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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第六章 氷原
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第九十八話 誅邪(上)

封印の結界が砕け散ると同時に、陸虚たちは吹き荒れる冷気の奔流の中を突き進んだ。


目の前に現れたのは――


巨大な氷の間に横たわる、一頭の銀白の巨龍。


その身体は黒い瘴気に覆われ、


かつて威厳と理性を湛えていた瞳は今や血のように紅く染まり、


凶獣のごとき殺意に満ちていた。


「……あなた……!」


グレイシアは膝から崩れ落ちそうになりながら、震える声でその名を呼んだ。


「間に合わなかったのか……」


その瞬間、


――ガァアアアアアアアア!!


凄まじい咆哮が氷窟に轟き、魔力の奔流が周囲をなぎ払った。


「父上ぇえええええっ!!」


アイゼルが悲鳴のように叫ぶ。


その目に、決して消えていない、かすかな理性の光を見た。


「まだだ……まだ、父上は完全に乗っ取られていない……!」


確かに、今のアイスは凶暴で危険な存在だった。


だが――


その動きには迷いがあり、圧倒的な力を持つ7級の威圧も感じられなかった。


「……力が……落ちてる?」


陸虚は瞬時に見抜く。


「そうだ、まだ……完全に邪神に奪われたわけじゃない。それどころか、きっと……自分自身と戦ってる!」


その言葉に、グレイシアの瞳にも光が戻る。


「まずは動きを止めるんだ! 僕が秘法で邪神を引きはがす!」


陸虚が叫ぶと同時に、小花が地面に降り立ち、瞬時に術式の構築を開始する。


その背後で、三頭の龍が一斉に咆哮をあげ、再びアイスに向かって飛びかかった。


「アイスッ! 目を覚ませぇえええっ!!」


ヴァルゼリナが先陣を切って口から灼熱のブレスを放ち、


それに続いてアイゼルが凍気のブレスで動きを封じる。


グレイシアはその隙を狙って、巨大な氷の鎖で氷龍の四肢を拘束しようとする――


しかし――


「――ッ!? あぐっ……!!」


「きゃあっ!」


氷龍が怒りの咆哮を放ち、


暴風のような魔力が炸裂した。


三頭の龍はまるで紙のように弾き飛ばされ、氷の壁に激突して倒れ込む。


陸虚は術式を刻みながら、噛みしめるように呟いた。


確かに力は落ちている。しかし、邪神の干渉で力が歪んでいる分、読めない。


まるで暴走する自然災害のようだ。


「頼む……もう少し……もう少しだけ耐えてくれ……!」


目の前で何度吹き飛ばされてもなお、立ち上がっていくヴァルゼリナたち。


その姿に、陸虚の拳が震える。


「僕も……行きたいのに……!」


しかし今、彼にできるのは――


一刻も早く「術式」を完成させ、邪神の根を氷竜王から引き剥がすこと。


「……くそっ……急げ、僕……急げ!!」


蒼白な炎が、静かに陸虚の周囲に立ち上り始めた。


それは、次なる“奇跡”の前兆だった――


グレイシアは氷龍王の巨大な身体にしがみつき、その爪が自分の体を容赦なく切り裂こうとも、決して離れなかった。氷の鱗に叩きつけられ、翼は裂け、肌は血に染まる。しかし、それでも彼女は諦めなかった。


「あなた……覚えてる? 初めて花畑で一緒に転がった日のこと……あの時、あなたが笑った顔、今でも覚えてるのよ……」


その声は、震えながらもどこまでも優しく、愛おしい記憶を紡ぎ続けた。


やがて、狂気に染まった氷龍王の動きが徐々に鈍り、その紅い瞳にも一瞬、迷いと苦悶の色が浮かびはじめた。


「今よっ!」


陸虚の術式がついに完成。空間に浮かぶ符が一斉に輝き、氷龍王の身体に向かって一本の漆黒の鎖が鋭く飛び込んだ。


鎖は龍の心核に突き刺さり、そこから黒い瘴気のような物体が、ぐぐっと引きずり出される。


「出ていけ——これは、おまえの居場所ではない!」


陸虚の一喝とともに、邪神の影がついに姿を現す——。


陸虚は鎖にしがみついたまま、必死に声を張り上げた。


「みんな、攻撃をやめて! 今は引っ張るんだ、力を貸してくれ!」


グレイシア、アイゼル、ヴァルゼリナ、それぞれがその言葉に応じて、鎖に手(または爪)を掛ける。全員が声を上げながら、渾身の力で邪神の本体を引きずり出そうとした。


「うううっ……っくそ、こいつ……!」


一歩、一歩と、黒い瘴気が引きずられていく。

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