The first action
人間は皆、因果の上で生きている。自分の犯した過ちを誰かが受ける。そしてその過ちはまた自分へと返ってくる。可笑しな話だが、それはあながち間違いではない。因果とは己の復讐さえも許すことはない。
ある日本の冬の寒い日、客層の悪いバーで、シングルスーツの上から紺色のコートを羽織った、どこか顔に渋みがある男が9mm弾の入った銃を持ち、命乞いをする膝をついた男に銃を突きつけていた。『家族を殺した奴はどこだ』膝をついた男は怯えながら言った『俺は何も関係ない!ファーザーの言われた通りにしただけだ!!』男は焦った顔をしてコートの男の顔を覗き込んだ。『そうか、、』と冷酷な表情を見せながらコートの男は手にしている銃でそこに今手をつき、倒れ込み、怯えている、目の前の男の足を撃った。そしてコートの男は言った『詳しく話を聞くとしよう…』そしてその二人はバーの奥のトイレに入っていった。
すべての野暮用が終わった後、コートの男は“SP5民間軍事会社”というところに電話をかけた。『片付けを頼みたい…』電話の相手は女の様だが、どこか思春期の男みたく、気さくそうに言った。『あいよ!!で、名前は??』コートの男は嫌がる素振りを見せながら渋々答えた。『ノマドだ……』電話越しに女の困った感嘆の声が聞こえてきた。『あー…本名は?』ノマドは『俺は本名は捨てた』ただこれだけ答えた。未だに相手の女は納得していない様子だったが、まぁ良いだろうと上から言うかのように、『分かったノマド!!』ノマドはこの数分の会話だけで相当疲れた気がしたが、家へ帰るわけにもいかないので、酒を頼むことにした。『なにか今日の残りの酒はあるか?』バーテンダーは言った。『な、ないです…』二人の間に気まずい空間が出来ていた。バーテンダーはせめてもの思いか、『そ、ソフトドリンクならまだありますが…』と言ったそしてノマドは『なら、ジンジャエールを』と言った。ノマドはその味をよく味わうことができなかった。
時間がたち、バーの外には1台の車が止まっていた。その横には電話の話し口からは想像できないような綺麗なスーツと綺麗な顔をした髪の短い女が立っていた。『あなたがノマド??』『そうだ、…』ノマドは思っていた見た目とは違い、戸惑ったが片付けのためにバーの奥のトイレへと向かった。そこには痛々しさっきの男の死体があった。それを見た女は『こりゃぁまあひどくやったもんだなぁ』と死体の損傷具合から想像できる様々な暴力に恐怖を露わにしながらノマドへ言った。だがノマドは、『そんなことはどうでもいい。早く片づけてくれこっちも用があるんでな、―』ノマドは女の名前を聞くのを忘れていたことに気付き、聞こうとしたがその瞬間女は言った『葵だ。』名前と一緒に名刺をくれた。そこには彼女の名前、『黒崎葵』と、彼女の携帯の電話番号が書かれていた。ノマドは電話番号が書かれていることに驚きながらも受け取り、名刺をしまった。男の死体をなにかに詰めている葵にノマドは『もう帰ってもいいか?…今日は色々と疲れた』と言った。そういいながらも既に帰ろうとしているノマドを横目に葵は言った。『ああ、なんか用があったら名刺の番号にかけてくれ』『あぁ』とノマドは言葉にならない返事を返し、近くの駐車場へと歩いた。そしてほこりをかぶった黒色の車のキーを開け、ハンドルを握った。ノマドは運転しながら考えた。『あの男が言っていたファーザーとは何か?』『なぜ自分の家族を殺した事をそもそも奴が知っていたのか』湧いてくるのは答えの出ない問題ばかりだった。その答えを出そうにも今の疲れ切ったノマドには重労働だった。閑静な住宅街を抜けた先の10階建てくらいのマンションに帰り、飯を食べず、風呂にも入らずノマドは気絶するように眠った。
