巨人と俺と彼女。
ここに来て一体どのぐらい経ったのか……
前の施設よりは自由が効くが囚われていることに変わりない。
透明な檻に入れられ他の同胞と同じように見せ物にされそして巨人どもに買われた。
俺の値段は25万……。
安いのか高いのか……分からない。
俺の人生に見合った数字なのかも知れないが生まれた時から自由がなかったから学もない。
出来ることといえば、巨人どもに吠えることぐらいか……
陽の光が窓から差し込む。
巨人どもの足音に反応して俺も起き出す。
ここの施設にいる巨人は3体。
髪が長い俺の世話役をしている"オーマ"
1番が背が高く筋肉質な"鉈"
そして他の2体の巨人より背は小さいが素早く俺を多少、乱暴に扱う"姫"
この3体に俺は飼われている。
巨人の言語は全く理解できないし聞き取れるのは、俺を呼ぶ声と奴らの名前……
それと叩き込まれ身についた命令の言葉……
何を言ってるか分からないが身体は理解して行動した。
その命令に従うように何回も何十回も調教され訓練された。
そんな暗澹とした生活にも希望の光はあった。
俺がいる牢獄を上がるともう一つ同じぐらい大きな牢獄がある。
そこに彼女はいた。
凛とした表情で巨人どもにも媚を売らずに澄ました態度を取る彼女。
この何もない施設で彼女だけが希望であり生きる目的だった。
巨人オーマが慌しく移動するのを横目で眺め俺は彼女のもとに向かった。
巨人がいつも座っている所に彼女は丸まって寝ていた。
毛布もブランケットもない暖まる方法は自分の体温のみだ。
俺は彼女を起こさないように慎重に移動して彼女の横に座った。
別に何をするでもなく俺は彼女に半ばストーカーのように張り付いて行動している。
最初は彼女も俺を警戒していたが、徐々に俺が危害を加えないと分かると話し相手になってくれた。
何かを降る音が聞こえて扉が開いた。
鉈が入ってきた。
鉈は俺らがいる所に荒々しく座った。
その衝撃で彼女は目を覚ましてしまった。
彼女は大きく伸びをすると横にいた俺を見つけた。
「おはよ」
そう言って少し笑った。
「あ…ああおはよう」
巨人の言語は分からないが、巨人も同じように俺らの言葉は理解できない。
「お腹すいたわね」
「そうだね…」
世話係のオーマはいつも同じ食事を朝と夜、俺らに与えた。
ただ空腹を満たす作業。
味も何もかも気にしている余裕などなかった。
鉈とオーマは何やら話していた。
何を言ってるか分からないが7回か8回、奴らは喋ると鉈はどこかに消える。
そして空が闇に染まるといつの間にか俺らの目の前に現れた。
何の前触れもなく鉈が入ってきた扉がまた開かれた。
俺と彼女は身体を固くして警戒した。
"姫"が入ってきたからだ。
姫は入って来るなり真っ先に彼女ほうに向かってきた。
「危ない!!」
しかし彼女は逃げきれず姫に捕まった。
姫は彼女を抱き上げて振り回しながら部屋中を歩き回る。
「やめて!お願い!やめてよ!!」
彼女の声は姫には届かない。
俺はただ祈るしかない。
彼女の無事をそして早く終わることを……
俺の願いが届いたのかオーマが姫に何か言った。
すると姫は大人しく彼女を床に置いた。
俺はすぐに彼女の所に向かう。
「大丈夫かい?どこが痛いところは?」
「平気よ…大丈夫、いつもの事だし」
彼女は笑った。しかし目元は笑ってはいなかった。
俺と彼女が2人で彼女の寝ていた所に戻った。
いつの間にか鉈も姫もいなくなっていた。
「ふぅーああお腹すいたわ。オーマ私達のご飯、忘れてるんじゃないの?」
「あり得るね。前も忘れてたしあれだったら俺が呼んでこようか?」
彼女は首を横に振る。
「平気よ。危ないから」
そして2人で横になった。
俺は彼女の名前を知らない……というより無いのだ。
俺だってない。名前なんてない。
巨人は俺らの事を奴らの言語で呼ぶがそれだってなんて言ってるか分からない。
だから俺は彼女のことを"君"と呼ぶ。
そして彼女も俺のことを"君"と呼ぶ。
"君"と"君"それで繋がっていた。
オーマの俺らを呼ぶ声が聞こえて目を覚ました。
食事をやっと思い出したみたいだった。
銀色の皿に入った固形物を口に入れる。
元の施設のよりは味はマシだがそれでも結局は五十歩、百歩だ。
食事を食べた後の俺らの1日は次の食事を待つ事だった。
つまり何もないと言うことだ。
それでも彼女といれば、何でもない日々も満足だった。
食事を済ますと2人はいつもの位置に戻る。
いつもの位置とは巨人達が座る所でもあり彼女の寝床でもある。
そこに2人で座った。
「……いつまで続くのかしら」
彼女はポツリとつぶやいた。
「………」
俺は沈黙で返した。それは巨人次第だから。
「どこにも行かないよね」
彼女の瞳は不安でいっぱいだった。
「行かないよどこにも君のそばにいる」
その不安を少しでも取り除いてあげたかった。
「…うん…そばにいてずっと」
そう言うと彼女は頬を赤らめた。
そんな彼女を見ていたら俺も何やら照れ臭くなってしまった。
「う、うん」
そして俺と彼女は空が暗くなるまで……2人で過ごした。
太陽が眠り月が目を覚ます。
太陽が瞼を閉じた為、空は真っ暗になった。
月の瞳だけでは太陽の光には敵わない。
鉄の扉が開く音……俺は彼女を見る。
そして部屋を見渡す……姫がいない。
いるのはオーマだけ。
バンッ!!
