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グリム・ライト  作者: 紅零亜種
第6章 監獄脱出作戦
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獣食い 【前編】

《コレヨリ、殲滅モードヘ移行スル。》


 ゴーレムの頭部スピーカーから機械的な合成音声が響き渡る。黒い巨躯がゆっくりと屈むように身を低くした。


「なんだかよくわかんねぇが、敵ってことでいいんだよなぁ!」


 ジークは吠えた。躊躇いなどなく、拳に灼熱の業火を纏わせ、立ち上がろうとするゴーレムへ猛然と飛びかかる。


「【竜王の一撃】」


 渾身の拳がゴーレムの胴体へ叩き込まれた――はずだった。


 ゴッ!


 鈍い衝撃音。ジークの拳は確かにゴーレムの分厚い装甲に命中した。しかし次の瞬間、信じ難い光景が広がる。

 黒い装甲の表面が微かに波打ったかと思うと、ジークの拳から迸る灼熱の業火がまるで吸い込まれるようにゴーレムの左手に吸収されていく! 炎は装甲表面を伝い、関節部に収束し、やがてゴーレム全体が淡い赤熱を帯び始めた。


「なッ……!?コイツ、 俺の魔法が吸い込みやがった……!?」


 ジークの目が見開かれる。瞬時に危険を察知し、ゴーレムの胴体を足場に全力で後方へ跳躍し、距離を稼いだ――その刹那、


 ゴォッ!!


 風を切る轟音と共に、ゴーレムの巨腕が恐るべき速度でジークへ迫る。


(速ぇ!)


 ジークの回避行動は間に合わない。巨大な質量が彼の腹部を直撃し、鉄球で打ち付けられたような衝撃が体内を駆け巡る。


「ぐぅぉおっ……!!」


 呻き声と共に、ジークの体は紙切れのように吹き飛ばされた。岩壁に激突し、砕け散る岩片の中に埋もれながら、彼は咳き込み血を吐く。


「……っふぅ」


 しかし即座に起き上がり、崩れた岩壁を蹴り飛ばし脱出する。あれほどの一撃をまともに受けたジークであったが何事もなかったかのように無傷で立っていた。


「おいおい、木偶の坊にしてはいいパンチ持ってんじゃねぇか!」


ジークは獰猛な笑みを浮かべる。瞬間、ジークは距離を詰め、次の一手に出た。吸収されることを承知の上で、彼は拳に新たなる灼熱を纏わせる。


「そんなに俺の魔法が吸い込みてぇなら、何度でも喰らわしてやるよ!」


 ジークが次に取った策は連打であった。業火を拳に纏ったまま、疾風のようにゴーレムへ接近し、胴体めがけて立て続けに三発叩き込む。


ドゴッ!ガキィン!ドゴォン!!


 吸収音と衝撃音が交互に響く。ジークの拳が触れるたびに灼熱の業火がゴーレムへ流れ込み、黒い装甲が更に赤熱を増していく。しかもジークは拳だけでなく、蹴りにも炎を纏わせた。


「【竜王の旋脚】」


 炎を纏った回し蹴りがゴーレムの側頭部を薙ぐ。


 ボォウッ!!


 吸収音が響く。ジークは蹴りの反動を利用して一旦後方へ跳躍し、距離を置いた。しかし次の瞬間にはまたしても飛びかかる。今度は左右の拳を交互に繰り出し、連続で業火を叩き込む。


「うらぁああああっ!!」


 ドゴン!ガキィン!ドガァン!ズドォン!!


 吸収音が連鎖的に響き渡る。ジークの魔法は次々とゴーレムに吸収されていく。ゴーレムの全身を覆う赤熱は最早尋常ではない温度に達していた。装甲の隙間からは過剰な熱量が蒸気となって噴き出し、周囲の空気さえ歪ませるほどだ。


(やっぱ吸収できねぇ限度があるってわけだ!限界まで溜め込ませてぶっ放してやるぜ!)


 ジークの獰猛な笑みが深まる。彼はゴーレムが魔法を吸収する機構があることに気付いており、その上限を超えることで暴走を誘発させる算段だったのだ。

 ジークの拳と蹴りがゴーレムの装甲を何度も叩き、灼熱の業火が流れ込む。赤熱はどんどん強くなり、遂にはゴーレム全体が眩い光を放ち始めた。


「これで終いだ!」


 ジークは距離を取るのと同時に、大きく空気を吸い込む。


「【竜王の豪焔吐】」


 口から超高熱の炎の奔流がゴーレムへと放射される。もはやゴーレムの魔力許容量は限界を超えているはずだった。

 しかし――


ズゥン……


 突如として異変が起こる。ゴーレムを中心に淡い青紫色の輝きが発生し始めたのだ。それは見る間に直径二十メートル近いドーム状のバリアとなり、ジークの業火を受け止める。業火はバリア表面に触れると火花を散らし、まるで水に濡れた布のように掻き消えていった。


(バリアだと……!?)


