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少年と悪魔  作者: sandh
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本部到着

 一つ目の魔物は男の顔を見るなり笑顔になった。笑顔と言ってもそれほどいい者ではなく、皺だらけの顔がさらに歪められただけだった。魔物は男に近づき、


 「よくやった。ではよこせ」


 と言った。魔物は男に手を伸ばしており、何かを強請っているようだが、男は恍けた顔をして言った。


 「なんだっけ?」

 「忘れてもらっては困る。貴様が入隊試験に合格し、その暁として隊員証をワシに渡したら、こちらも貴様に一億やろうという約束だったではないか」


 魔物が不機嫌になっているのは誰の目にも明らかだった。どうやら魔物は感情が顔に出やすいタイプらしく、何かに焦っているという印象も受けられたことから、せっかちな持ち主であることも分かった。


 魔物に急かされても、男は特に焦ることはなかった。


 「うーん……気が変わっちゃったんだよね。昔の友達にも会えたし、面白い奴らも見つけた。だから隊員証は渡さないことにしたよ。一億あっても一生遊んで暮らせるわけでもないし、僕にとっては戦うのも遊びみたいな者だしね」


 それでも魔物は手を引っ込めず、今度は手をチラチラと動かした。早くしろというジェスチャーのつもりらしく、自信に満ちた声で言った。


 「ふん。ワシと戦おうというのか。この辺りに貴様が武器に変えられるようなものはない。魔物のワシと人間の貴様が戦ってどうなるかくらいは分かるよな?」

 「君が負けるってことはわかるよ。じゃあ始めようか」


 そういうと男は自分に向かって伸ばされていた魔物の腕を武器などは一切使わずに切り落とした。


 「ぎゃあああ!」


 突然の出来事に魔物は悲鳴をあげた。顔に出やすい性格である魔物は、こちらが気の毒になりそうなほど苦痛に顔を歪めていたが、そんなのお構いなしと言って様子で男はあっさりと魔物の首を刎ねた。


 「急いで戻らないと」


 そう呟いて男は魔物の首を拾い上げ、抱えたまま本部へと向かった。


 一方、アザミ達が乗る車も本部へ到着しようとしていた。しかし、車の上から鈍い音がしてきた。ギコギコと木材をノコギリできるような音だった。何事かと思いラウタロは車を止めて確認した。


 車の屋根が切られているのだ。 


 「この車はオープンカーじゃない」


 ラウタロはそう呟いた。そして今度はアザミ達に向かって言った。


 「この輩は私が片付けておきますから、あなた達は早く本部に行ってください。隊長は気が短いですから」

 「え?」


 アザミとパウロは驚いた。とてもじゃないが、ラウタロは戦いが得意そうな人間には見えない。実際、さっきは自分のことを自分でただの運転手と言っていた。


 「僕たちも戦います!」


 心配だったため、アザミはそう直訴した。しかし、ラウタロは全く考えるまもなく、それを断った。


 「いえ。心配には及びません。どうしても心配だというなら、ここで待っていてください。あ、あと念のために終わるまでハンカチで鼻を覆っていてください」


 なぜそんなことをする必要があるのかと疑問に思ったが、しても特に損はないため、アザミ達は大人しくハンカチで鼻を覆った。二人が鼻を覆ったのを確認して、ラウタロは車から出て行った。


 ラウタロが車から出るとすぐに何者かに辺りを囲まれてしまった。このもの達が車を破壊していたのだろう。輩は五人いて、ツノのようなものが生えていることから魔物だと思われた。


 その中のリーダー格だと思われる男がラウタロに近づいてきた。


 「俺たちゃ見ての通り魔物さ。あんた達は憲兵隊の人間だろ?あんた達の隊員証をよこせ」

 「また隊員証の強奪か。車は壊すわ法は犯すわやりたい放題だな」

 「お前が渡さないようなら、力づくで奪い取るまでさ!」


 そう言って魔物は拳を振り上げた。動きは遅かったが、魔物はかなり大柄な体格なので、もし当たれば大怪我をするかもしれない。


 それでもラウタロは冷静だった。アザミ達がハンカチで鼻を覆っているのを横目で確認すると、今にも当たりそうな魔物の拳をあっさりと避けた。


 懐からラウタロはタバコを取り出した。そして、戦っている最中なのにも関わらず堂々とタバコを吸った。タバコの先から煙が出てきたのを確認すると、ラウタロもアザミ達と同じようにハンカチで鼻を覆った。


