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グリム・ライト  作者: 紅零亜種
第6章 監獄脱出作戦
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魔術師の戦い方【前編】

 暗く湿った通路に足音が響く。リオンとゼーラは狭い廊下を慎重に進んでいた。床も壁も石造りで、所々苔むしたような跡が見える。遠くからは水の滴る音と微かな話し声が反響してくる。


「……ここは一体どこなのでしょうか?」


 ゼーラが小声で呟いた。銀色の髪がリオンの杖の光に充てられ鈍く光っている。


「さっきの男の魔法だろうね。空間魔法……というよりかはこの監獄その物を操ってるって感じかしら?」


 リオンは辺りを見回しながら応じた。


「実際壁自体は魔力ではなく石でできている。特有の魔法文字が刻まれているけどね。これに固有魔力を流し込んで建物を操作をしているってとこかな」


 彼女は壁に手を添えながら歩く。


「要はあの男を倒さないと、私たちもみんなも永遠に閉じ込められたままになるってこと」


 その言葉にゼーラはハッとした。


「では他の皆さんも……!」

「全員バラバラになってるでしょうね。そう簡単にはやられなちとは思うけどね。まぁ少なからず、相手からは私たちの狙いはバレてるって考えた方がいいね。」


 リオンは淡々と言い放つ。


「とにかく今私たちがすべきことは一秒でも早くみんなと合流してギルドに戻ること。そのためにもマリアさんと合流したいけど……そもそもの連絡手段が機能していないところから彼女の魔法も封じられてる可能性が高い」


 ゼーラの顔に不安の色が浮かぶ。


「それでは……」

「心配しないで。そもそも作戦が全部うまくいくなんて誰も思ってないから。ある程度のトラブルはサブマスも予想してたことだし、まぁ想定内の最悪の一手をうたれたって感じかな?」

「そう……なんですか」


 ゼーラは複雑な表情で頷いた。


「そうそう。だから今は私たちがやるべきことをする」

「やるべきことですか?」

「この建物を掌握している本体を倒して、魔法を解除させる」


 リオンは足を止め壁をなぞるように触れた。


「でもどうやって?」

「どんな大規模魔法でも発動は魔導士本体からでだし、そこには必ず魔力の流れは大なり小なりある。言ってしまえばこの流れを読めさえすれば、本体には簡単にたどり着けるってわけ」

「へぇ~」

「幸い、この壁の魔法文字を辿れば本体は簡単に見つかる。というかお相手も最初から私たちと戦う気みたいだけどね」

「どういうことですか?」

「この通路をここまで歩いてきて一つも分かれ道がなかった。それどころかこの先だね、本体」


 リオンはそう言って、薄暗い通路の先を指差した。ゼーラはごくりと唾を飲み込み覚悟を決める。


「大丈夫だよゼーラ。貴方のことは私が守るから」


 リオンは笑顔で言った。ゼーラも微笑み返す。


「ありがとうございますリオンさん」


 二人は互いに頷き合うと、迷いなく通路の奥へと進んだ。そしてしばらく進むと前方に古びた鉄の扉が現れた。扉は錆び付き歪んでいたが鍵は掛かっていないようだ。二人は警戒しながら扉を開けると―――

 そこは巨大な円筒形のホールだった。遥か高い天井には無数の魔石による映像が映し出されていた。魔石の光が部屋全体を幻想的に照らし出し異世界の宮殿を思わせる。だが最も目を引いたのはホールの中央に鎮座する一人の人物だった。

 ホールの中央には椅子に座り俯いている青年がいた。年齢は20代半ばくらいだろうか。背筋は丸まり猫背気味だ。着ている黒いスーツは汚れており、袖口からは細い手首が覗いている。ボサボサの茶色い髪は目にかかりそうなほど伸びており顔が見えにくい。青年は椅子の上で両膝を抱えるようにして座り込んでいた。


