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第32話

 ドワーフのドルゲン、デネボラ夫妻に刀を作ってもらった俺は、ビットーリオに頼んで狩りに同行するようになった。雪深い山中を黙々と歩いては、雪ウサギやイタチのような小動物、それらを狙う中型の肉食獣を獲って、毛皮や肉を売ったり集落で消費する。


 皆、見返りを求めず、ただ好意で世話をしてくれているのはわかっているけれど、返せるものがなかった俺はようやく村に貢献できるようになって心のつかえが取れた。


 新しい刀の切れ味はすばらしく、はりきった俺は毎日狩りに精を出した。あまりにがんばりすぎてビットーリオに狩り過ぎだと叱られた。生態系を壊すレベルだったらしい。反省した。大型の獣や魔獣もビットーリオと二人で何度か狩った。


 季節がめぐり森に新芽が出てくるころ、エルフの隠れ里からエルフの一団が引っ越してきた。もちろん先頭にいるのはアルターリアだ。


「あ、海老津さん。エルフの里の皆でこちらにお世話になることにしました。よろしくお願いしますね。ところでビットーリオの家はどれなの?」


 引っ越しのあいさつもそこそこに、本題に切り込んでくるアルターリアさん。目が真剣すぎて怖いよ。他のエルフの皆さんも普段見ないアルターリアさんの表情に困惑している。


「おねーちゃんたち、こんにちは。ミィちゃんはミィちゃんだよ。エビのお兄ちゃんとお友だち?だったらミィちゃんもお友だちだよー」


 大人数の来訪に興奮したミィちゃんが、ネコミミをぴこぴこさせながら走ってくる。


「こんにちは、ミィちゃん。私はアルターリアよ。ビットーリオのおうちに住もうと思ってこの村にきたのよ。よろしくね」


 もはや欲望を隠さないアルターリアさん。


「じゃあおねーちゃんもミィちゃんと一緒にリオと住むの?やったー!」


「え、ちょっと待って?どういうこと?私聞いてないんだけどそんなの海老津さん。ミィちゃんとビットーリオが同居?なんなの、彼子持ちなの?ねえビットーリオは今どこにいるの結婚してるの私どうなるのねえ」


「ちょっと落ち着いてアルターリアさん!ミィちゃんもびっくりしてるから!」


 スイッチの入ってしまったアルターリアさんに驚いてミィちゃんのしっぽがブワッと3倍に膨らんでいる。俺はミィちゃんを抱っこして落ち着かせながら、一方で瞳孔の開いたアルターリアさんをなだめる。


「え、あ、ああ。ミィちゃんごめんなさいね。お姉ちゃんびっくりして大きな声出しちゃったわ。もう大丈夫よ。あとでビットーリオとお話しするからね。ほら、お姉ちゃんと遊ぼ?ねえ、お絵描きは好き?」


 とりあえずミィちゃんを懐柔する方向でいくようだ。俺は他のエルフさんたちに向きなおる。


「改めまして、この村に住んでいる海老津と申します。俺自身この村にお世話になって間もないので、代表ヅラして話すようなものでもないのですが、皆さんのご決断を歓迎いたします。平たい地面の住宅がお好みでないようなら、隣の森を住まいにしてよいと聞いていますので、お好みの場所にお住みください。家具など必要なものがあれば、村人と協力してお届けできるようにします」


 数人の物好きエルフが地面の家に住むことになり、空き家を案内する。そのほかのエルフたちは思い思いに隣の森の木に成長の魔法をかけ、自宅へと改装した。魔法で木が伸びるさまは見ものだった。


 夕方に戻ったビットーリオは、アルターリアに絞め殺されんばかりに問い詰められている。ミィちゃんのお母さんは人間の商人で、村のためにも行商をしていてたまにしかこの村に立ち寄れず、獣人のお父さんはミィちゃんが小さいころに異教徒狩りに遭い、帰ってこないそうだ。背景がわかり、アルターリアさんは手のひらを返したようにミィちゃんに優しくなった。


 なお、ビットーリオに同居は認められず、アルターリアはビットーリオ邸の裏にある空き家に入居することになった。


 こうして村は急に人口が増え、さらにエルフの結界で安全になり、ひとり当たりのやるべき仕事が減ったおかげで余裕ができた。俺は時間を見つけてはビットーリオに稽古をつけてもらう。


 ふざけているように見えて、魔王を自称するだけあってビットーリオは強い。正統派の剣術でも、トリッキーな動きで惑わせようとしても見切られ、相打ち覚悟のカウンターを狙っても俺の剣は届かない。毎日工夫をこらして挑むが、その差は一向に縮まる気配がみえない。


「リオがんばれー!エビのおにいちゃんもがんばれー!」


「はあ、乱れた髪もまたステキ。一緒にいると毎日新しい発見があるわね」


 今日もアルターリアとミィちゃんをギャラリーに打ち合う。オオカミちゃんは退屈そうにうしろ足で首もとをかいている。


 そこへウロコの生えたトカゲ獣人のルーチェルトがあわてた様子で走ってくる。彼は槍術を得意としていて、夜目が利くことから主に夜間の警備をしてくれている。


「クアッ!知ラナイ獣人タチガ、村ヲ乗ッ取ロウト来テイル。門ヘ急ゲ」


 発声器官が違うせいか、彼の言葉はたどたどしく聞き取りづらい。緊急事態らしいのでとにかく門へ急ぐと、ガラの悪そうな集団が門の前で騒いでいる。


「だけん、責任者を出さんかって!メシば喰わしたら俺らが村んことば守っちゃるって言いよったい。難しかことなかろうが。ほら、はよ門ば開けんね」


 薄汚れた野犬の獣人たちだ。用心棒として雇う見返りに食料を求めているようだ。


「うーん、アイツら一度村に誘った時は、気ままな暮らしがいいと断られたんだがなあ。獣人はできる限り保護したいが、態度が悪いのはいただけないな。海老津、ちょっと教育してやってくれ」


 ニヤリと笑って背中を押し出された。


 仕方なく俺は門の上に登り、野犬獣人たちを見下ろす。


「やあ、俺は海老津。この村の警備を担当している者だ。あいにく警備の仕事はこと足りている。他にできることはあるなら受け入れるが?」


 一番大きな野犬獣人の長が鼻で笑って


「せからしか。弱そうなナリで吠えよったらブチくらすぞ。キサン降りてこんか!」


「はっはっは、元気がいいな。ほら、ご指名だぞ海老津。行ってこいよ」


 まったくいい気な村長だ。

 俺はため息をついて門から降りると、野犬獣人達と向かい合うのだった。


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