それは…。彗星から切り離された残骸。若しくは生命から切り離された魂。
「流れ星は…。古い言い伝えにしても、科学で解明されたにしても、死んでいますよ。」
「どうして…。」
飯島の言葉は燃え尽きているかの様に唇から零れる。
御子神は無邪気に言葉を置く。
「古い言い伝えでは死者の魂。生命から切り離されたモノ。科学で解明されたのは塵。彗星から零れ落ちたモノ。」
御子神は人差し指を唇に添えた。
「双子座流星群の母天体はファエトン。かつては彗星として生きていた小惑星…。流れ星は、その彗星から吹き出た塵…。あっ…。そういえば…。彗星は…。」
「彗星は?」
「彗星は英語でコメット…。」
御子神は人差し指で空間にCometと文字を描く
「コメット…。」
「そうです。コメットですね。」
そう言うと御子神はー。
人差し指で、ある方向を指す。
飯島の視線はー。
御子神の指先に誘導された。
瞳に映されたのはー。
御子神から切り離された【髪】だった。
「あっ。コメットの語源はギリシャ語の【長い髪】ですよ。」
ーと御子神は告げる。
飯島は…。
床に散乱している黒髪を凝視していた。
あんなにも艶々としていた黒髪はー。
あんなにもキラキラと光を反射していた黒髪はー。
あんなにも生き生きとしていた黒髪はー。
水分を蒸発されたかの様に乾涸びて視える。
切り離されてー。
その光沢を失い…。
朽ちている。
其処彼処に転がるのはー。
生命から切り離された残骸。
それはー。
途端に無気味に見えていく…。
【あぁ…。切り離されると…。死ぬんだな…。】
飯島はー。
心の中で…。
そう呟いた。