―『ノマドはまだ生きている?』声の低い、入れ墨の入った男が言った。『誰の情報だ』その問いに対して沈黙がありながら、一人の部下であろう震えている男が言った『は、はい、、確かに生きています……先程、一人が殺されました…』それに対し、入れ墨の男は機嫌の悪そうにしているのは明らかだった。『なぜ奴は今更家族を殺した犯人を探す?あの時奴はその場にいなかったはずだが…』入れ墨の男はやはり信じられないという様な顔をしながら、横に座る一人の女へ言った。『奴を殺せ。』女は顔を上げてそれはあのときノマドが電話し、話した女、『黒崎葵。』だった。『分かりました…ファーザー…ですがどうやれと?』入れ墨の男は面倒くさそうに口を開いた。『お前には“SP5”の特殊部隊がいるだろう、それかお前が自分の手で殺すか、だ。だが、簡単には殺せはしないだろうな。相手はあのノマドだからな。』そういって男は出て行った。
ノマドは朝になり、いつものルーティン通りシャワーを浴びた。ノマドは今日もまた犯人を探すため葵に連絡した。葵は昨日の様にやはり軽い感じの返事だったが、仕事場の中だからか昨日より少しだけ堅かった。『仕事を頼みたい。』『あー、どんな仕事だ?』『人捜しだ、裏社会でファーザーと呼ばれる奴を捜してほしい。』その瞬間葵は一瞬沈黙がありながら、『分かったよ、だが私の仕事が終わってからな』そういった話をした後、電話切った。仕事が終わるのはいつだろうと思いながら、ノマドは家に帰りまた眠った。それから何時間たったかは分からないが空は黄昏色になっていた。もうこんな時間かと思いながらも、ノマドは自分の携帯に葵から着信があったことに気づいた。急いで電話をかけ直し、話を聞いた。『なにか進捗は?』『ああ、あったんだが直接話したい。お前の住所を送ってくれ。』昨日であったばかりの人間に自分の家を教えるのは少し気が退けたが、話を聞くことの方が大事だったので仕方なく教えた。葵は『割と近いんだな、すぐつくから待っててくれ。』と言った。そして半ば無理矢理に電話を切られた。それからすぐ、明らかに良い車であろう高級車のエンジン音がし、あまりにもこの地域に似合うことのない音だったのでノマドは外へ出て上から下を覗き込んだ。その瞬間ノマドは違和感を覚えた。明らかに車が多いのだ。そして高級車の後ろをついてきている車は妙にゴツく、この土地で見るにはあまりにも違和感があった。彼女は一人で来るはずだ。こんな人捜しを他に頼むこともないだろう。その一瞬で導き出された答えは一つしかなかった。『やつがファーザーと関係を持っている…』そう小さく呟いて、急いで部屋に戻った。そして起こりうる最悪の事態に備えて部屋のクローゼットからPX4のカスタムモデル銃を取り出し、近隣住民に迷惑がかからないよう、サプレッサーをつけた。それをスーツの懐に隠した。そうしたうちにバルコニーに通じるインターフォンがなった。そこには下にいる者が映っているが、一人しか映っていない。『ここで逃すとファーザーの情報が無くなる。』そう思ったノマドはロックを解除し、通した。しばらくすると部屋の前のインターフォンがなり、葵を部屋に上げた。『結構綺麗だな~』に『一人しかいないからな…』『にしても一人なのに4部屋あるとは、ちと豪華過ぎやしないか?』なにかゴチャゴチャ言っているようだったが、机を挟んだ椅子に座らせた後、ノマドは話を切り出した。『で、ファーザーはいったい何者だ?』葵は突然の質問にビックリしながらも答えた。『あー奴と関わるのはやめておけ。奴と関わった人間は死体が残らないほど拷問されたあげく無様に捨てられる。奴はマフィアだ。ただのマフィアじゃない、麻薬カルテルとも関わりがある。