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グリム・ライト  作者: 紅零亜種
第5章 大監獄【クロス】
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決闘

『オーディエンスのゴミども‼盛り上がってかぁあああ‼今夜も命知らずの愚かなゴミ2人が生き残りをかけて争うぞぉぉおお‼』


 副看守長のダリオンの声が監獄内に響き渡る。


「ジャックてめぇ、昔と違って随分と調子こいてるみてぇじゃねえか?俺様に逆らったらどうなるのかその体に刻み込んでやるよ」


 頭に大きな蛇の入れ墨を彫った巨漢は不敵な笑みを浮かべる。

 ここは、大監獄【クロス】の中心に位置する大きな円形状の広間。地面には砂が満遍なく敷き詰められている。ここは俗に言うコロシアムと呼ばれる場所に観客はおらず、映像投影用の魔石だけが怪しく輝いている中に、僕と山賊団【コブラ】の頭リュウ・バンガルの二人だけが立っていた。


 こうなった経緯については、まずヴァルと僕が食事をしていた際に昼間の二人が突っかかってた。それだけであればどうとでもなったのだが、二人が連れてきた【コブラ】のボスであるリュウ・バンガルが突然こんなことを言い始めた。


『コロシアムに来い、てめぇに誰が主人か教えてやんよ』


 僕は、彼が何でこんなことを言い始めたのかわからなかったが、ヴァルから話を聞くと、どうやらこの監獄では、貴族たちに見せる決闘以外にも、囚人同士の鬱憤晴らしや札を掛けた賭博として、看守の許可の元でコロシアム内での決闘が行われ、その際に死人が出たとしても当人たちの責任として処理されるという。更にこのリュウという男は、この監獄に投獄された際に、当時の囚人内でトップだった男をこの決闘で殺し、今日まで監獄内に幅を利かせていたということだ。

 そんな中で僕が昼間に彼の部下を二人、しかも一方的にボコボコにしたとなれば、彼からすれば面子を潰されたも同然だろう。


(やばいな~、これ下手したら潜入失敗じゃないかな。いやまだいけるはず、相手さんもまだ僕のことをジャックだと誤認してるし……。ああ~、サファイアになんて言い訳しよう)


 僕は心の中で、頭を抱えた。そんなことを考えているうちに、映像越しにダリオンがマイクを持ち、アナウンスを始めた。


『さぁ、今回のジャッジを紹介するぜ‼先月派遣された期待の新人女性看守、勤勉さは折り紙付き、しかしてその愛嬌に他の囚人はメロメロ‼そんな彼女を悲しませないよう今日も精一杯生きるんだな‼エェエエエエエエルシアアアアアアアアアアア‼』


 その声に反応するようにコロシアムの入口から一人の女性が出てきた。彼女は栗色の髪をした美しい顔立ちをしており、服装は看守の制服に身を包んでいた。だが、その表情は少し怯えているように見えた。


「あ、あの、これ本当に必要なんですかダリオンさん」


 彼女は不安そうにダリオンに尋ねた。


『おう!もちろん必要だ!もう三日もしたら各国のご貴族様方が訪問なさるんだ。こういう時に練習しておかないとダメだ、ぜ☆』

「はぁ、わかりました。これも仕事ならしっかりやらせていただきます!」


 彼女はそう言うと、少し気合を入れた様子で僕たちの方を向いた。


「では、お二人ともルールの再確認を行います。生死は問わず、先に降参を認めるか、戦闘継続が不可能になった時点終了とし、禁止行為はありません。この決闘にで起こる出来事の一切の責任は両選手のものとなります。それでも宜しいですか?」


 彼女は僕たちに確認をとった。


「おう、構わねぇぜ。なぁ、ジャックよぉ」


 リュウは僕に視線を向けた。


「ええ、まぁ」


 僕は笑顔で答えた。


「では、これより試合を開始します。お二人共準備はよろしいですね?」


 彼女は再度確認をとった。


「ああ、いつでもいいぜ」


 リュウは自信満々に答えた。


「僕も大丈夫です」


 僕も答えた。


「それでは、双方構えて────」


 彼女は右手を挙げた。


「始め!!」


 掛け声と共に右手を振り下ろした。


───ドゴォ‼


 瞬間、鈍い音がコロシアムに響き渡る。


「ぐはぁ!?」


 リュウは苦悶の声を上げ、自分に起こった出来事に理解が追い付かないのか、目を丸くしていた。


「え!?」


 ジャッジの女性も突然の出来事に驚き、唖然としていた。

 何が起きたのか、それは至って単純な話である。スタートの合図とともに地面を蹴り、一気にリュウの懐に入り、拳を一発叩きこんだ。もちろん魔法は使っていない。というか魔法を使えば正体がばれる可能性があるから使えないのだが…。

 リュウは数歩後ずさりし、地面に膝をつき嘔吐した。


「ぐ、ぐそぉ。俺様がこんな……」


 リュウは絞るような声を上げる。


「あれ、今のでまだ意識が残ってるなんて、結構本気で殴ったつもりなんだけどな」


 と言ってみたものの、理由は分かっている。このリュウという男、殴られる瞬間に【魔障壁(ましょうへき)】を体の周りに張ったのだ。本来、魔障壁とは魔術師や魔導士が相手からの攻撃を軽減するために鎧のように纏う魔力のことであり、ある程度張るには熟練した技術が必要になる。それこそ、そこいらの山賊が容易に習得できるものではない。