 これには魔物も顔を顰め、漂ってきた煙を手で面倒臭そうに払った。


 「くっせえなあ。少なくとも今はタバコを吸うタイミングじゃねえ……だろ……」


 言葉に言い終えられないうちに魔物は倒れてしまった。リーダー格の魔物だけではない。他の仲間だと思われる連中も倒れてしまった。


 ラウタロは車に乗り込んだ。もうハンカチで鼻は覆っていなかった。


 「あなた達ももうハンカチをとって大丈夫ですよ。お疲れ様でした」


 アザミ達は何が起きたのか全くわからなかったが、大人しく車に乗り込んだ。車は既にボロボロになっていたが、ラウタロが手で触れるとすぐに元に戻ってしまった。


 たまらずアザミは質問した。


 「今もそうですけど、能力を使ったんですか?どんな能力なんですか?」


 ラウタロは一切包み隠さずに答えた。


 「ええ。能力を使いました。私は溜まった怒りを消費してさまざまな能力に変換できます。さっきはタバコを通して有毒なガスを発生させました。そして、今は時間を戻す能力を使いました。もう溜まっている怒りはありませんよ」


 かなり強力な能力だなとアザミは思った。それ以降は何も会話は生まれなかった。さっきまで元気だったパウロは、疲れていたのかぐったりとしていた。


 車は本部に到着した。アザミが以前きた時とは違い交通手段が車なので、ヘリポートではなく駐車場へと向かった。


 ヨハネも既に本部へ到着しており、ラウタロ、アザミ、パウロの車組と合流した。一同はエレベーターに乗り憲兵隊隊長がいる最上階へと向かった。


 ラウタロがいうには、憲兵隊本部は非常に高いビルで、隊長がいるのは六十階らしい。一から三階は事務室で、四から五十階は隊員たちの寮で、残りは幹部達の仕事室だそうだ。


 最上階につき、三人は隊長の部屋へとラウタロに案内された。


 隊長の部屋はものすごく豪華だった。この世の豪華なものを全て吸収したと言っても過言ではないほどで、パウロも圧倒されているようだった。感動や驚きを飛び越えて、感情がどこかへ行ってしまっているという感じだった。


 部屋の隅にはレビもいた。もう一人女もいたが、アザミは見たことがない人だった。


 ラウタロが言った。


 「今回の試験の合格者を連れてきました」


 隊長は背が高かった。また、アザミが想像していたような年配の白髪の紳士ではなく、まだ若いようで髪も黒かった。


 隊長はしばらく立ったまま窓から外の様子を眺めていたが、やがて口を開いた。


 「では、私から一つ質問しよう。憲兵隊に入って成し遂げたいことはなんだ?」


 パウロは答えた。


 「サタンを殺すことです」

 「サタンって何?だれ?」


 アザミは質問には答えず、逆に気になっていたことを質問した。


 パウロだけではなく、周りの人間も信じられないといった表情になった。質問を質問で返すのは確かに良くないことだが、人々の関心はそこではないようだった。


 「お前、サタンを知らないのか?最悪の悪魔、サタンを」

 「うん、知らない。でもなんでパウロは試験の時言ってたことと違うことを話したの?」

 「世間体っていうのがあるだろ。新入りがあんまり壮大なこと語っちゃ笑われちまう」

 「そんなのおかしいよ」


 パウロとアザミのやりとりを聞いていた隊長は笑いながらアザミ達の方を向いた。


 「この国にまだサタンのことを知らない人間がいたんだな。サタンというのは五年前にこの国の国民の半数近くを虐殺して現在まで姿を消している悪魔のことだ。魔物は強いと悪魔という名称に変わる。でも確かにそうだよな。自分の目標を語って笑われるなんておかしい話だ」

 「ふーん」


 「……君の目標はなんだね?」

 「天界に行くことです」


 アザミは一才の躊躇なく答えた。隊長は天界がどういうものか知っているらしく、アザミにカードのような物を渡し、笑顔でいった。


 「それは憲兵隊隊員証。君が憲兵隊の隊員であることを証明するものだよ。私の名前はルシファー。君たちの憲兵隊での成功を心から応援しているよ!」

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