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グリム・ライト  作者: 紅零亜種
第5章 大監獄【クロス】
34/40

修行

 朝靄がまだ残る庭。ひんやりとした空気が肌を撫でる。私は息を吸い込み、目の前のリオンさんに向き直った。


「よし、それじゃあ昨日の続きをしよう。まずは体内の魔力感知から。焦らずに、自分の体の中心に意識を集中させてみて」


 リオンさんの静かな声が響く。私は何度も練習した通りに、自分の胸の中心あたりに意識を集中させる。


「そう、次に大気中にあるマナを自分の体に取り込むイメージだ。深呼吸するように、ゆっくりと」


 目を閉じて、リオンさんの言葉に従う。深く息を吸い込むと同時に、空気中にあるという微かなエネルギーが自分の中に流れ込んでくるのを感じようとする。


(ダメだ。昨日よりは少しマシになった気がするけど、やっぱり掴みどころがない)


 何度繰り返しても、ぼんやりとした感覚にしかならず、イライラが募る。そんな私の心情を読み取ったのか、リオンさんが穏やかに声をかけてきた。


「焦らないで。魔力操作は一朝一夕で身につくものじゃない。君の場合は基礎がしっかりとできているから、あとは慣れだ。ほら、もう一度ゆっくりやってみなさい」


 リオンさんは私の肩に優しく手を置いた。その温かさに少しだけ気持ちが落ち着く。再び目を閉じて集中する。今度は少し長い時間をかけて呼吸を整え、意識を自分の体の隅々まで行き渡らせるように努めた。どれくらいそうしていただろうか。不意に、ほんの僅かではあったが、体全体に暖かな感覚を憶えた。


「あ」


 思わず声が漏れる。リオンさんもそれに気づいたようで、「おや」と小さく呟いた。


「感じた? それが魔障壁。今はまだ薄いけど、確実にできているよ。すごいじゃないか」


 リオンさんの言葉に、達成感が胸に湧き上がる。しかし同時に、これだけで喜んでいられないことも分かっていた。明日からの作戦のために、もっともっと練習しなければ。


「ありがとうございます。でも、まだ全然実戦では使えませんよね」

「最初は誰でもそうだ。大切なのは、こうして一つ一つ成功体験を積み重ねていくことだよ。それにゼーラは筋が良い。その調子でやればきっとゼーラ自身の固有魔力も引き出せる」


 リオンさんはそう言って微笑むと、少し真剣な表情になった。


「さて、今日まで教えてきた魔障壁だけど、実はこれには応用方法がある。それは───」

「固有魔力の付与ですよね」


 私が続けると、リオンさんは少し驚いたように目を見開いた後、また穏やかな笑みを浮かべた。


「その通り。よく勉強しているね。自分の得意属性を魔障壁に付与して能力を補強したり、場合によっては防御に使うこともできる。例えばミラーの他人には別の人物に見せている魔法も理屈としては自分の身体張った魔障壁に自分の固有魔力を付与することで本来一人一人を対象にして行わないといけない魔法を最低限の魔力出力で多くの対象に誤認を起こさせている」

「すごいです。私にできますか?」


 私は期待を込めて尋ねた。


「もちろん。ただし、まずは君自身の固有魔力を見つけないことには始まらない。それにはあなたが今やっているような地道な魔力操作の訓練が不可欠なんだ」


 リオンさんの言葉に改めて気を引き締める。固有魔力……それは魔導士にとっての個性であり、最大の武器だ。自分にもそんな力があるのだろうか。そう思うと、胸が高鳴るのを感じた。


「さて、休憩にしようか。明日はいよいよ作戦開始だ。今日はもう無理はしない方がいい」


 リオンさんはそう言って立ち上がった。


「はい」


 私も立ち上がり、軽く伸びをする。朝日に照らされた庭は美しく、鳥のさえずりが聞こえてくる。平和な光景だ。けれど、その裏で大きな陰謀が動き出そうとしていることを私は知っている。


(……明日から、私もその渦中に飛び込むんだ)


