6 神様と巫女さん
五日目。一度目の学校襲撃から未だに目標は見つかっていない。もういないだろ。勘違いしてる説に賭けてもいいよ?賭けるものないけどさぁ。ここ数日の成果といえば、近辺で魔力以外の何かを使用した形跡があっただけ。本人に繋がるようなものは何一つないし。そんなこんなで10件目行ってみよう~。
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「ん...ここは....」
着いた場所は以前に助けた少女がいたところだ。校長(笑)がいなくなってからはなんにも関与していないが、どうなったか気になってはいたんだよね。
気づかれないようにゆっくりと近づいて見てみる。人が出入りしており、活気に溢れているようだ。炊き出しを行っているのか、料理の前にズラッと列ができている。いい匂いだ。豚汁かな?
警備も以前よりしっかりしており、塀が高くなっていて、高火力の銃火器を装備している人間が見える。明らかにあのおっさん一味がいらなかったんだなぁと思うと涙が出る。
校庭の隅には積み上げられた魔物の残骸があり、何度も襲撃があったのだろうと分かる。やはり知性のない魔物とある魔物の両方が送り込まれていたらしい。数が全然合わないと思った。それに...ここには何か特別感がある。何かに守られているような...誰かが見守っているような気配を感じる。
「ちょっと行ってくるよ。」
魔物達を待機させ、校門に向かう。
「すみませーん!逃げてきたんですけどー!」
「君は...あの時保護した高校生じゃないか。あれ以来見かけないと思ったら何していたんだ!」
以前に保護してくれた警察の人たちだ。最後に会った時は確か催眠かけて抜け出そうとしたところを見つかって...だったはず。一度面識があるためスムーズに行けるかと思いきや、今まで何をしていたかの質問責めに遭ってしまう。
「あ!お兄ちゃんだー!!!」
聞き覚えのある声だ。遠くから走ってきたのはあの時の少女、再び。嬉しそうな顔で全力疾走してくる。子供特有の足の回転率の早さに微笑ましくなる。
「やっと帰ってきた~!遊ぼーー!!」
勢いそのままに思いっきりどつかれる。元気なのはいいことだ。
「遅れてごめんね。あ、そういうことなんですみません。」
警察の人たちもちっちゃい子には勝てないのか苦笑いしながら手を振る。行っていいってことだな。急に生活が変わったんだ。特に子供はメンタルケアが重要になるだろう。仕方ない。少し付き合うか。
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数時間後。一緒に遊んだり、ご飯の準備を手伝ったりした後、空いた時間で聞き込みをしていた。ここに入ってくる前に感じた力といい、残りの件数的にもそろそろ手掛かりくらいは見つかってほしいものだが...。
「なんかすごそうな人見かけなかった?」
「んー?お兄ちゃん!!あとはーここにいる皆んな!」
これが尊いか。心の闇が洗い流されるようだ。浄化されそう。もうこの子じゃないのか?だとしたら観測班に睡眠を贈りたい。あなた方の目は疲れていると。
「あ、あとねー!いつもあそこでお祈りしてる人いたよー!」
...おっと、急に当たり引けたかな?指が指し示す先は小さな祠がある。校庭の隅にあり、草が生い茂って蜘蛛の巣が張っている。誰がどう見ても廃びれた古い祠だ。だが...あれこそがここを守っている要だ。近づけば近づくほどに力を感じる。
よく見ると光の粒子が跳ねている。触れてみると雪のように消えてしまう。優しく、包み込むような力。だが少し悲しさも混じっている。まるで祈っていた時の感情がそのまま伝わってくるような...。
「...ここで祈っていた人はどこにいるか分かるかな?」
「たぶんねたぶんね!あっちに神社があるの!そこからいつも来てくれるの!」
ふむ。確かにこの辺には神社が一つある。
「ありがとうね。試しに行ってみるよ。」
「うん!お兄ちゃん良い人だから、お姉ちゃんと仲良しさんに慣れると思うの!!」
仲良しか。そうなれるといいんだけどねぇ...。こっち侵略しにきてるからなぁ...だいぶ無理そうか。いやほぼ無理だな。とりあえず話し合いで解決できるならな~。
