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グリム・ライト  作者: 紅零亜種
第5章 大監獄【クロス】
36/40

作戦前夜

 雪が多く降ってきてしんどいですが頑張ってます

 薄暗いランプの灯りが揺れる部屋の中、サファイアは窓際に立ち、遠くを見つめていた。執務机の上には明日の作戦に関する資料が広げられている。集中力が途切れかけたその時――。


 コンコン。


 控えめなノックの音が響いた。サファイアは振り返り、眉を少し上げた。この時間に自室を訪れる者は限られている。


「どうぞ」


 扉が静かに開き、そこに立っていたのは意外な人物だった。


「スザク先生……珍しいな、貴方が私の部屋に来るなんて」


 スザクは漆黒の髪を軽くかき上げながら部屋に入ってきた。その鋭い視線は常に何かを見透かすようだ。


「失礼するよ、サファイア君」


 スザクは淡々と言った。


「少々気になることがあってね」


 サファイアは机に寄りかかり、腕を組んだ。


「ほう? お前が気になることとは?」


 口元に皮肉めいた笑みを浮かべる。


「私の采配に不満でもあるのか?」


 スザクはサファイアの正面に立ち、率直に切り出した。


「単刀直入に聞こう。なぜゼーラを監獄への潜入チームに選んだのか? 彼女はまだ半人前だろう? 敵陣に向かわせるなんて危険すぎるのではないか?」


 サファイアは一瞬考え込み、それから小さく肩をすくめた。


「簡単な答えだ。それが一番安全だからだ」


 スザクの眉がわずかに動いた。


「ほう、意図を聞いても?」


 サファイアは窓辺に移動し、遠くを見つめながら説明を始めた。


「この作戦はある意味では博打の部分を有している。ミラーたちにはある程度時間は稼いでもらったとしても、救出作戦が終わる前に確実に聖騎士団は動き始めるだろう。そうなった場合、全面戦争は避けられない。そしてその戦場は大きく二つに分かれるとボクは考えている。一つは監獄【クロス】の奪還戦争。そしてもう一つがここ、ギルド本部のあるここ【トラキア】だ」


 サファイアは振り返り、スザクをまっすぐ見据えた。


「前者は確実に現時点でこのギルドに所属するメンバーの中で最も戦闘能力の高い兄上を筆頭に囚われてはいるがジークもいる。だがここトラキアはそうもいかない。そもそもボクらと聖騎士団はそもそも兵力に大きな差がある。その差を埋めるために必要だったのがジークであり、ボクらが勝つには必須条件である。故に確実な方法として兄上を監獄に潜入してもらった。ではそれを知った敵はどのような行動を取ると思う? 確実に彼らは二手に分かれる。一つは監獄に向かって兄上とジークを捕まえるために迎撃する。そしてもう一つはここトラキアに向かってギルドの制圧に向かうだろうね」


 スザクは静かに聞いていた。


「……つまり、このギルドが狙われる可能性が高いと?」


 サファイアは頷いた。


「ボクならそうする。だからこそこのクエストの勝利条件は、いかに早く兄上たちがギルドに帰還するかにかかっている。もちろん聖騎士団との戦闘が始まれば兄上やジークは確実にギルドに戻ってくるだろう。しかし彼らが戻るまでの間ボクたちは単独で聖騎士団を食い止めなければならない。さらに敵は誰をこのトラキアに向かわせるかまでは読めない。もしかしたら、全勢力で監獄に向かうかもしれない。それか半分に軍を分けて攻めてくるかもしれない。もしかしたら、兄上たちを監獄の戦力だけで足止めして、残る全軍でここを攻めてくるかもしれない。このギルドに残るメンバーはもちろん一騎当千の実力を持つ実力者たちだ。だが、もしそうなった場合、ゼーラを守れるほどの余裕がボクらに残っているか。もちろんそうなれば死ぬ気でゼーラを守るけどね。リスクを避ける意味でもゼーラには確実に保護が必要だ。しかし兄上たちと共に行動していればそのリスクは限りなく0に近くなる」


 スザクはしばらく黙考し、やがて低い声で言った。


「なるほど……」


 スザクはサファイアの説明に納得したようだったが、まだ何か言いたげだった。


「しかし、そうなれば私たち非戦闘員2人も危険では?」


 スザクの指摘はもっともであった。しかし、サファイアは不敵な笑みを浮かべた。


「それは愚問じゃないかセンセー。ボクも貴方も逃げ回るのは得意だと思っていたんだけどね」


 その言葉にスザクは小さく笑った。


「確かに……」

「それに……、」


 サファイアは言葉を続けた。


「兄が帰ってきたら『おかえり』を言うのは妹の特権さ」


 スザクはその言葉に少し驚いた表情を見せたが、すぐに平静を取り戻した。


「フフ……、相変わらず回りくどい言い方をするな。時間を取らしてすまなかった。私は部屋に戻らしてもらうよ、今は頗る筆の調子がいいんでね」


 スザクは踵を返し、部屋を出て行った。扉が閉まると同時に、サファイアは小さく息をついた。


「さて、始めようか。国の存亡を掛けた戦いを」


 サファイアは再び机に向かい、ペンを手に取った。そんな様子を遠い木の上で小さな緑の鳥が見つめていた。


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