切り離されるのは…。
そう考えてしまった時からー。
私は…。
心ここに有らずの状態が続いた。
ふと気付くと…。
床に散らばる髪を掃除している自分がいる。
御子神との会話が何かしらの影を心に落としたのだろう。
別れ際にー。
その少女は、こう言っていたと思う。
「ロマンティックな言葉にも。童話や御伽噺にしても。何かしらの闇があるのだと、家庭教師の先生が言ってました。そう思って、思い返すと…。なるほど…。思い当たる節があるものですね。」
箒で髪を塵取りへと移しながら…。
私は恋人である上村直仁の顔を思い浮かべている。
掃除をしながらー。
私は上村へと連絡をした…。
【ただ、声を聞きたくなった。】
何となく、そう思ったからだった。
上村の声は耳に優しい。暫く、会話をしていると…。
スマホ越しからー。
女性の声が遠くに聞こえる。
「あっ。会社の人と話をしていたんだ…。」
上村は、少し遠くから、そう言うとー。
「また、掛け直すよ…。」
と続け、通話を終える。
私は、その言葉の裏にある物語を考えてしまった。
その言葉は、私に向けて言ったのだろうか?
それとも…。私以外の誰かに言ったのだろうか?
静寂が辺りも心も包んだ。
聞こえるのは蛍光灯のジリジリとした音だ。
目蓋を閉じると…。
少女の言葉がグルグルと廻る。
そう。
私は…。
毎日、鋏を扱う。
ジョギリ。ジョギリ。
そう音を立てながら…。
私は髪を切る。
髪を切り、掃除をしていると…。
ふと、髪の塊が無気味に思えたのだった。
あんなにも艶々と光を反射していた髪がー。
鋏に切り離されるのと同時にー。
【死んでいく。】
ジョギリ。ジョギリ。と…。
色が褪せては、くすんでいく。
艶も。香りも。手触りも。
其の何れもが、【死んでいく。】
生命から切り離されたらー。
堕ちて死んでいくのだと…。
その考えが頭から離れはしない…。
「全然、ロマンティックじゃない…。」
私の唇から、無意識に言葉が零れ落ちた。
その後、暫くしてー。
私は、死骸を掻き集め…。
店の裏のポリバケツへと放った。
不意に何かが嗅覚を刺激する。
つられて、私はポリバケツを覗き込んだ…。
何故か、其処には【手首】があった。
色は褪せて、くすんでいる。
何事も無かったかの様に…。
私は、ポリバケツに蓋をした。
あぁ。
「やっぱり、切り離されると死ぬんだな…。」
そう呟いて…。
私はー。
翌日、店を辞めた。