「……ボスの言う通りだった。ほんと面倒だなぁ……でもボスはこのままでいいって言ってたし……」


 青年は親指の爪を齧りながら小声で呟いていた。時折唇を尖らせたり舌打ちしたりと落ち着きがない。


「なんで僕なんかがこんなこと……ああ嫌だ……」


 青年は椅子の上で体を揺らしながらぶつぶつ言っている。その視線は頭上の魔石映像へと向いていた。魔石にはこの監獄の各施設の様子が映し出されている。彼はその光景を見て怯えた表情を見せる。


「どうしよう……どうしよう……僕…こんなことできるのかな?」


 青年はそう言いながら親指の爪を強く噛み締める。その仕草からは強いストレスと恐怖が見て取れた。そんな様子をゼーラたちは扉の陰から窺っていた。リオンが小声で言う。


「いますね」


 ゼーラも小さく頷く。


「ええ、後ろ姿で確証はないけど、さっきの男で間違いないわね」


 リオンは青年を観察しながら分析する。


「かなり挙動不審ね。案外話せば私たちのことを逃がしてくれるのでは?」

「そうかもね。でもそんな余裕はないからね」


 その言葉を聞くとゼーラは息を飲んだ。しかしリオンはすぐにこう続けた。


「だからこっちから仕掛ける」


 言うが早いか彼女は扉を思いっきり蹴り飛ばした!


「え⁉」


 ゼーラが驚く暇もなくリオンは杖を構え詠唱を開始する。


「灼熱の矢よ、敵を穿て。【ファイア・アロー】」


 詠唱と同時に杖の先端から火の玉が発射された。その弾道は一直線に青年へと向かう。しかし――


 ドンッ!!


 突如青年の前に土の壁が隆起し炎の矢を受け止めた。土壁は衝撃を吸収するとそのまま崩れ落ちた。


「……なんで来ちゃったんだよ……。戦いたくなかったのに……」


 土煙の中から掠れた声が聞こえてきた。その声には明らかに戸惑いと拒絶の感情が含まれていた。やがて煙が晴れるとそこに立っていたのはさっきの青年だった。彼は震える手で顔を隠しながら後ずさっている。


「……やめてよ……怖いじゃないか……」


 彼の目には涙が浮かんでいた。そしてその体は小刻みに震えている。


「水よ、眼前の敵を沈めよ。【アクア・ボール】」


 その言葉と同時にリオンの周りにいくつもの魔法陣が出現し、水の球を生成する。そして、青年に向けて一斉に放った。対する青年は怯えた表情を浮かべるだけだった。水の球は青年の身体を包み込み溺死させようとする。しかし――、


 ズゴォッ!!


 突如地面が大きく盛り上がり青年を飲み込んだ。そして水の球は全て弾かれた。


「……いやだよ……ほんとに……なんで来るんだよ……」


 地中から青年の声が聞こえてくる。彼の周囲の地面が蠢き形を変え始める。そして次の瞬間――


 ズアァッ!


 土煙を切り裂いて巨大な岩の手が出現し、リオンの攻撃をすべて防いで見せた。


「元々、戦いたくなんかなかったんだよ……痛いし…傷つくし……」

「それじゃあ、このまま降伏してくれたら嬉しいんだけど」


 リオンは冷静に言った。その声には一切の感情が籠っていない。


「……無理だよ…ヴァルさんに怒られるし……だから、あの中で一番弱そうな君たちを選んだよ……僕でも楽に勝てそうだったから」

 青年、セリオンは自嘲気味に言った。次の瞬間、天井の形が変わって槍のように二人を突き刺しにかかった。しかしリオンは杖の先を地面に打ち付ける。すると杖先からリオンとゼーラを覆うように魔障壁が展開され、攻撃を防ぐ。


「……へぇ、私たちも随分と舐められたものね」


 リオンは冷静に言った。その声には冷たい怒りが込められている。


「大丈夫ですかリオンさん⁉」


 ゼーラは心配そうにリオンを見た。しかしリオンは平然とした様子で頷く。


「いい機会だわ、一つ講義をしましょうか」


 リオンはゼーラの方を向いて言った。


「え?」


 突然の言葉にゼーラは困惑した表情を見せる。だがリオンは構わず言葉を続ける。


「見せてあげるわ。魔術師の戦い方を」


 不定期ですが、これからもよろしくお願いします

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