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グリム・ライト  作者: 紅零亜種
第6章 監獄脱出作戦
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ギャンブル

  空気の震えるような感覚と共に、マリアの視界が歪んだ。重力の向きが変わり、身体がふわりと浮く感覚――次に気づいたとき、彼女は一面灰色の石壁に囲まれた狭い空間に立っていた。四方を厚い岩肌が覆い、唯一の出入り口と思われる鉄格子の扉はしっかりと施錠されている。


「……はぁ、やっと来たか」


 低く乾いた声が響く。部屋の隅に置かれた粗末な木製ソファに一人の男が深く腰かけていた。サングラスをかけ金品に装飾された制服を身にまとった赤い坊主頭の男――ダリオンが、一枚の金貨を親指で軽快に跳ね上げながら、マリアを冷たく観察していた。硬貨は空中で松明の炎を反射して煌めきながら、ほとんど音もなく彼の掌に収まった。


「てめぇが、グリム・ライトの魔導士だな?」


 ダリオンは気怠げに問いかける。マリアは頬に手を当てて考える素振りを見せながら、口を開く。


「あららら、ここはどこかしら?さっきまで連れと一緒にいたと思うのだけど……、気が付けば目の前にガラの悪そうな人が~」

「おいおい!連れねェ~な~。せっかく準備したんだぜ。話相手くらいにはなれよ?」


 ダリオンは鼻で笑いながら金貨を弄ぶ。その目はマリアの動揺を探っているようだった。マリアは困ったように首を傾げる。


「ふーん、その割には簡素な部屋ね。こんな部屋で女性を相手できるとお思いかしら?そうなのでしたら……」


 マリアは優雅に微笑みながら、しかし鋭い眼光でダリオンを射抜く。


「――正直、ママのお腹の中からやり直したほうがいいですよ」


 その言葉にダリオンの表情が一瞬ピクリと動き、そして嘲るように歪んだ。


「ヘッ、こりゃいいぜ。その上から目線、生意気で気に入ったぜ。正直言って、俺好みの女だ。だが、生憎この監獄の中での罪人をもてなす為の独房スイートルームはここにしかないもんでな」


 ダリオンは金貨を弄ぶ手を止め、ゆっくりと立ち上がる。その動きには狂気と欲望が混じり合っていた。


「アンタら二人があいつらの要だってのはあらかたうちのボスが目星をつけてた。で、アンタが他の連中に合流しないように俺が担当することになったんだが……、アンタ、ギャンブルは好きか?」

「……どういう意味?」


マリアは警戒心を露わにする。


「俺は昔から親がギャンブル狂いでよォ~。毎日が賭場みてぇな家だった。負け続きの奴らが俺に手を挙げるのは日常茶飯事でよ。お袋なんざ、借金のカタにどっかのジジィの妾に売られてからは帰ってこねぇしよ」


 ダリオンは過去を嘲笑うように語る。


「……不幸自慢ですか?」


 マリアは苛立ちを隠さずに言い放つ。


「だがよォ~、それでも俺はギャンブルが好きなんだよなァ~。何度失敗しても、何度ツキに見放されても……、一度のあたりで全部ひっくり返せる。その瞬間がこの世の快楽の中で一番だって思えるんだよ」


 ダリオンは熱っぽく語り、金貨を再び弄び始めた。


「それがどうしたって言うの?」


 マリアは呆れた様子で問い返す。


「すまねぇ、少し話が逸れたな。まあ、なんだ、要するによォ~、俺はここでアンタを閉じ込めておけばいいんだが、それじゃあつまらねぇと思ってな。だから、俺と一緒にギャンブルをしようぜ。もちろん、掛け金はお互いの命でな」


 次の瞬間、ダリオンの背後に魔力が集束し、巨大なピエロがルーレット台を抱えて出現する。その異様な光景にマリアは一瞬たじろぐが、すぐに平静を取り戻し、優雅に微笑む。


「へぇー、私が馬鹿正直に貴方のギャンブルに付き合うと思っているの?」


 マリアは挑発的に言う。


「付き合うさ!なんたってアンタ今、魔法が使えないからな」


 ダリオンの言葉にマリアの表情が変わる。


「……気づいていたのね。」

「この独房に付与されている効果は『魔法による交信の制限』。平たく言えば、()()()使()()()()()()()()()()()()()()ってことだな」


 ダリオンは嘲笑う。


「正直賭けだったんだぜ、アンタじゃなくて、あっちの方が移動系の魔導士だったら俺じゃあ役不足だからな。でも、アンタのその様子を見る限りにゃ~、賭けは俺の勝ちだな」


 ダリオンはニヤリと笑う。


「……」


 マリアは言葉を失う。


「魔法が使えない以上、この牢屋を破壊することはおろか、誰かに連絡して助けを求めることもできない。アンタにはここで大人しく俺のギャンブルに付き合うしか選択肢はないって訳よ」


 ダリオンは勝ち誇ったように言う。


「なるほど……ね!」


 次の瞬間、マリアは袖から小型のナイフを取り出し、ダリオンに投擲した。しかし、ナイフはダリオンに届くことなく後ろのピエロによって防がれた。ダリオンはピエロの化身体がナイフを掴んだ様子を見て、嘲るように笑った。


