4話 ネクロマンサーと吸血鬼
俺が寝てから数時間ぐらいたっただろうか。詩織は再び俺の元へやってきた。
「結果発表のお時間でーす! イエーーーーーーーーーイ!」
「…………」
「ちょっと! 無視しないでよ! まるで騒いでる私が馬鹿みたいに見えるじゃない!」
「……実際馬鹿だろ」
俺がそう率直に感想を言うと、詩織は肩をすくめた。
「……まあいいや。それで結果だけど、条件付きで護衛続けてもらうことになったよ」
「条件?」
なんだろうか……凄く嫌な予感しかしない。
「うん。内容は護衛対象の拡大ってやつだね。私のそばにいることは変わらないんだけど、もし家族のうち誰かが危険な目にあったら君が大急ぎで行くって感じ」
……嫌な予感大的中。かなり無理があるやつだなこれ。まあ頑張るしかないが。
「危険な目にあってたら俺に連絡できなくないか?」
「その辺は大丈夫。GPSと緊急連絡用ボタン持たせとくから」
「なるほど。でも俺瞬間移動できないから到着遅くなるぞ。それでもいいのか?」
「あ、そこも大丈夫。私が一応使えるから二人で直行できるよ」
「OK一応という単語に不安しかないが分かった。それじゃこれからもよろしく頼む」
「大丈夫、一日一回できないのと、あんまり遠くには行けないだけだから。というわけで明日から護衛頼むよ」
なるほど、それなら大丈夫……なのか?
「そういや明日月曜日か。色々あって曜日の感覚狂ってたわ」
「まあ無理もないね。あ、なにか食べたいものある?」
「いや、いい。それよりお前に聞きたいことがある」
正直、まだ俺は詩織の事情を詳しくは知らない。不死身だったなど初耳だし、悪人から狙われているという話はなおさらだ。
「ん? もしかしてスリーサイズ? えっと……」
「そんなこと聞くわけねえだろ。人を勝手にセクハラ野郎にするなそして答えようとするな」
「ちぇー、つまんないの。君が慌てるとこ見てみたかったのに。で、聞きたいことって何?」
詩織は口を尖らせ、残念そうな顔をする。こいつ、俺を玩具にする気満々だ。
「お前が不死身なのは生まれつきか? 」
「うん。生まれたときからずっとそう。ナイフで何回刺されようが毒を飲まされようが車に轢かれようが死ぬことはなかったよ」
「……なかったよってことは実体験なのか?」
俺がそう聞くと、詩織はさも当然のような顔でこう返した。
「もちろん。私はどうも不死身とは別にトラブルに巻き込まれやすくてね。一通りの犯罪被害は受けてるよ」
「……大変だな。お前」
「まあ仕方ないよ。お金持ちの娘で吸血鬼の美少女がいたら襲いたくなるもんね」
なんかとんでもないことを言っているが今はそこをツッコんでいる場合ではない。
それより俺の知らない情報について聞くのが先決だ。
「……今サラッと吸血鬼って言わなかったか? そんな話聞いてないんだが」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてねえよ! お前、もうちょいちゃんと依頼する時に説明してくれ!」
「ごめんごめん。私はね、理由は分からないけどなんか吸血鬼として生まれたの。多分周りの魔力が原因らしいけど、詳しいことはよく分かんないんだよね」
「ん? つまりお前が人類初の吸血鬼ってことでいいのか?」
「そういうこと。分かりづらくてごめんね」
「吸血鬼ってことは普段血飲んでんのか? でもお前普通に飯食ってるよな」
「あ、別に日常的に血は飲む必要ないんだよね。単純に飲めば一時的に身体能力上がるだけって感じ」
詩織はそう言って魔法で氷のグラスを作ると、どこからか血の入ったビンを持ってきた。
「あ、ちなみに食事も本当は取る必要ないよ。まあでも取らないと変に思われるから食べてるけどね。それに、私が食べなかったからってご飯が元の生物に戻る訳でもないし。廃棄されるよりかは私の血肉になった方がマシでしょ」
「なるほど、それはそうだな。そうだよな……」
「どうしたの? そんなシリアスそうな顔をして?」
どうやら俺は真剣な顔をしていたらしい。詩織が心配そうにこちらを見つめてきた。
「いや、ちょっとな。それより吸血鬼ってことは太陽とか十字架とかにんにく大丈夫なのか?」
「あ、それは大丈夫。試されたけどなんも起きなかったよ。多分フィクションの吸血鬼とは性質が全然違うんじゃないかな。杭打たれても死ななかったし」
なるほど。まあ現実とフィクションじゃあ多少のズレが生まれるのも当然か。
「お前の話聞いてるとどんどん不穏な話になってくな。人体実験されてますって感じで怖いんだが」
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「意味深に笑うのやめろ」
「ま、今後そういうことがないように君を雇ったわけだから。よろしく頼むよ」
「俺ってもしかして思った以上にやばい依頼引き受けた?」
「うん。まあそのぶん報酬はえげつないでしょ?」
「まあそれ目当てで引き受けたとこあるからな」
後は義理だな。そうでもなきゃこんなふざけた依頼は強引にでも断ってる。
「ってもうこんな時間? 寝ないと!」
詩織が時計を見たので俺も便乗して見ると、なんと十二時を過ぎていた。
「それじゃお休み! また明日ね!」
詩織は慌てて俺の部屋を出ると、自分の部屋へと走っていった。
さて、俺も寝るとするか。
そう考えた俺は床に転がると、ゆっくり目を閉じた。
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