜王の瞳は完全に澄み渡った。


懐かしい気配が彼を過去の記憶へと導いていく――


雪舞う氷原の上、三人の若者が茶を酌み交わしながら笑い合っていたあの頃。


失われていた最後の欠片が、ようやく彼の心に戻ってきたのだった。


「今だっ! みんな、引けぇぇぇ!!」


陸虚が渾身の力で叫んだ。


――ゴォンッ!!


重く鈍い音とともに、ついに邪悪な気配の源が引き抜かれた!


天外の邪魔――その黒き存在が、ズルズルと現世から引きずり出される。


邪念を失った氷龍王の顔に、ふっと安堵の笑みが浮かぶ。


そして次の瞬間――


「……やっと楽になった……」


そう呟くようにして、彼はその場に崩れ落ちた。


引きずり出された邪神の本体は、黒い瘴気のような塊だった。


その異様な闇が空中で渦を巻き、まるで生きているかのように蠢く。


そして、そこから響いてきたのは――ねちっこく、歪んだ声。


「クク……この役立たず、深淵に身を委ねることすらできぬ愚か者め……」


「いいさ、その代わりに――こいつの家族を、全部“怪物”に変えてやる。なぶって、苦しめて……」


「その時の顔を思い浮かべると、ゾクゾクしてたまらんなぁ……クククッ!」


その声には、まさに“悪意”そのものが凝縮されていた。


そう叫ぶやいなや、邪神の塊は咆哮を上げながら突進してきた!


「来るなら来いっ!」


陸虚は前に一歩踏み出し、右手を高く掲げて叫ぶ。


「――待ってたんだよ、てめぇみたいな奴を!」


「《誅邪神雷ちゅうじゃしんらい》!」


炸裂したのは、太陽の如き純陽の雷霆。


天を裂くほどの轟音と共に、燦然と輝く雷撃が直撃した!

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