「やめておきな、このジャッジマンがいる時は、あらゆる攻撃を防いじまうからな」


 マリアは顔を歪ませながらも冷静さを保とうとしていた。


「……それで?貴方のその気持ち悪いピエロは何のために存在するのかしら?」

「お?やっと興味が出てきた見てぇだな。俺の固有魔法は【フェルカ・ロトリア】。見ての通り、この道化師のジャッジマンとコインを使うわけだが──」


 彼は背後の巨像を親指で示す。


「──ルールは簡単だ。俺が投げたコインの表裏を互いに予想しあてるだけ。ただし外れたら……まあお楽しみだな」

 ダリオンは懐から金貨を取り出し、ゆっくりと親指に乗せる。


「今回はサービスで一枚だけにしてやるよ。しっかり考えな?」


 コインが空中に舞い上がった瞬間、ジャッジマンのルーレットが轟音と共に回転し始めた。盤面には紅・青・黄色・緑など多彩な色が刻まれている。


「ちなみにルーレットが止まるまでに表裏を宣言しないと自動的にハズレ扱いだからな」


 コインが頂点に達し落下を始める。同時にルーレットの速度が緩やかになっていく。マリアは刹那の判断を強いられていた。明らかに不利な条件だが──


「……表」


低い声で彼女が呟くとほぼ同時に、


「裏だ!」


ダリオンが大声で宣言した。


チャリン……


 コインが床に落ちる音が牢獄に響く。金貨は微かに揺れながらも確実に裏を示していた。一方ルーレットは紫色のゾーンで停止した。途端に空気が淀む。ジャッジマンの腕が光り出し、凝縮された魔力の塊を形成した。


「外れた(ペナルティ)だ!喰らいな!」


 紫色の魔力弾が高速でマリアに向かって射出される。反射的に横へ跳躍するマリアだったが、魔弾は進行方向を変え、マリアへ直撃し、爆音とともに土煙が舞い上がった。


「ヒャハハ!(ペナルティ)は絶対だ!避けることはできねぇ!だが───」


 ダリオンは高笑いをしながらも、煙の方を注視する。爆発跡には大きな凹みができており、煙が晴れると中心に人影が見えた。


「さすがはグリム・ライトの魔導士ってとこか、これくらいじゃダメージにならねぇか」


 マリアは全身を煤まみれにしながらも毅然と立っていた。体には薄い膜のような魔力障壁が残存している。

「これが……あなたの固有魔力ですか?」


 マリアは静かに問う。


「ああ、その通り!これが俺の固有魔力【フェルカ・ロトリア】だ!コインの枚数が多いほど威力は倍増する!このギャンブルは勝つまで終わらねぇぜ?」


 ダリオンは得意げに語る。


「自分の魔法についてペラペラとよく喋れますね」


 マリアは呆れた表情で言う。


「ルールを知ってこそ賭けは平等になる。そうじゃねぇとおもしろくねぇだろが!」


 ダリオンは即座に否定する。


「さぁ、次は少し枚数を増やして三枚にしようか?」


 チャリンチャリンチャリン!


 三枚のコインが宙を舞う。ルーレットが再び回転し始める。


(おかしい、何かが引っかかる……)


 マリアは苦々しい表情でそれを睨む。


「さあ、さっきと同じように予想しな!」



 ダリオンは威圧的に促す。


「表が2枚!裏が1枚だ!」

「……全部裏よ」


 両者の宣言が重なる。


 カラン……


 一枚目:裏、二枚目:裏、三枚目:表。


「おいおい、二人とも外れちまったなぁ‼」


 ダリオンは嬉々として宣言する。ルーレットが再び停止し、今度は橙色のゾーンに止まった。ジャッジマンの手に膨大な魔力が凝縮されていく。その規模は先ほどの比ではない。


「二人とも外れたのにどうして!?」


 マリアは驚愕し声を荒げる。


「誰も俺とアンタの答えがハズレだったらルーレットの(ペナルティ)が回避できるなんて言ってないぜ?」


 ダリオンは冷酷に笑う。


「最低……」


 マリアは毒づく。


「最高の褒め言葉だぜ!」


 ダリオンは皮肉を返す。同時に二つの橙色の魔力弾が二人に放たれた。凄まじい速度で接近する魔弾を前に、二人は防御態勢を取る。魔力弾は二人に接触したのと同時に先ほどとは比較にならないほどの大爆発を起こし、独房全体を揺らした。爆発による振動が収まり、ゆっくりと砂煙が晴れていく。二人の人影が確認できた。ダリオンは依然として余裕の表情を浮かべている一方、マリアはかなり疲弊している様子だった。


「ハハハハハ!いいね、いいね、この痛み!このスリル!アンタもそう思うよな?」


 ダリオンは嘲笑する。


「……うるさいわね」


 マリアは小さく呟く。


「それじゃあもう一度3枚でいってみようか⁉」


 ダリオンは再度三枚のコインを高く放り投げる。


「さあ、宣言しな!俺は表が1枚!裏が2枚だ!」

「……表が1枚、裏が2枚よ」


 マリアは静かに宣言する。両者がそれぞれの予想を述べ終えると、ダリオンは不敵な笑みを浮かべる。


 カラン……カラン……


 コインが床に転がる音が響いた。一枚目:表、二枚目:裏三枚目:裏。


「おいおいマジかよ?」

「今度は、貴方だけがハズレみたいね」


 マリアは微笑む。ルーレットが停止し、緑色のゾーンに止まり、道化の眼が怪しく光り出す。緑色の魔力が凝縮され、ダリオンの身体を包みだす。すると、さきほどのダメージが嘘のように傷が癒えていく。


「ハハハハハ、今日はついてるな!今回の罰は回復魔法だったみたいだぜ!」


 ダリオンは安堵の表情を浮かべる。


「……、本当に厄介な魔法ね」


 マリアは顔を歪ませる。


「ああ、楽しくなってきただろ?さぁ、第二ラウンドをはじめようか!」


 ダリオンは高らかに宣言し、5枚のコインを宙に放り投げる。回転するルーレットが低く唸りを上げ、不吉な雰囲気を醸し出すのであった。


少し投稿ペースが落ちていますが許して

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