世界各国のな。』今まででほ見たことが無いほどの葵の真剣な眼差しにノマドは少し驚いた。が、ノマドはまだ聞きたいことがあった。『協力者は?…そんな大物がただ一人で組織を回しているわけがないだろう。殺し屋の一人や二人、色んな軍事企業にも関わりがあるだろう。』鎌をかけたのだ。彼女がもし、ノマドの予想通りなのであれば、彼女は何かしらアクションを起こすはずだ。その瞬間、その部屋には二人しかいないはずの空間なのにも関わらず、なにかに銃を突きつけられた。ノマドは取り乱すことなく言った。『やはりか…お前は何かしらファーザーと関わりがある。そうだな?』葵はにやりと笑い、『調べたよ?あんたのこと、まぁ凄い人間なんだなあ…ファーザーに部隊を連れて行けと言われたときはどんな相手かと思ったが、あんた元々海外の傭兵部隊?にいたんだってな?そして辞めた後帰国して“ビジランテ”として市民のために戦った。それからー』『黙れ…』ノマドはただそれだけ言い放った。『あー分かってるとは思うけどあんたの周りは“光学迷彩”をつけた内の奴らがいるからね?動こうとするだけ無駄。』ノマドは自分の予想が当たっていたことに驚きもありながらこの状況をどうするかを考えていた。そのとき葵は通信越しに何か話していた。『どうしますか?』どうするかを聞くだけで会話が成り立っていると言うことは恐らく部隊の隊員にボディカムをつけているのだろう。そうしている内に、『はい、はい…分かりました。処理します』そして葵がノマドへ銃を突きつけた。そして練習のためか、脅しのためか彼の後ろにある花瓶を撃って見せた。その瞬間だった。ノマドは自分から突きつけられた銃に頭を押し返したのだ。その時葵は引き金を引いた。『カチッ………撃て…無い?…』そしてノマドは一瞬で葵の銃を奪い、自身の後ろにいるはずであろう隊員に対して葵を盾にするようにして銃を彼女に銃を突きつけた。これはノマド自身の銃への知識があったことによる出来事だった。ノマドは淡々と説明した。『俺たちの使う銃には安全機構がついてる…一度銃を発砲すると銃内のガス圧が上がる。そして俺が銃を押し出すとガス圧が下がらず撃てない…薬室も開かない……』ノマドはこのまま敵をどう倒すかという考えになっていた。だが、『女を殺したらファーザーの情報への唯一の手がかりがなくなってしまう…』そうノマドは考えた。『……光学迷彩を解除しろ…ここにいる全員だ。…』そう言うと、次の瞬間には5人がこの場に存在していた。ノマドは『いけるな…』と心の中で確信した。次の瞬間、葵を自分の後ろへと投げるようにして壁にぶつけ、目の前にある机を前に蹴った。そしてそれに戸惑い、驚く敵の頭を懐に隠していた銃で一瞬で3人の頭を撃ち抜いた。そして近距離だったからか殴りかかってきた敵の一人を素早い動きで殴打し、もう一人の敵がノマドの事を撃てないよう今自分の手の内にいる敵を盾にして『な、…』どうすればいいか分からず戸惑っている敵を撃った。そして今自分が盾にした敵は『いや…だ…おねがい……』『パスッ』この部屋の中に銃弾の音が響いた。ノマドはまたやってしまった…というようななんともいえぬ感情が湧き上がってきた。そんな感情を脇目にそこに転がっている葵に言った。『詳しく聞くとしよう…』そうして開いたままのリビングと廊下を繋ぐ扉を強く閉めた。
『ここまでやられるとはな……』恐らくファーザー
であろう男は言った。これにとって葵が捕まるのは少しまずい事であった。ボディカムでみたノマドの身のこなしは恐らく自身の力をもってしても勝てない。そんな中葵が捕まった以上、自分の居場所がバレるのは時間の問題だったのだ。そんな彼には道は一つしか無かった。『拠点を変えるぞ…』そう言って自身の真っ暗な部屋を後にした。