小学校から徒歩20分程。住宅街の中に異彩を放つ長い石階段。前に何度か来たことがあるが、ここまでの重圧を感じたことはなかった。
おそらく頂上までにある3つの鳥居がここを守る役割を果たしているのだろう。一つ一つ潜るたびに何かしらの効力を喰らっている。体が重いし頭痛はするし魔力が抜けている感覚がする。
頂上まで上がりきると空気ががらりと変わった。まるで異質。ここの場所だけ空間が切り取られているような、冷や汗が止まらない。周囲を確認していると一人の巫女が落ち葉を掃いているのが分かる。後ろ姿から分かるのはただ一つ。...ロリだ。
「...だれ様なのです?」
驚いた。この巫女さんは気配がわかるのか。いや、静かなところで音がしたら誰か来たと思うか。
「...初めまして。下にある小学校から近くの神社を聞きまして。お祈りがしたいのですが、中に入ってもいいですか?」
「あぁ、お参りに来たのです?申し訳ねぇですが、今はちょっとご遠慮しているのです。」
巫女さんはこちらを見ることなく、箒を使ってちりとりに落ち葉を器用に入れている。...枯れ葉?今は夏のはず。確かに先ほどから肌寒いが...。
「...肌寒いでやがりますか?まぁ無理もねーです。ここは人によって温度が変わりやがりますからね。」
体感温度を調節できる魔法か?そんなの聞いたことないな。それにこの範囲全体に魔法をかけるとなるとそれなりに魔力が必要だ。やはり未知数な部分が多すぎる。
「そ、そうなんですね...。あ、ならお賽銭投げるだけでも...?」
「...そのくらいならとっととすませやがれです。」
お許しを貰えたようだ。子供の見た目の割には言葉に棘がないか?そういうの割と傷つくタイプなんだぞ!
傷心しながら一歩踏み出す。その瞬間、足が触れた地面に波紋が生まれ、石畳の隙間から生えていた雑草が枯れる。それと同時に周囲の扉が全て閉まり、空の色が変わり出す。
「...!!止まれ!!」
驚いて一歩後ずさる。防御魔法だろうか。それとも索敵魔法?魔法とは違う《《何か》》を感じる。これがこの世界の力か?
「...てめぇ様...人間なのです?てめぇ様が来てから気分がわりぃです。木々もざわついてやがるです。」
...さっそくバレたらしい。いや人だけどなんか人外扱いは違くないですか!?警戒心最大の猫のようにこちらを睨みつけてくる。一挙手一投足に注目が集まる。
「なんのことですか?僕はお賽銭を投げようとしただけで...。」
そう。あくまでも用があるのは正体不明の力の特定であり、ついでにお参りできれば何か分かるかもしれない。実際、こちらに来てから潜伏してる間は一切反応が無かったものの、ようやく手掛かりが掴めたのだ。手放すわけにはいかない。
「...嘘つきやがるのです。命、嘘つきは嫌いなのです。警告するのです。そこより先は神の領域なのです。こちらに来るというのなら命の保証はできないのです。」
巫女さんから光の粒子が溢れ出る。際限なく溢れ出るそれはまさに強者の証。感じ取れるのは魔力と同等の何か。いや、本質は魔力に近いが、中身は全くの別物。密度が桁違いに濃い。
「...話会えるなら話し合いたいんですけど...あ、全然無理そう。」
巫女さんがずっと睨みつけている。怖い。何もしてないのに。仕方がなく戦闘体制を取る。おそらく行き道で見た魔物の残骸はこの巫女さんによるものだろう。対話で話し合えたらよかったんだが、なかなかそうはいかないらしい。
「やっぱり悪い人なのです。神のお告げなのです。あなたは危険分子なのです。」
巫女さんは懐から鈴を取り出すと。徐に投げる。鈴は宙に舞い上がりながら、リーンという音を鳴らす。静謐で静粛。凛としながらも激しく燃える炎のような、終わりが見えない感覚。なんだ。終わりが見えない。違う。《《終わらないんだ》》.......来るっ!
「...ッ!これを避けるのはあなたが初めてなのです。」
間一髪。先ほどいた場所に光の粒子が集まっており、爆発したかのような跡が残っている。なんだ今の!!やばすぎるだろ!!鈴の音を聞いた瞬間意識が途切れたというか《《強制的に集中させられた》》。思考も塗り替えられたような後味がする。洗脳に近いのか!?