 つまりこの男は()()()()()()()()ということだ。


「てめぇ…、もう許さねえからなぁ…」


 リュウは立ち上がり、こちらを睨みつける。


「それで、今の君に何ができるんだい」


 僕はリュウを見下ろしながら煽るように言った。


「クソがぁああああああああああああ!!」

 リュウは激昂した。その時、彼の顔に彫られていた蛇の入れ墨が赤く光り、その光はリュウの右腕へと集約していく。集約した光は巨大な蛇へと形を変え、大きな口をこちらへと向けていた。


召喚(サモン)『ビッグ・スネーク』‼」


 リュウが叫ぶと同時に、蛇は僕目掛けて突進してきた。僕は、後ろに跳躍し、蛇の攻撃を躱した。蛇はそのまま壁に激突し、崩れ落ちた。しかし、大蛇は何事もなかったかのように瓦礫から這い出てリュウの周りを動き回り、獲物を探すかのように舌をチロチロと出していた。


「へへ、驚いたか?これが俺様のとっておきだぜ」


 リュウは勝ち誇ったように言った。


「これが、君の魔法なんだ」


 僕は大蛇から距離を取りリュウに尋ねた。


「ああ、そうさ。俺様の固有魔力は『召喚』。契約した蛇を召喚することができる。そして、召喚した蛇は俺様の言うことを何でも聞く。つまり、お前を殺せって言えばこの蛇はお前を殺してくれるってわけだ。この俺様を怒らせたんだてめぇは、()()()()()()だよなぁ!」


 リュウは得意げに言い放ち、大蛇に乗り移る。


「…そうだね、それで僕を殺せたらいいね」


 僕は静かにそう呟いた。


「これでお前は終わりだ!蛇ども!あいつを食い殺せ!」


 リュウは大蛇の上から僕に命令した。命令を受けた大蛇は口を開き、僕を丸のみにしようと飛び掛かってきた。

 その瞬間、僕は地面をわざと強く踏みつけた。すると、地面の砂が舞い上がり一瞬でコロシアム全体に広がる。


「はぁ?な、何だこりゃあ!?」


 リュウは驚愕の声を上げた。しかし、大蛇は僕の位置を把握しているようで、構わず飛びかかろうとしていた。僕はそれをひらりと躱し、大蛇の頭の上にいるリュウの懐に入り込んだ。


「0距離『死の威圧(デス・プレッシャー)』」


 僕がリュウに殺意を向ける。すると彼は白目を向き、そのまま崩れ落ちるように気絶した。大蛇は主を失ったことで魔力の供給を失い、塵となって消滅していった。

 僕は砂埃を払いながら、リュウを見下ろした。



「これに懲りたら、もう悪さをしないことだね」


 僕はそう言い残し、その場を後にした。


『ワッツ!?何が起きったてんだ!?えぇ、いきなり蛇が現れたかと思えば、ジャックの野郎、砂煙で敵の視界を奪って一撃!これは勝者ジャック!負けたのはリュウ・バンガルゥ‼』


 ダリオンは興奮気味に叫んだ。


「これにて、決闘を終了いたします。負傷者の回収をお願いします」


 ジャッジの女性はそう言うと、兵士が数人集まり、リュウを奥へと回収していく。


『お疲れ、エルシアちゃん。さすがだねぇ』


 ダリオンはエルシアに声をかけた。


「ダリオンさん、今の試合、最後にリュウが何もされていないように気絶したように見えたのですが…」

エルシアは首を傾げた。

『ただの魔力欠乏で意識が飛んだだけだろ、向こうじゃよく見かける行為だぜ。身に余る力を振るった代償ってやつだな。』

「そうですか…」

『あっはっは!エルシアちゃんは、まだこっちに配属されてから日が浅いだろ。そういう小難しい魔法の仕組みは考える必要はねぇ。それよりここからが本来の仕事だ。それじゃあ、引き続き頼むぜ』


 ダリオンはそう言うと、映像が消えた。


「ふぅ……」


 エルシアはため息をついた。


(本当に魔力欠乏?最後にうっすらと私は見えた、大蛇の上に乗っていたリュウに接近したジャックの姿。ジャック、一体彼は何者なのでしょうか?) 


 エルシアは、去っていく男の背中を見ながら考え込んだ。



「はぁ……、今日も疲れたな」


 僕はヴァルの元に戻り夕飯を食べながら呟いた。


「本当にすごかったです。ジャックさん」


 ヴァルは興奮気味に言った。


「はは、そうかな」


 僕は苦笑いを浮かべた。


(それにしても、魔導士がこの監獄にいるとは……。しかも、リュウという男。彼の固有魔力はかなり強力だったし、本人の実力も高かった。それなのに、どうして山賊なんかに身を落としているんだろう?)


「あの、ジャックさん」

「ん?どうしたの?」


 僕は思考を巡らしているとヴァルが申し訳なさそうに話し出した。


「すいません、この後やらないといけない刑務作業を思い出したのでここで失礼させてもらいます」

「別にいいよ。それじゃあ、また明日ね」

「はい、また明日」


 ヴァルは立ち上がり、食堂を後にした。


(さて、明日からはもう少し空気として過ごそう……)


 僕はそう思いながら、食事を進めた。


「…まずい」



定期更新を続けられていることに驚いている自分がいます。ボチボチやっていくのでよろしくです。

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