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少年と悪魔  作者: sandh
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新しいお友達?

 憲兵隊入隊試験が始まり、一度目の夜を迎えようとしていた。試験が始まってから数時間経ったが、アザミは一度も別の受験生には会わなかった。その方が気楽だったりといいことはあったが、他の受験生に接触しなければ試験官達からポイントを稼ぐことができない。


 明日は別のところに移動してみようか。そんなことを考えながらアザミは眠りについた。


 二日目。アザミはあまり眠りにつけず、朝早く起きた。近くに時計などはなかったが、鳥や植物の様子などからまだ早朝だということはすぐに分かった。


 アザミはずっと森で暮らしていたので、時計を見るよりも自然を観察した方が色々なことがわかるのだった。


 昨日考えていた通り、アザミは昨日寝た場所からもっと遠くのところへ行こうと少しの食料を持って出発した。この森がどれくらい大きいのか、まるで見当もつかないからだ。


 アザミは果物を齧りながらしばらく歩いたが、誰もいない。姿を隠しているのなら自然育ちのアザミならすぐにわかるはずだったが、気配や物音一つしない。まるで自分だけ別の世界に来てしまったようだ。


 その時、後ろから物音がした。振り返ると、そこに一人の男がいた。


 男は痩せていたが、背は高かった。


 「なあ坊や。俺とチームを組まないか?」


 アザミは少し身構えた。相手の知らない部分が多すぎるからだ。それに、すぐに答えるようなこともしなかった。たった今あったばかりの人間とチームを組むようなことをするほど、アザミは馬鹿ではなかったからだ。


 アザミが自分に不信を抱いていることがわかったのか、男は自分のことを話し始めた。


 「まあそうだよな。いきなりチームになろうなんて言われてもなるわけないよな。俺の名前はパウロ。ちょっと失礼するぜ」


 そういうとパウロは指を鳴らした。


 アザミは驚いた。目の前からパウロの姿が消えたのだ。そして、後ろから肩を叩かれ振り返ると、そこにパウロがいた。


 訳もわからずただ呆然としていると、パウロはしてやったりという様子の無邪気な笑みを浮かべた。


 「驚いたでしょ?俺の能力は、少しの間だけ俺以外の時間を止められる。限度は大体五秒くらいかな。人にしたことは能力が切れた時に一気に反動がくる。ただ、能力が切れると時間を止めたのと同じ時間能力が使えなくなる」


 アザミは思わず悩んだ。真意はわからないとはいえ、能力は強力だからだ。パウロの能力の説明が本当なら、アザミの能力と組み合わせればかなり有効な戦い方になるはずだ。


 なぜなら、パウロが時を止めている間にアザミが敵を殴る。そうすれば、パウロの存在が敵にバレない限りはほぼ永遠に敵にダメージを与え続けることができる。

 

 「なあ、俺とチーム組む?組まない?」


 パウロは迫ってくる。アザミは悩んだ。協力者がいるのなら確かに欲しい。だが、その協力者に裏切られでもしたら被害は大きいのだ。


 「分かった。チームを組むよ。僕の名前はアザミ。よろしく」

 「いい名前だな。よろしく。敵にあったりでもしたら、」


 アザミの下した決断は、チームを組むことだった。言葉遣いは確かにいいとはいえないが、言動は意外としっかりしている。もしかしたら、ちゃんとしている人間なのではないかとアザミは思っていた。


 実際、パウロは裏切るような行動は全くしなかった。共に他の受験生がいそうな場所に移動するときも、時を止めてアザミの持ち物を奪って逃げる隙はいくらでもあったのに、パウロはそれをしなかった。


 「いってえ!なんだこれ!」


 しばらく森の中を歩いていた時、パウロが騒ぎ始めた。パウロの手には何か画鋲のようなものが握られており、地面にも同じものが大量に落ちていた。


 二人は辺りをキョロキョロ見回していたが、その時二人は信じられないものを見た。


 近くにあった木が消えたのだ。


 そして、その消えた木の近くから男が現れた。髪は銀髪で、染めているのか地毛なのかはわからないが、なんとなく異様な雰囲気を発していた。身長も高く痩せており、モデルのような体型だった。


 「それ、撒菱って言うんだけど、知ってる?大昔に忍者が使っていた道具なんだ。殺傷能力はないけど、この試験暇すぎるからさ。引っかかった人と遊ぶことに決めてたんだ。だから遊んでよ」


 パウロが能力を発動した。相手は無差別に相手の命を奪うような凶暴な性格の持ち主とは思えなかったが、異質な存在で、何をされるかわからない。気絶させて大人しくさせた方がいいと思ったのだろう。


 アザミも同じように考えた。パウロは特に一対一の戦闘には秀でていない。アザミも魔物から貰った能力をまだ使ったことはなかったし、発動条件も聞かされていない。一か八かアザミは心の中で五倍、と唱え男に殴りかかった。