 不安がないわけではない。むしろ怖さの方が大きいかもしれない。それでも、ゼロや他のみんなのために、私にできることを精一杯やるしかない。


「ああ、そういえばゼーラ、君にプレゼントがあるんだ、今から私の工房に来てくれない?」


 リオンさんが唐突に切り出した。


「プレゼントですか?」


 私が尋ねると、リオンさんは少しだけ悪戯っぽく笑った。


「ギルドの仲間になったあなたに私からの餞別。気に入ってくれたらいいな」


 そう促され、私はリオンさんに続いて研究室へと向かおうとしたその時だった。


「おっはよー!リオン!ゼーラちゃんも朝から精が出るねぇ!」


 突然、元気いっぱいの声が響き渡った。声のした方を見ると、赤い髪を後ろに一纏めにした、溌剌とした雰囲気の女性が大きく手を振っていた。フェイさんだ。


「フェイ……朝から騒々しいな」


 リオンさんは少し呆れたように呟いたが、その口元は僅かに緩んでいるように見えた。


「何言ってんのさリオン!朝の活力は元気な挨拶から!ゼーラちゃんもおはよう!」


 フェイさんは私にも笑顔を向けてくれる。その屈託のない笑顔に釣られて、私も自然と笑顔になった。


「おはようございます、フェイさん」

「うんうん、挨拶できて偉い!この廊下を歩いてるってことはリオンの工房に行くのか?そういえば久しくリオンの工房に行ってないし、私も気になるからついてっていい?」


 フェイさんは好奇心いっぱいといった様子で、リオンさんと私を交互に見る。


「構わないよ。特に秘密にするようなものでもないし」


 リオンさんが肩を竦めながら答えると、フェイさんは「やった!」と小さくガッツポーズした。


「よーし!じゃあ行こっか!リオンの工房!」


 フェイさんに促される形で、私たちはリオンさんの工房へと向かうことになった。少し強引なところもあるけれど、フェイさんの明るさは周りをぱっと明るくしてくれる。まるで太陽みたいな人だな、と私は思った。

 工房までの道すがら、フェイさんは私に色々と話しかけてくれた。


「ゼーラちゃんはリオンから魔法を教わるって聞いてたけど、もう魔法の特訓はしてるの?」

「はい。まだ基礎の基礎ですが……」

「そっかそっか!最初は難しいよね~。でも大丈夫!リオンの教え方ならすぐに上達するよ!」


 フェイさんの言葉は励ましにも聞こえた。そして同時に、リオンさんがギルドの仲間たちから信頼されていることも伝わってくる。


「そういえば、お二人はどのようにしてこのギルドに?」


 ふと気になって尋ねると、フェイさんは少し考える素振りを見せた。


「うーんとね、私は師匠に拾われてこのギルドに来たんだ」


 フェイさんは少し照れくさそうに笑う。


「師匠……ですか?」

「言ってなかったっけ?フェイはジーク・フリートの弟子だよ」


 リオンさんが横から補足してくれた。


「え……そうだったんですね。全然知りませんでした」


 ジーク・フリートさんと言えば明日の作戦で助けに行く重要人物だ。その人がフェイさんの師匠だったなんて。


「まぁ、いろいろあって私が孤児だった時に師匠に拾われこのギルドに来たんだ。師匠は優しかったし何より私の鍛錬にも付き合ってくれたし感謝しかないよ」


 フェイさんは懐かしむように微笑む。


「私が入ってからしばらく経ってからだったよなリオンがこのギルドに来たのは」


 フェイさんはリオンさんに話を振る。


「ええ、私には固有魔力という才能は有りませんでしたが、魔法という物には興味があったのでこの国で唯一の魔導士ギルドに所属すれば色んな研究ができると思ってここに来ました」


 リオンさんは少し恥ずかしそうに説明する。


「ああ見えて、リオンって貴族のお嬢様で、今は家督次いで立派な当主なんだぜ」


 フェイさんが突然驚くべき情報を明かす。


「ええ!?」


 私は思わず大きな声を出してしまった。リオンさんが貴族のお嬢様で、当主!? 全然そんな風には見えなかった。どちらかというと研究一筋の学者タイプだと思っていたのに。


「貴族っていても没落貴族だけどね。まあ、その肩書のおかげで監獄にも簡単に潜入できるわけなんだけどね」


 リオンさんは苦笑しながら付け加えた。


「え? 没落貴族? なんで?」


 フェイさんは不思議そうに首を傾げる。


「さぁ、一つだけ言えるとしたら私たちの家って全員魔法バカだったことかな。もともと貴族なんて柄じゃなかったってだけ」


 リオンさんは少し遠い目をして答えた。


「二人ともそれぞれの事情があってここにいるんですね……」


 私は二人の顔を交互に見ながら呟いた。このギルドには、きっと私には想像もつかないような過去や背景を抱えた人がたくさんいるのだろう。そう思うと、改めてこの場所が特別な場所なのだということを実感した。


不定期ですが頑張ってます

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