『“やつ”について話すんだ……』『その前に離せよ、これを』そういって葵は自身につけられた紐をノマドに見せつけた。『お前が話したらな…』そいった会話をかれこれ1時間は行っていた。流石の葵も嫌気がさしたのか、ペラペラと話し始めた。『“あいつ”はそう簡単には見つからないよ。あいつはそこら中に手下を拵えてる。『そうか…で?だからなんだ…』その理由はノマドにとって家族を殺した犯人を捜す事をやめる理由にはならなかった。『恐らくもう拠点は変えてるだろうな』『それでいい…その場所を教えろ…』そうしてもう辺りは暗闇に包まれている中、二人は車を走らせた。車の中は二人にとってどうしようもないほど息苦しく、気まずい空間であった。そんな中、痺れを切らしたノマドはその重い口を開いた。『お前はなぜやつに手を貸す?』『言ったろ?ファーザーはどん事業にも手をつけてるって。人身売買もな。』『そう…か…』このときノマドは葵に対するなんともいえぬ感情と葵が裏切っていたことに対する少々の怒りに苛まれたのだった。そうしているうちに目的の現場に到着した。『思ったより綺麗だな。』『まあ表向きはね。』外観は白塗りのおしゃれなカフェのような感じで、恐ろしい裏社会の人間がいそうな雰囲気ではなかった。『なにつったってるんだ?こっちだ。』そう言って葵は、表のドアではなくその横にある錆びれたドアを開けた。『ギィィ』人が出入りしているような気配がない雰囲気だが、ファーザーたちならこの場所を選ぶだろうなと納得しながら、ドアを跨いだ。そこは地下に向かう階段が伸びていた。暗かったが、葵はどんどん進んでいく。『おい遅いぞ』『黙れ…』葵にたいして小さな声で返答したが葵には聞こえていたような気がした。そして降りた先には光が暗い階段の中に差していた。その先を抜けると、そにには映画で見るような、ザ・マフィアといった感じの空間が広がっていた。『趣味が悪いな』『まぁそう思うよな、私もずっと思ってたよ。』『少し時間をくれ…』『ああ、いいぞ。』葵が上から目線で話していることに戸惑いを感じながらも、自身の真正面にある、如何にも偉い人間が座りそうな場所に歩いた。そこには紙が置いてあった。『高橋知稔』と書いてあった。ノマドは動揺した。『俺の旧友だ…』ノマドは静かながらもかなり焦っていた。この人物は彼にとって数少ない友だった。それもかなり大事な。そこに面倒くさそうな葵が歩いてきた。『知り合いか?まあ名前がバレてるならもうすぐだろうな。』そこには名前しか書かれていないが、態々名前を丁寧に見える場所に書いて置いてあるということはそういうことであろう。『どこだと思う………??』『私が知るわけねえだろ。バカ』『黙れ…』この会話を何度かしているような気がした。だが、そんなことより彼にはもっとやるべきことがあった。『調べる伝はあるのか?…』『まぁ私にゃあ無理だな。紹介してやるよ、良い人間を。』そうしてやっと帰れそうで先程より足取りが軽い葵について行くようにして建物を出た。『で、その人物は?』『まあ焦るなって、今日はもう遅いし一旦解散だ。』『そうか…分かった。だが裏切ったらわかるな?…』『そんなこと言わなくてもわかってるって。じゃ』そう言って半ば無理矢理話を切り上げ解散した。ノマドもここ最近で疲れが溜まっていたので帰って寝た。
次の日の朝、いや、昼に近い朝にノマドは葵に連絡した。『で?昨日の人物を教えろ。…』『ああ、“サイファー”という人物だ。ハッカーをしてる。番号と住所を教える。が、死ぬなよ?』その自信を不安にさせるようなことを言って起きながら、葵はプツッと切ってしまった。だが自身の友が死ぬよりは良いと思い、向かうことにした。