4、ピエンな壁
『今回のお客様のお顔は、3.1美円です』
「ハア!? なんで前回よりも低いわけ!?」
思わず怒りの声を上げた私に対して、AIレジもスマホの電子マネーの残高も寒々としていた。
2週間前の屈辱を晴らすべく、前回以上にいろいろ頑張っていつものコンビニに行った私。
エステに行った肌の調子も良好で、メイクにもぬかりはなかった。
眉一本描くのに20分はかけたのに!
「これ以上、どうしろっつーのよッ!」
商品カゴの持ち手がバキッていいそうなくらい、口惜しさをこぶしに込めた私。
(うう……この2週間にかかった美容代と時間を返せ~~!!)
レジからすごすごと退散して、買った商品に八つ当たりしてエコバッグに投げ入れていたときだった。(卵は入ってません)
パンパカパーン♪ パンパンパンパン パンパカパーン♪
「ええ!?」
期待して大量買いしたことを悔やんでいたら、突然ファンファーレの機械音が脳天に高らかに鳴り響いた。
これってまさかーー。
『今回のお客様のお顔は、最大値の5美円です』
背後から聞こえたAIレジの音声に、心臓がビクンと跳ね上がった。
「お客様! パーフェクト美円おめでとうございます!」
陳列棚にいたコンビニのスタッフが声をあげて、盛大に拍手をし始めた。
「おい! マジかよ!!」
「初めて生で見た!! 神!?」
騒然とする客たちの視線の先には、明るい髪色の男がレジの前で立っていた。
男は小柄だが背筋をピンと伸ばし、細長い手足がスラリとした印象を与えた。
(どんな人!? どんな顔なの!?)
私が振り向いて顔を確認しようとすると、男は着ていたパーカーのフードを素早くかぶった。あーもう!
でも、かぶる前に一瞬見えた横顔だけは、太陽を直視したあとみたいに強く目に焼きついた。
男の肌は透き通るほど白くて、おおげさじゃなくダイヤモンドみたいな輝きで。
ビルのてっぺんにある避雷針が雷を受けてピカって光ったぐらい、自分の目がまぶしさにくらんだ。
(この人……もしかして「インフル美円サー」かも!)
直感で確信した私は、恥をかき捨てる覚悟でズカズカとその男に近づいて行った。
(第5章へ)
次章へ続きます。