32話 茶番
……また堂々と死の概念を無視した奴が出てきやがった。この世界に神がいるなら色々ツッコみたいところだな。
「転生ねぇ……。今のお前が幼馴染なのか? それとも前世が幼馴染だったのか?」
「前世だね。あたしは中学ぐらいの時、詩織ちゃんを狙ってた悪人に殺されてね。それで何回も転生してここにたどり着いたてわけよ」
「よく中学まで生きてられたな……。で、なんのようだ?」
「えーっとね、まず詩織ちゃん救出に協力させてもらいたいのが一つだね。それであんたに渡さないといけないものがあってね」
佐山はそう言って鳥のぬいぐるみを渡してくる。こんなもの渡されてもこちらも困るんだが。
俺がそう思っていると、いきなりぬいぐるみが飛んだかと思うと、中から声が聞こえてきた。
「あー、うん。接続できたみたいだね」
俺のさっきまでの罪悪感を一気に消すような、そんなのんきな声だ。
「……は?」
「ふっふっふ。この詩織ちゃんを舐めて貰っちゃ困るな。何年もこんなトラブルに巻き込まれてる私が何も対策してないわけないじゃん。いやまあ今回はその対策がことごとく潰されたんだけど……」
声の主――夜雪詩織――はぬいぐるみ越しからそう挑発してきた。
「お前……無事なのか?」
色々言いたいことはあるが、とりあえず俺は詩織に安否を確認する。
「んー、無事ではないね。なんか拘束されてるし魔力凄い勢いで吸い取られるしで散々だよ。あ、そうだ! 食事も貰えてないんだよ! 酷いと思わない?」
「……元気そうで良かったわ」
そういやこいつこういう奴だったわ。基本自分がどうなろうが知ったこったないてタイプだな。不死が災いして友達がほとんどいないからか承認欲求は高いけど。
「詩織ちゃんあんたが責任感じてるんじゃないかって心配してたんだよ。だからこうして私が急いで持って……」
「葵ちゃん、余計なこと言わないで!」
詩織が食い気味にそう言って佐山を止めると、佐山はクスクスと笑った。
「そうそう、他にも詩織ちゃん昔私と誘拐された時に……」
「葵ちゃんこれ以上喋ったらこっちも葵ちゃんの前世話すよ?」
「分かった分かった黙るからやめて!」
こいつら見てると、なんか色々真面目に考えてた俺が馬鹿みたいに思えてきたな。
「あ、今回の件あんたあんま気にしなくていいよ。あたしなんか普通に詩織ちゃん護れないで殺されちゃったからね」
「そうそう。ほら、サッカーのゴール守るのも百パーセントでできる人いないでしょ。そーいうもんだよ」
「そういうもんか。まあとにかくできる限り早く助け出すから今は堪えてくれ」
「おー、かっこいい!」
なんだか馬鹿にされている気もするが、まあいい。今は気にしないでおこう。
「あ、そうだ詩織。お前の家族にも声聞かせてやれよ。めっちゃ心配してたぞ」
「皆が……?」
「そうだ。俺がお前の家に戻るとき安否を心配してる会話してたぞ」
「そう……なんだ。……気が向いたらしようかな……」
詩織は悩んでいるのか、微妙な反応をした。やはり少し遠慮があるのだろう。
「言える時に言った方がいいぞ。……お前自身痛感してるだろうが家族なんていつ死ぬか分かったもんじゃねえからな」
俺はそう言って自殺した父親の姿を思い浮かべる。あのクソは結局最後まで俺達に自殺の兆候を隠しやがった。言ってくれれば相談に乗ったのに。
「そう……だね。そうだよね。話してみるよ」
その後俺達が少し雑談をしたあと、真神と太一がやってきた。
「やっほー、来たよ」
「貴様よくも置いて行ってくれたな。この恨みはいつか晴らしてやる」
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