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第34話

 新天地で海老津が生活を確立しようとしているそのころ、王国では。


 海老津が船から消えたんと同時に大王イカの襲撃が収まりよった。あれから大王イカの出没情報も聞かんし、海老津と相打ちになったいう説が濃厚や。はじめのうちこそ王国も連邦と共同で捜索をしよったが、もう最近じゃかたちだけ船を出してその辺を回ってしまいや。


 俺と古賀君は訓練に身が入らんようになってしもた。なんやかんやアイツが一番まじめに訓練しよったし、つられて俺らもがんばっててんな。ほんなら異世界で活躍できる気になって、夢みたいに浮かれて危険な任務に飛び込んでまいよったんや。しょうみの話が、三千コルナぽっちで命なんかかけられるか。


 それでも古賀君みたいに、いい仲でもおればまだ楽しめるわ。こっちは兵舎と修練場の往復でひたすら灰色の毎日や。休みというたら昼まで寝てあっちゅう間。たまにアルが酒に付き合うてくれるんやが、コイツがまたしみったれた酒を飲みよる。泣き上戸か知らんが、酔うたらいつも泣いて


「私がしっかりしていれば、海老津は死ななかった」


 これや。あんな霧の中、大王イカみたいなイレギュラーに遭うたらしゃあない、誰も悪ない言うても聞かん。ほなどうしたいんや言うたら黙る。せやけどなぜか誘いにきよんねんな。わけがわからんやっちゃでホンマ。


 錬金術局のパローネ局長はんも、しばらくは気を遣ってか、ようお茶に誘ってくれはったわ。気晴らしに素材探しの散歩でもどうや、こんな発見してんけど異世界との違いはどうやと気にかけてもろてんけど、だんだんそれも重荷になってな。何度か断ったら察してくれたんか、最近はちょっと控えてもろとるわ。


 で、コイツや。コイツだけはかなんわ。俺が沈んどる時に限って来よんねん。


「あたしが来たわよ。ほら、突っ立ってないでお茶でも出しなさいよ。なによ、お茶もないの?はあ、もう仕方ないわね。じゃあいくわよ。さっさとしなさい」


 押すな押すな。魔導車に乗りゃあええんやろ。しゃあない、気は進まんが行くしかないわ。


「はあ、ホントしけてるわね。アンタ最近鏡見たことある?ひっどい顔してるわよ」


「生まれつきこんな顔や。ほっときや」


「放っとけないわよ。海老津がいなくなってからアンタ、ずっとこの世の全てが厭ですって顔をしてるわ。ほら、着いたわよ。降りなさい」


 モダンなデザインの喫茶店や。アベックが仲良うデートを楽しんではるわ。アンナは顔が知れとるし、ちょっと奥の個室に通してもろた。


「えらい気にかけてもろてすんまへんな。こんなしょうもないもんに付き合わせて申し訳ないわ」


「思ってもないこと言わないで。ねえ、アンタ楽しいことないの?やりたいこととかさ。聖女をやってればわかるの。アンタ、死んじゃう人の顔してるもの」


「教会所属の聖女はんに言うのも酷かも知れんけどな、あの件前後から大司教の圧が強うてな。討伐の人手も減らされる、資金もよう回ってきいひん。アイツがおらんようになってから厳しいねん」


「わかってるわ。あの大司教も増長しちゃってやりたい放題だし、教会の上の方の動きがおかしいわ。あたしも今、自分でいろいろ調べてるところよ。でも今はアンタの話よ」


「楽しいこと言われたかて…俺な、ほんま三人の冒険が好きやってん。俺ら別に勇者と違ごてもええし、それでも鍛えて装備そろえて、俺らなりの成長があって、手ごたえがあってん。それが一瞬でコレや。何を間違うたんか、あの時こうしとったらっちゅう選択肢すらあれへん。古賀君みたいに好きな女のためってモチベーションもないし、チカラ入らへんねん。


 …なんや自分、なんか言えや。俺ばっか話して恥ずかしいわ」


「ふふ。照れないで。アンタの話を聞きたかったんだから。…ねえ、もし海老津がまだ生きてるかもって言ったらどうする?」


「何を言い出すねん。王国の捜索も実質終了やろ?今さら何があんねん」


「ちょっと待ちなさい。いま人払いをするから」


 胸元からペンダント出して、なんや魔法をかけよる。戻す時にちらっと見えた首元の肌がまっ白や。見たらあかんもんを見たような気がして、慌てて目をそらしたわ。


「ん、これでいいわ。それでね、王国には報告されてないんだけど、大王イカの死体が連邦の砂浜に打ち上がってたらしいわ。それも無傷の」


「それってお前、海老津の!」


「お前って呼ばないで。そう、少なくとも海に落ちて大王イカを倒すまで海老津は生きてた。その話を聞いてから、あたし何度か失せもの探しの魔法を使ったわ。ずっと空振りだったけど、一昨日おとといはじめて検知に成功したのよ」


「どこや、どこにおんねん海老津!」


「焦んないで。遠くてはっきりとした場所までは分からないんだけど、教国の近くで検知したわ。教国に連れていかれたのか、それともたまたま教国の近くにいるのか。ねえ、あたし近々教国にまた研修で行くの。護衛を探してるんだけど、誰か候補はいるかしら」


「なんやねん、変な気ぃ使こて。けったいな言い方しなや、行くに決まってるやろ」


「よかった。これでまだ拗ねてたらぶっ飛ばすところだったわよ。じゃあ、細かいことが決まったら教えるわ。ねえ、念のため言っとくけど、この話はまだ誰にもしないで。古賀君にもよ」


「なんでや、誰にもは分かるけど、古賀君はええやろ」


「詳しくは言えないけど、あたしにも誰を疑うべきかまだ分からないの。古賀君は大丈夫なのはわかってるけど、リーマちゃんや騎士団、その先に誰かつながってないか、まだ見極めてるところなのよ。その点アンタは行き止まりだから大丈夫だけどね」


「はっ。どうせ友達なんておれへんわ。まあええ、この件はまだ古賀君にも言わんとくわ。とにかく決まったら教えてや。頼むで。ああそうや、お礼にアメちゃんあげるわ。気に入っとったやろ」


 俺は魔力切れ寸前までキシリトールのアメちゃんを出して聖女に渡したった。

 海老津が生きとるかもしれん。まだ限りなく可能性の話やけど、俺の気持ちに灯がともるには十分やった。


 魔力が足りんと、ちょっとフラフラすら頭を振って歩く帰り道、俺は自然に出てくる笑い声を止めることができんかった。

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