扉が勢いよく開く。
扉は壁に当たって跳ね返り閉まった。
オーマが姫に何か言うが姫は聞く耳を持たない。
「逃げて」
「え?」
「早く逃げて!」
俺は声を荒げる。
嫌な予感がしたのだ。
姫は彼女を見ていたから。
その予感は的中した。
姫は手に持っていた布状のものを彼女に被せた。
「え!え?なにこれ!ねえ、ねえ!」
俺は彼女を助けようとするしかし姫は素早く彼女を持ち上げて乱暴に布状の何かをつけようとする。
必死に抵抗する彼女、俺は何もできなかった。
「やめて!ねえ!やめて」
部屋に入って来た鉈も姫に加勢する。
姫が掴み鉈が被せる。
彼女は足や顔を動かしてそれを阻止していた。
俺はただそれを眺めてた。
祈って祈って祈って早く終わるように祈った。
彼女と目があった。
彼女の目は恐怖で歪んでいた。
"助けて"
彼女の声にならない叫びは俺の心に届いた。
『…うん…そばにいてずっと』
このままじゃダメだ。
祈って何になる。
俺は…俺は!!
「うわぁぁぁあ!!」
俺は鉈の足に噛み付いた。
鉈は彼女につけようとした物を手から離して俺に掴みかかる。
俺はそれを避けた。
そして姫に向き合った。
「彼女を離せ!!!」
俺の叫びが姫に伝わった。
彼女が俺の後ろに来る。
姫はオーマに抱きついた。
オーマが俺に怒鳴る。
その声量に一瞬、怖気づくが負けるわけにはいかない。
鉈は床に尻餅をつき傷口を押さえている。
怒ったオーマは俺を掴んで牢獄に放り込む。
そしてまた何か俺に声を掛けた。
もう出れないかもな。
でも後悔はない。
彼女を助けられたから……
その後のことは分からない。
俺は牢獄の端っこでただじっとしていた。
檻に何かが当たる音がして俺は目を覚ました。
いつの間にか寝てしまったらしい。
「ねぇ起きてる?」
「ああ起きてるよ」
暗闇だったが少しうっすらと彼女の顔が見えた。
「本当にありがとう。君のおかげで……でも…でも!」
「うんもう大丈夫」
俺の気持ちは晴れやかだった。
「俺は君のそばにいるよ。ずっと。約束だろ?」
彼女の瞳から涙が溢れる。
「うん、うんずっと一緒だからね!」
それが叶わないことを2人は知っていた。
「今日、私ここで寝る」
「ダメだよ。そこは冷たいだろ?」
「寝るの!」
彼女の表情、仕草、姿を目に焼き付けようとしっかりと見つめる。
月明かりが2人をいつまでも照らし続けていた。
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アラームがけたたましく鳴り叫ぶ。
俺は眠りの世界から無理矢理、引き戻された。
俺はアラームを止める。
すでにミオの姿はなかった。
俺は痛む足を少し引きずって階下に降りた。
「あなた大丈夫?やっぱり医者に診てもらったほうが……」
俺はソファに座って包帯を取る。
傷が少し膿んでいる。
俺は顔をしかめた。
「……そうだな。今日は午後出勤にしてもらうよ。
それで悪いんだけどおまえが運転してくれないか。」
ミオはまだ不安そうだ。
「それはもちろんよ。1日お休みした方がいいんじゃない?」
「そこまでじゃないよ。塗り薬とか貰って新しく包帯、巻いて貰えば大丈夫さ」
ミオは俺の返答に満足していなかったが気にせず話題を変えた。
「そういえば姫花は大丈夫そうか?」
昨日の晩のことを思い出す。
姫花と一緒に買い物をしてココに合う服を選んだ所まではよかったがココに着せようとした瞬間、コタロウに足を噛まれて……
俺は傷口を見てため息をこぼす。
「姫花もショック受けてたからね。幼稚園…行けるかどうか」
「今日は休んでもいいだろ。あんなことがあったんだし」
「そうね」
俺はこんな傷をつけた元凶がいるゲージを見た。
そこにはゲージに入ったコタロウに寄り添うように寝ているココの姿があった。
「……嫌なことされたと思ったのかもしれないわね」
「ん?」
「ココあの時、嫌がってたじゃない?だからそれで勘違いして」
「…そうかもな。コタロウとココは仲良しだからな」
2匹の犬はまだ目を覚さない。
実はこのヒロイン、犬だった!?
まあ主人公も犬なんですけどね。
一応ですが オーマはおまえから
鉈はあなたから
姫は子供の名前の姫花から
コタロウは勝手に名前と判断したみたいですね。