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番外編 見なくても大丈夫です

 僕、相原太一はいわゆる、ヒーローに憧れていた。多くの人を助けられるような、そんなヒーローにだ。


 ヒーローと言っても、なにも何かを倒すだけがヒーローではない。僕がやりたかったのは、生活を豊かにできる道具を作ることだった。


 だから僕は毎日、魔道具の研究をしていた。魔道具というのは厄介なもので、性質上量産が難しかった。僕はその現状をどうにかしたかった。


 そうして、僕が実験の日々を繰り返している時、父さんがある提案をしてきた。


 内容は、吸血鬼――夜雪詩織を倒すのに協力してもらう代わりに、父さんの会社に入らせてやる、というものだった。


 父さんは、「あの吸血鬼は、いずれ世界を滅ぼす。そう予言されている。だからその前に私達の手で倒すしかないのだ。それから、今話した内容は絶対に人に話さないように。極秘だから」と言った。


 正直、この時点で胡散臭いとどうして思わなかったのだろうか、と今となっては思う。いくら小学一年生の時に言われたとはいえ、多少疑っても良かったのではないのか。いや、後出しジャンケンはよそう。やってしまったことは戻らないのだから。


 そうして、僕は父さんに言われて、刺客用の武器を作ったり、ターゲットの監視をしていた。。その時は、罪悪感など、少しも感じていなかった。


 そんな日々を送ってきた僕が、彼女に気づかれるのは必然だった。


「ねえ君、この前から私についてきてるけど何か用? もしかしてストーカー?」


 吸血鬼――詩織は、一瞬で僕の背後に回り込むと、そう聞いてきた。僕が振り向くと吸血鬼の顔が直前にまで迫っていた。


 僕はそれに驚き、恥ずかしさから慌てて顔を逸した。そして、僕は頭を回転させてなんとか言い訳を考えようとしていた。


「えーっと、その、君にこのハンカチを渡したくて」


 僕はこの日の前に、彼女が落としたハンカチを拾っていた。今でもなんで拾ったのかは分からない。多分死ぬまで分からないだろう。


「あ、そうだったの。ならさっさと渡してくれれば良かったに。ふふふ、君ってもしかして人見知り?」


 彼女がいつ気づいていたのかは聞いていないから分からないが、恐らくそこまで前ではなかったのだろう。彼女は僕の嘘を簡単に信じた。


「どちらかというと人見知りかな。ごめん、なんかいつ声かけたらいいのかわからなくてさ」


「ふ、ふふふ。あははは! ごめん、でもふ、ふふ」


 詩織さんは、その時必死に笑いを堪えながら顔を下に向けていた。僕はその態度を見て、少し苛立った。


「……そんなに笑わなくてもよくない?」


「ごめんごめん、わざわざ届けてくれ……ふふ、ごめふふふ」


「もう少し笑わないように努力してくれないかな……。まあいいよ、用件は済んだし僕は帰る」 


 この時僕はそう言って家に帰り、この失態を隠すつもりだった。だが、彼女はそれを止めた。


「ちょっと待って。せっかく何日も私に渡そうとしてくれてたのに、なにもないのは嫌でしょ。なんかお礼するよ」


「いや、気持ちだけ受け取っとくよ。それじゃ」


 僕はそう言いながら詩織さんから逃げた。頭がおかしくなりそうだったからだ。あの時、彼女から逃げなければ今とはまた違う未来があったのかもしれない。例えば、スパイとしてではなく、ただの友人として高校で再会したパターンだ。


 彼女はきっと、僕との初めての出会いを覚えていないだろう。それでいい。僕は最初から彼女の敵だったのだから。


 僕はヒーローではなかった。ヴィランだったのだ。曲がった正義を振りかざすタイプの。


 ではヒーローは誰なのか。答えは簡単。いない。この世のどこにも。


 ただ、自分が出会った人間の中で、神谷優平。彼が一番ヒーローに近いと思う。


 彼もきっと覚えていないといないと思うが、僕は彼とも高校に入る前から出会っている。


 彼と出会ったのは、確かニ年前の春ぐらいだっただろうか。僕がいとこと歩いているときに、彼とは出会った。


 目の前に突然巨大な魔物が現れ、僕といとこは怯えて逃げ回っていた。


 僕の瞬間移動の仕組みは、僕自身と服を無理矢理光に変えることで成り立っている。


 だから、僕が瞬間移動で逃げようものなら、いとこの身が危なかったのだ。


 そして、僕らは壁に追い詰められると、魔物の攻撃から身を守ろうとした。


 その時、横から彼――神谷優平が現れ、あっという間に魔物を倒していった。

 

