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少年と悪魔  作者: sandh
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はじめてのおしごと

 ルシファーは口を開いた。


 「アザミ君のペアは決まっちゃったけど、今日の本当の目的は新人のガイダンスなんだ。早速だけど始めるよ」


 そういうとレビは近くにあったリモコンを取り、モニターの画面を切り替えた。さっきまでのモニターには憲兵隊の階級を記しているグラフが表示されていたが、今はロケットが打ち上げられる映像が映し出された。


 「この映像は憲兵隊がまだ軍隊の部隊だった頃の映像だ。憲兵隊は天界についての調査を担当する部隊でね、その名残で独立した現在も天界の調査が最重要課題に位置付けられている」


 またレビの操作によって画面が変わった。映像ではなくグラフのようなものだったが、ピラミッド型のグラフとは違い、何か条件を羅列された表と言う方がふさわしく、一眼でアザミが理解するのは難しそうなものだった。


 「皆知っているだろうが、我々の仕事は魔物と戦い駆除し、一般市民の安全を守ることだ。しかし、先ほども言った通り、悪魔と呼ばれるようなレベルの凶悪なとなると、派遣する隊員のレベルも変わってくる。これは派遣する隊員と魔物のレベルの関係を表した表だ」


 魔物も憲兵隊隊員と同じく階級があるらしく、ほとんどの場合は魔物の階級と同じかそれ以上の階級を有する隊員を派遣することが憲兵隊には義務付けられている。市民の安全を守ることも大切だが、隊員の命を危険に晒すわけにはいかないからだ。


 「そういえば君達、魔物はどこからやってきたか知っているかい?」

 「……わかりません」

 「大昔、ある星で超新星爆発が起きて、その星の断片がこの地球で突然変異した生き物が魔物だよ。それも前回の天界調査で判明している」


 まだガイダンスが始まってから五分ほどしか経っていないが、もう終わりとでも言うようにレビはモニターの電源を切った。そして、ルシファーもそれに続くように手を叩いて言った。


 「これでガイダンスは終わり。これからは憲兵隊の隊員として頑張ってもらいます。隊員としてのランクが上がれば、難しい任務にも参加できるようになるだろう。ここだけの話だが、我々は再び天界に人を送る計画を立てている。Sランクの隊員が主力になるだろうが、それまでにアザミ君が活躍を見せられれば、いけるかもしれないよ?だから頑張ってね」


 後半はルシファーはほとんどアザミに話しかけていた。なぜだか知らないが、ルシファはアザミのことをだいぶ買っている。自分の夢を臆さずに言ったことで気に入られたのか、それとも試験の時に気に入られていたのか、理由は分からなかった。


 ヨハネが言った。


 「僕もここに来る途中で魔物を殺してきたよ。それも活躍のうちに入るのかな?隊員証を狙われたから虐殺じゃないと思うけど」


 新人隊員の明るい報告だが、ルシファーをはじめレビやベルゼら幹部の顔は明るくなるどころか、むしろやや暗くなった。その気持ちを代弁するように、レビは言った。


 「ヨハネ君が殺した魔物は私たちが調べるとして、隊員証が狙われた……隊長、最近多いですね」

 「ああ。今話してしまうか」


 ガイダンスは先ほど終わったが、ルシファーにはまだ話すことがあるそうだ。アザミ達は少し姿勢を正した。


 「もう気づいている隊員もいるかも知れないが、最近隊員証を狙って隊員が襲われる事件が多発している。我々が調べたところ、四神組という反社会的勢力の組織的な犯行であることが分かった。そこで、四神組を潰すという任務を君達新人に任せることにした」


 アザミは内心驚いた。確かに今日から憲兵隊の隊員だという事実はわかっていたつもりだったが、まさかいきなり大きな任務を託されるとは思わなかったからだ。


 「四神組は青龍会、朱雀会、玄武会、白虎会の四つで構成されている。作戦開始は明日だが、まずは青龍会から潰す。質問はあるかい?」


 アザミが手をあげた。


 「その四神組っていうのは魔物の組織なんですか?」

 「ああ。少なくともボスである青龍、朱雀、玄武、白虎の四人は魔物であることが確定している。それに、必要があれば対象が魔物でなくても憲兵隊が出動することもある。さっきも言ったが、警察と軍隊の中間のような組織が憲兵隊だ」


 続いてルシファーは言った。


 「作戦の詳細は明日伝える、青龍会への突撃は明日行うからな。今日は体を休めて、明日しっかり働けるようにしておけ!」


 この言葉を最後に聞いて、アザミ達はルシファーの部屋から出て行こうとした。その時、レビがアザミの服を掴んで話しかけた。


 「ねえ、アザミ君。君が暮らしてた森にいた悪魔の名前は、グリゴリになったよ。ちょっと変な名前だけど、Sランクの強力な魔物であることは変わりないよ。それにしても、よく倒せたね。その調子で初作戦も頑張って」


 アザミは再びレビに突然話しかけられたが、今度は顔が赤くならないように気をつけた。だが、顔が赤くならない代わりに今度は言葉を何も発することができなかった。恋愛経験が乏しい者は、好きな人を前にするとそう多くのことができない。アザミも例外ではなく、レビを前にすると途端に頭が真っ白になるのだ。


 その様子を少なくとも二回はみていたフランがアザミに話しかけた。


 「ねえ、アザミってレビさんのこと好きなの?」

 「へ!?ああ、まあ、そうだけど……」


 繰り返しにはなるが、アザミは恋愛経験が少ないどころか一切ないので、いわゆる恋バナも大の苦手だ。苦手というより、慣れていないという方が適切だろうか。


 アザミの隣にいたフランの、更に隣にいたパウロも驚いていた。


 「え!?そうなの!?気づかなかったぜ」


 どうやらフランは気づいていたが、同じくらいアザミと同じ時間を過ごしていたパウロは気づいていなかったようだ。やや鈍い傾向があるのだろう。


 「でも悲恋よね。一般隊員と幹部じゃ、格が違いすぎるわよ」

 