 手応えは確かにあった。殴った時の反動が通常の時とは明らかに違うのだ。


 そして、パウロの能力が切れた。時を止めていた時間は大体五秒くらいで、四、五発は殴っただろうか。アザミの身体能力は五倍になっているはずだから、回数にして二十回は殴ったことになる。


 しかし、だ。アザミは驚いた。全く男がダメージを受けているとは思えないのだ。涼しい顔をしており、攻撃する前となんら変わらないといっても決して言い過ぎではなかった。


 「なんか君たちの位置変わってない?なんかした?じゃあ次は僕の番だね」


 男の目つきが急に変わった。おとなしい常識人から、大量殺人鬼に変わったと思えるほどの変貌ぶり。男は近くに落ちていた枯れ葉に触り、能力を発動した。


 枯れ葉はナイフに代わった。これが男の能力なのだ。触れたものを武器に変えることができる。能力も確かに強力だが、能力ならアザミのものもパウロのものもそれほど圧倒的な差はない。


 しかし、パウロはすぐに理解した。自分とあの男の中には圧倒的な差がある。それが痛いほどパウロはわかっていた。まだ戦ったわけではないが男には何かオーラのようなものがある。


 パウロは再び能力を発動した。そして叫んだ。


 「アザミ、逃げるぞ!あいつには逆立ちしたって勝てねえ!」


 逃げるのはアザミは大嫌いだったが、こればっかりは賛成だった。駄々をこねて男に立ち向かい、全く相手にならず返り討ちにでもされたら、おそらく試験官達からの評価は下がってしまうだろう。


 しばらくの間二人は走り続けた。アザミは能力を五倍に設定し、パウロは能力が発動可能になったらすぐに発動した。銀髪の男が追いかけて来ているのかはもはや分からなかったが、流石に時を止める能力には追いつけなかったのか振り返ってもそこには男の姿はなかった。


 男から逃げることができても、二人は何も話さなかった。アザミは逃げることしかできなかった悔しさから、パウロは恐ろしさと共に何かあの男に違和感を感じていたからだ。


 なんとなくパウロはあの男に親近感というか、懐かしさのようなものを感じていた。その理由は全くわからなかったが、何かヒントを得られるかもしれないと期待したのかパウロは自身のことを話し始めた。


 「俺が憲兵隊に入りたい理由はな、ある場所に行きたいからなんだ」

 「ある場所?」


 アザミは聞き返す。


 「夢の島って知ってるか?」

 「いや、知らないけど……」


 本当にアザミは夢の存在を知らなかった。それが有名なものだったとしても、今までアザミは森の中で暮らしていたのでわかるわけがない。


 アザミの答えにパウロはやや不満だったようだが、話を止める気はないようだった。


 「なんだ。知らないのか。まあ、知ってる奴なんてほとんどいないだろうな。夢の島っていうのは俺の故郷だ。俺の家族以外にも何十人か暮らしてた」

 「暮らしてたって、今はいないの?」

 

 パウロは懐かしむような口調で話した。さっきまでの荒々しい口調とは違い、子供に話しかけるような優しい声だった。


 「島はだんだん発展していって、俺がまだ子供だった時原子力発電所が立った。そいつが事故を起こしちまってな……国はそのことを隠すために、夢の島の一切の記録を消去した。俺はヒイヒイ言いながら家族と逃げて来たってわけだ。だけど、去年で家族は全員死んだ」


 今までパウロは空を眺めてみたり、鳥を目で追いかけてみたりしていたが、今度はアザミの目を真っ直ぐ見て言った。


 「もう一度故郷に戻りたい。そのために協力してくれ」

 「いいよ。それに、パウロは見た目ほど悪いやつじゃないってことも分かったし。あの銀髪の男から逃げる時、僕の名前を呼んでくれたでしょ?本当に嫌なやつだったら僕のことなんか置いて一目散に逃げると思うんだよね」

 「なんか、照れるな」


 パウロは顔を少し赤くしていた。しかし、それは本当に照れているからではなかった。アザミは見ていたのだ。パウロの目に涙が浮かんでいるのを。

 

 涙を拭ってパウロは言った。


 「そうと決まったら、あの銀髪男をぶっ飛ばしに行こうぜ。逃げたままで終わるのも癪だし、あの男をぶっ飛ばせれば相当高いポイントになるはずだぜ」

 「そうだね!」


 しかし、パウロは少し考えた。

 

 「でもよ、このままじゃ返り討ちにされるのが落ちだぜ。チームに誰か加えるのがいいと思うんだけど、アザミはどう思う?」

 「それがいいと思う」


 二人は新しいチームのメンバーを探すために出発した。


 一方、銀髪の男はアザミとパウロに逃げられた後、腕を組んで独り言を呟いていた。


 「あの背が高い方の男……パウロ……だったかな?懐かしいなあ。同じ夢の島出身同士、話でもしたかったんだけどなあ」

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