 一瞬の硬直。その刹那が命取りとなった。


 ゴオォッ!


 ゴーレムの巨大な右腕が先ほどとは比べ物にならない速度で伸びる。手には巨大な刃が握られており、まるでギロチンの如く、ジークを捕らえる。


 ガキィインッ!!


 凄まじい斬撃音と共に、ジークの右腕が宙を舞う。肩口から肘近くまでが切断され、血飛沫と共に落下する。


「あ?」


 ジークが状況を理解するよりも先に痛みが襲いかかる。しかし、ゴーレムの追撃が止まらずその強靭はジークの胸を完全に貫いてみせた。鮮血が溢れ出しジークの胸部から滴り落ちる。


「ぐはぁッ……!」


 呻き声と共にジークの体が崩れ落ちる。胸部に開いた穴は致命傷以外の何物でもなかった。ゴーレムはジークを大剣に串刺しにしたまま持ち上げ、まるで血を払うように投げ捨てる。ジークの体は壁に激突し、そのまま崩れ落ちた。


《一名排除。一名捕捉》


 ゴーレムの合成音声が勝鬨のように響く。そしてゴーレムは次の標的として鉄仮面の男を捉える。鉄仮面の男は少し距離を取ったところで戦いの行方を見守っていたが、ゴーレムが標的を変えたことに気づくと立ち上がり迎撃体制に入る。ゴーレムは再び巨大な腕を振り上げ、鉄仮面の男へと凶器を振り下ろそうとしたその時───、血だまりの中から声が響いた。


「……くはぁ~、正直木偶の坊だって舐めてかかってたぜ」


 鉄仮面の男は反射的に振り返る。そこにはありえない光景が広がっていた。

 ジークの胸部には巨大な穴が穿たれ、右腕は肩から切断され鮮血が噴き出している。常識的には即死レベルの重傷であった。だがジークは片膝をつきながらも意識を保ち、血塗れの顔に不敵な笑みを浮かべていた。


「マジで痛ぇよ……こんなに痛ぇのは久しぶりだ」


 声には明らかな苦痛が混じっている。しかしジークの目は死んでいない。むしろ爛々と輝きを増していた。

「だがよ……」


 ジークはゆっくりと立ち上がる。右腕の断面からも胸の傷口からも大量の血が滴り落ちる。にも関わらず彼は全く動じることなくゴーレムを見据える。

 そして――


 ボッ!!


 ジークの右腕の断面と胸の傷口から突如として猛烈な炎が噴き上がる。 赤々と燃え盛る炎は彼の失った部分を補うかのように形を作り始めた。切断された右腕は炎の中で再構成され、胸の大きな穴は焦げ跡を残しながら塞がっていく。そして僅か数十秒でジークの身体は完璧に元通りになった。切断された右腕も胸に穿たれた大穴も全て綺麗に治癒し痕跡すら残っていない。

 その不死身とも呼べる生命力を見せつけられた鉄仮面の男は息を呑む。


《……生命反応ヲ確認。復活モード?データベースナシ。エラー》


 ゴーレムの頭部スピーカーから混乱した合成音声が漏れる。ゴーレムもまた予期せぬ事態に処理が追い付いていないようだった。ジークは軽く右手を握り締める。感覚を確かめるように指を曲げ伸ばしし動きをチェックする。


「よし問題ねぇな」


 そして改めてゴーレムを見据え不敵な笑みを浮かべた。


「ここまで傷を負ったのは5年前ぶりかぁ?俺も少しなまったかな」


 ジークは首を鳴らしながらゴーレムに向き直る。その瞳には依然として闘志が燃え盛っていた。


「ありがとな木偶の坊。おかげで俺もちょっと本気出せそうだぜ」


 彼はゆっくりとゴーレムへ歩み寄る。一歩踏み出すごとに石畳が軋む音が響く。ゴーレムは混乱状態から抜け出せないようで動かない。胸甲の逆十字模様が激しく点滅を繰り返している。


「さぁ、続きをしようか木偶の坊」


 ジークはゴーレムの眼前まで近づくと拳を握り締めるであった。


不定期ながら頑張っております

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