8話 厄介な世界
それから家に帰った俺達は、リビングで今後について話し合うことにした。
「警察に通報する?」
「もうした」
「早っ! いつしたの?」
詩織が驚いた顔をしてこちらを見てくる。距離感がバグってるのかお互いの顔が当たるぐらい顔を近づけて来たので、俺は少し後ずさりをする。
「さっきだ。通報したっつても知り合いの警官に相談しただけだけどな」
「え、お巡りさんに知り合いなんかいるの?」
「まあ、腐れ縁でな」
「へぇー、そうなんだ。で、その人はなんて?」
「現状証拠不足だから逮捕は無理だってよ」
俺は肩をすくめ、ため息をつく。正直今すぐにでも逮捕してほしいところだが、中々そうもいかないな。まあここ最近事件が多くて治安崩壊しかけてるから忙しいんだろう。
「うーん、複雑な気持ちだなぁ。うちの学校で逮捕者が出なかったことを喜ぶべきか、私達に危害を加えようとしてる人が野放しになってるのを悲しむべきか……」
詩織は目を閉じ、首をゴキゴキと鳴らしながらそう言う。
「いや、悲しむ一択だろ。このままだと普通の生活なんて一生送れねえぞ」
「だよねー。じゃあどうするの? 潰す?」
「潰すってお前……そんなことしたらこっちがお縄だぞ」
「うぅ……もどかしいな。法律なんて無くなればいいのに」
「無くなったらお前もやばいぞ」
法律が無くなった暁には詩織は多分普通の生活を望むことすらできなくなるだろう。
「まあ潰すはさすがに冗談だけど……でもこのままなにもしないのもどうかと思うよ」
「気持ちは痛いほど分かるが……今は泳がすしかねえよ。そんで上手いこと罠にはめるんだ」
「そう、だね。それしかないよね……。でも君も本当に気をつけてね! 相手は君を殺そうとしてるんだから!」
詩織は微妙に納得していなさそうな顔をする。
「護衛対象が護衛を心配してどうする。まあ……ありがたいけどな」
「もしかして優平君ってツンデレ?」
「前言撤回やっぱ全然ありがたくねーわ」
俺がそう言うと、詩織はクスクスと笑った。
「さて、方針も決まったことだし今日はス◯ブラしますか」
「了解。……ってス◯ブラ!?」
てっきし解散が言い渡されるだろうと考えていた俺は、思わず叫んでしまった。
「あれ、スプ◯の方が良かった?」
「そういう問題じゃねえ! 今何時だと思ってんだ!」
「え、十時ぐらい?」
「十一時だ」
「え……、嘘でしょ?」
「残念、本当だ。というわけでさっさと寝るぞ」
「はーい……」
そうして俺達は別れて、寝室に向かった。
「あー、いよいよ来たか。覚悟はしてたが、やはり心にはくるな」
そう言って俺は、自分が殺した魔物達の姿を思い浮かべる。
魔物――生き物の生命力から作り出される魔力。そこから更に産み出された生物のことを指すーーは基本的に生物を襲う。だから俺は魔物を殺してきた。
だが、殺される側の魔物からしたらたまったものではない。何も分からないまま殺されるのだから。
だから、魔物狩りなんてやってた時点で、いつかこうなることは覚悟していた。
恐らく、真神陽子は魔物か、魔物の知り合いかなにかだろう。それなら俺を憎んでいてもおかしくない。
陽子が詩織を狙う理由は分からないが、もしかしたら俺に対する当てつけなのかもしれない。
いや、考えても仕方ないな。俺は俺のやれることをしよう。
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