 優平君は、魔物の死体を吸収するとどこかに行こうとした。


 僕は、「そこの君、助けてくれてありがとう!」と言った。すると彼はこちらに振り返ると「業務だ。礼はいらない」と言って去っていった。


 今思えば若干中二病こじらせてそうな感じだったが、僕はそんな彼の姿がヒーローに見えた。


 ただ、今は彼のことをヒーローとして見てはいない。彼は、あくまで一人の人間だった。


 優平君は恐らく、本人が思っている以上に人を救っている。魔物を殺すことによって。

 

 昔、優平君のことを噂で聞いたとき、彼は魔物を殺すのに躊躇のないサイコパスだと聞いた。本当は逆だった。


 優平君にとって、それは苦痛だった。そして、彼はそのことでいつも悩み続けていた。


 彼は今、そんな仕事から離れた護衛という仕事をしている。それも、ターゲット――夜雪詩織のだ。


 そして、優平君は僕がスパイだと見抜いた。にも関わらず、彼は僕を助けた。多分、僕は二人に一生頭が上がらないだろう。


 ただ、彼の推理は一点外れているところがある。それは、僕が詩織さんを助けに向かった時、僕が父さんに詩織さんを渡す気は微塵もなかったというところだ。


 もっと正確には、思いつかなかったというのが正しい。


 あの時の僕は、ただ詩織さんを助けなきゃとしか思っていなかった。それ以外の邪念は、一切なかった。それだけは確かだ。


 あの時、僕は詩織さんを見つけると、慌てて彼女の元へと駆け寄った。


 後から詩織さんに聞いたのだが、あの時彼女は逃げようとかなり暴れていたらしい。服がかなり乱れていて、抵抗の跡がいくつも見られた。


 僕が詩織さんの口の布を外すと、彼女は吐息を漏らし、こちらに屈託のない笑顔を向けてきた。


「ぷはっ、助けに来てくれたんだね。ありがとう!」


 確か僕はその顔を見て、スパイと言うことを思い出して罪悪感に駆られていたと思う。でも、彼女を父さんに連れて行く気は不思議となかった。優平君に指摘されて初めて僕は気づいたのだ。


 その後、僕は詩織さんの手足にかけられた手錠を外した。そして、彼女と椅子を連結させている縄を切った。


 すると、詩織さんは僕に抱きついてきた。その後のことはよく覚えていない。確か詩織さんが捕まったことを謝ってた気がするが、内容は覚えていない。


 それから僕は詩織さんを優平君の所へ向かわせると、父さんに電話した。


 こちらも内容の全部は覚えていない。なにか叱られた気がするが、記憶に霞がかかって思い出せない。そうだ、「なぜまだあの護衛を始末できていないんだ」って言われたんだった。


 そういえば、僕が二人に高校で再会した時はどんな感じだったかな。どうやって二人と仲良くなったんだったけ。


 確か……優平君とは最初席が隣だったんだよね。席替えしたあとは後の二人が隣になってたけど。だから仲良くなったんだったか。


 詩織さんはターゲットだったから入念に趣味とか調べて話題が合うようにした覚えがあるな。


 それで……それから一ヶ月ぐらいたった後、詩織さんから「お願いがあるの」と言われて、僕は詩織さんの家へと向かった。


 そこでだ。詩織さんから護衛になってくれとお願いされたのは。


 正直、僕は困惑した。そして、僕は断った、というか逃げた。理由は多分、罪悪感からだったと思う。なぜ、僕をそこまで信頼しているんだ。そんなことを考えた気がする。

 

 そして今。僕は初めて父さんに逆らう。怖くないかといえば嘘になる。でも、それでも逃げるわけにはいかない。最悪の場合僕が――


 


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