 フランの言葉に打ちひしがれているアザミをみて、パウロは咄嗟にフォローに出た。


 「いやいやいや、今どき身分の差なんて関係ないだろ!アザミ、俺は応援するぜ!」

 「ちょっと、私が応援してないみたいに言わないでよ!私も応援してるからね!」


 そんなやりとりを繰り返し、新人隊員達は自分達の持ち場へと移動していった。


 一方、ルシファーの部屋ではこんな会話がなされていた。先に言葉を開いたのはベルゼだった。


 「いいのですか?有望な新人隊員にあんな嘘を吹き込んで」

 「魔物の起源だろ?構わないさ。特に必要な情報でもないし、そもそも私が言ったのは通説だから、私が言わなくても必ず誰かに言われていたさ」


 今度はレビが言った。


 「もう一つ。それが天界での調査によって判明したとおっしゃっていましたが……」

 「違いますよね?天界での調査によって分かったことは一つもない。これが事実のはずです」

 「新人にやる気を出させるための優しい嘘さ」


 話は一段落した。他の幹部達は、追究こそしたものの特に責める気はないようだ。話が変わり、ベルゼは特にルシファーの部屋に大切そうに置かれていた妙な球について言及した。


 「これ……まだ持ってらしたんですね」

 「ああ……」


 レビもそれに視線を向けた。三人の目線は、懐かしがるような、それでいて憎んでいるような眼差しだった。しかし、それ以上の会話は生まれず、彼らもそれぞれの仕事へと戻った。


 アザミ達は憲兵隊での一日目を終え、二回目の朝を迎えた。再びルシファーの部屋に新人隊員が全員呼び出されていたことから、昨日話していた四神組についての説明があるのだろうとアザミは思った。


 実際、集められた目的はアザミの考えていた通りだった。説明を担当したのは、昨日のガイダンスと同じくルシファーで、レビが図などを示して補っていた。


 「今日、青龍会への突入が君たち新人隊員によって行われる。その時の作戦を説明する」


 ルシファーの説明はしばらく続いたが、要約するとこのようになった。


 まずヨハネ、アザミ、ビガラの三人が青龍会のビルへと突入し、可能であれば青龍を生捕りにする。


 三人が作戦に失敗、つまり青龍会の人間に返り討ちにされた場合は、ビルの外に待機していたフランとパウロの出番である。パウロが時間を止め、その間にフランが動物を召喚し、しばらくの間青龍会をビルに閉じ込める。


 そうやって時間を稼ぐことができれば、新人隊員だけでの作戦遂行は失敗となるが、憲兵隊本部からの援軍が到着し青龍会を殲滅する。


 作戦とは言っても、軍隊でやるような緻密な作戦は組まれていない。最低限の事柄しか伝えられず、戦い方は隊員に任せるのが憲兵隊のやり方なのかなと、アザミは思った。


 新人隊員達は青龍会のあるビルの近くへと向かった。ビルの前まで行かないのは、青龍会の人間達が憲兵隊の作戦を知っていた場合、何かしらの形で対策しているのかもしれない。そのため、近くまで来たらそこからは隊員達が自分の足で向かうのだ。


 車から降り、突撃組であるアザミたち三人はビルへと向かいながら、戦い方を確認していた。話を主導したのはヨハネだった。


 「僕は試験でアザミと戦ったから能力は理解しているけど、ビガラの能力はわからないから、教えてくれる?」

 「そんな大したことないぜ。ちょっとねずみを無制限に出せるってくらいだ。ただ、身体能力も自信はあるから、戦えるから安心して」

 「分かった。ここにいる三人は全員近接戦闘が得意ということだね。じゃあ、青龍はやれるやつがやれればいい」


 結局、細かい戦い方は考え付かなかったが、話している間に、青龍会のあるビルへと三人はたどり着いた。


 入り口へとアザミたちが近づくと、そこにはインターフォンがあった。しかし、彼らはわざわざそれを押すつもりはない。自分達は仕事として、ここのビルにいる人間達を逮捕しにここへ来ている。


 そう言わんばかりに、ヨハネは入り口と書かれているドアを蹴飛ばした。


 とてつもない音と共にドアは倒れた。アザミ達の視界には何人かの人間が映り込んでいる。青龍会の人間なのだろう。


 その人間達の中心にいた女が周りの人間に何か指示を与えた。すると、指示を受けた人間達は上の階へと上がっていってしまった。この行動になんとなく不信感を覚えたヨハネは、隊員証を示しながら言った。


 「僕たちは憲兵隊の者だ。君たちを逮捕しにきた」


 ヨハネ達はドアを蹴破って侵入してきたので、元々歓迎はされていなかったが、この言葉によって女の顔は不審から憎しみへと表情が変わっていった。


 「そう。だからと言って私たちは大人しく捕まりはしないわ!」


 そう言って女は近くのテーブルからスイッチのようなものを取り、それをヨハネ達に向けて押した。


 すると、なんとも驚くべき事象が起きた。そこにはヨハネしかいないのだ。アザミとビガラが消えたというべきだろうか。それとも、ヨハネが二人を視認を視認できなくなったのだろうか。


 あまりに突然の出来事のため、さすがのヨハネも動揺せざるを得なくなった。その間に、女はヨハネの腹部へと思い蹴りを一発入れた。

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