「一つだけとは言ってないのです。」
巫女さんが大量の鈴を出し始める。やばい。最早ボマーにしか見えない。てか巫女なんだったら紙垂とかで戦うんじゃないの?!
「くたばれやがれなのです!」
大量の鈴が弧を描く。一つ一つが先ほどと同じ威力を秘めており、音が鳴るたびに意識を狩られるそうになる。ダメだ。このままだとやられる。後ろに下がればさっきの鳥居があるし左右は爆発圏内。ならば残すは....!
「前に行くしかないじゃんか!!」
前に一気に距離を詰める。イメージするのは筋肉の繊維に魔力を纏わせること。強化。増強。筋肉が張るように一時的に太さを増す。爆発一歩手前。巫女さんが間合いに入るまでに至る。
「!!どこを見ているのです!変態なのです!!」
「そんな格好する方がダメでしょ!!」
瞬発力に全振りした結果、巫女さんが間近に迫ったせいで色々見えてしまう。夏だからって薄着すぎるでしょ。
「変態さんは失せやがれなのです!!」
次に取り出してきたのはお札。呪文が刻印されており、一枚一枚が緻密な作りになっている。ただの紙があんな力持つなんてこの世界どうなってるんだ!
「『呪縛の符』!」
お札に書かれた文字が浮かび上がり、こちらに襲いかかる。文字は絡まるように体に結びつき、地面にしっかりと固定された。抜け出そうとするがびくともしない。まずい。比較でいえば圧倒的に魔力量は俺の方が多い。しかし、この力に関してはどうすればいいのか分からない。初見殺しもいいとこだ!!
「『今宵よ来い来い濃い夜の友達。守ってくれるのだーれだ』」
お札が光り、文字が浮き出る。文字は地面に落ちると影を生み出し、二足歩行の白い艶並みの狼もどきが出てくる。上半身が発達しており、爪は鋭利に尖っている。向こうの世界の上種2級ウルーフルと酷似している。あっちから呼び出せるのか!?
「グラァァァァ!!!!」
完全に姿を現すなり、《《姿が消える》》。目で追えないほどのスピード。つまりは死角からの攻撃。対応する方法は全方位への防御?威力が分からないからだめだ。
「オオさんやってやれなのです!」
空気が揺らめくと同時に襲いかかるは凶牙。咄嗟に力を込めた腕で防御していなすも、しっかり血が溢れ出す。ビルベルを意識して前よりも強化したはずがいとも簡単に破られている。
「まじか...!馬鹿力すぎるでしょっ!」
この狼もどきを倒すには手間がかかりそうだ。巫女さんを盾にすれば早々に攻めてくることは無さそうだけど...でも絶対近づかせてくれないよなぁー。やばい。久々の戦闘で完全に鈍ってるし、ここの場所のせいか本領が発揮できない。
「グゥゥゥ...ガルラァァァァァァ!!」
雄叫びをあげ、再び姿が消える。どこだ。この空間にいるのは間違いない。考え...!その瞬間後ろから衝撃を受ける。吹き飛ばされ、壁に強打する。
「ッ...!いってぇ...!!」
最初から殻のイメージをしてなかったら18禁ゲーもびっくりなグロい展開になってたぞ!!頭から血が垂れる。イメージするのは包帯。頭に巻きつき血を止める。数秒もしないうちに魔力により血管が圧迫され、出血が止まる。
「あの空の亀裂といい、突然出てきた化け物といい、てめぇ様から話を聞けばいろいろ分かりやがるですか!!」
巫女さんも攻撃に参加し始める。巫女と狼もどき。がたいの差が大きながらも隙がない。むしろ狼もどきが大振り攻撃をした後、その隙を巫女さんが埋めることで攻守共に優れすぎていることになっている。あれ?結構まずない?
一度距離を取るために後ろに下がる。最初の攻撃からは目立った怪我はしていないが、明らかに細かな傷が増えている。持久戦でいけば地の利がある向こうが勝つだろう。ならば短期決戦。一撃にある程度の破壊力を込めるのが正解か。
「...?」
巫女さんが勝ち誇ったような顔で見ている。なんだ。まだなにかあるのか!?
「オオさんだけ、なんて言ってないのです。」
まさか..!!後ろから先ほどのお札の光を感じる。文字は影へ。影は門へ。今度は黒い狼もどきが姿を現す。あ、終わった。