お飾りの妻
私、アイリーン•アストラスが嫁ぐことになりましたのは、ブラット•ヘルマン卿でございました。
アストラス家の五女として産まれた私は、お姉様たちのような煌びやかな顔面も、豊満な体にも恵まれず、大した器量も才能もありませんでした。
そんな痩せっぽっちのアイリーンが、ヘルマン卿に見初められた。結婚の申し込み状が来た時、私の胸は踊りました。
式当日。私は初めてヘルマン卿の顔見ました。青い氷のような瞳に、さらさらとした銀髪。こんな美しい人の妻と思うと、私は自分の醜い容姿が恥ずかしくなりました。
そんな私のベールをあげて、彼は「綺麗だ」と微笑みかけてくれたのです。
だけど私がどんなに望んでも彼が私を抱くことも、領主の仕事を手伝わせてくれることもありませんでした。
私がすることと言えば、ヘルマン卿のそばを歩くだけ。彼に言い寄る令嬢や縁談を薦めるたぬきおやじが現れれば、彼の横に佇んで微笑むのが私の仕事です。
「すいません。私には愛する妻がいるので」
ヘルマン卿はそういって、彼らを払いのけるのでした。
皆は私のことをお飾りの妻と呼びました。
そうですよね。妻と呼べる仕事はほとんどせず、彼の隣にいるだけなのですから。
それでも彼は一年に一度。薔薇の花束を私に送ってくれるのです。
私の墓前で涙を流してくれるのです。
結婚式の前日。彼の領地へ向かう途中に、山賊に襲われて、私は命を落としました。彼との対面は、私の葬式となってしまいました。
彼は私の写真を部屋に飾ってくれています。
彼がいつ私を見初めてくれたかは分かりません。ただ、令嬢たちの誘いを断る体のよい言い訳に使われているだけなのかもしれません。
それでもこの涙だけは本物だと思いたいのです。
私が愛してあげられなかったこの人を、愛してくれる人が現れてくれるのを、私は彼に寄り添いながら待っておりますの。
どうか願わくばいつか……。貴方の孤独を癒す娘が現れますように。
何かの前日譚