最終章 10、以心電子マネー
私たちの配信をきっかけに、多くの視聴者が「美縁」制度の導入に賛同して署名運動が広がったこともあり、日本政府は早々にこの制度の導入を正式に閣議決定した。
メイクの出来栄えによって判定数値の異なる「美円」と比べて、判定結果が一律な上に計算方法は同じということもあり、システム開発は順調に進み、店舗のAIレジに反映されるまでそれから半年とかからなかった。
誰かと一緒に笑い合える、つまり気持ちが通じ合えるという意味で、いつしか「以心電子マネー」と利用者の間で呼ばれるようになった。
そして、マロさんと私が初めて出会ったコンビニにも、ついに「美縁」による決済システムが導入された。
「AIの判定が『 1美縁 』だったらどうする?」
行きつけのコンビニでレジに並んだ時、ふざけてマロさんに聞いてみた。
「気持ちが伝わるまで、何回でもやり直せばいいよ。キミがボクにしてくれたみたいにね」
マロさんが顔をクシャッとさせて笑うと、頬の傷が一瞬、エクボに見えた。
『いらっしゃいませ。【 美円 】か〖 美縁 〗のどちらのサービスをご利用になりますか?』
AIレジの音声とともに画面が更新されたのを見て、私は五円玉のデザインで真ん中に「縁」と書かれている選択肢をタップした。
『それでは〖 美縁 〗による決済を始めます。音声認証を行いますので、画面に表示された文言をおっしゃってください』
マロさんと私は、二人で画面をのぞき込んで目配せをした。
『3、2、1、ハイ!』
AIレジのかけ声に合わせて、私たちは周囲が驚くほど元気な声で叫んだ。
「「レジよレジよ! 今回の私たちの笑顔は、な~ん縁?」」
目の前の画面には、指定枠からあふれんばかりにニッコリ笑った楽しげな顔が二つ、仲良く並んで映っていた。
(了)
最終章までお読みくださり、誠にありがとうございました。
締め切り日のため、連続の投稿で大変申し訳ございません。