31話 満ちる喪失感と新たな出会い
俺達はその後、結界を無理矢理破ると、警察を呼んだ。そして、しばらく事情聴取をされた後、俺と真神の二人は詩織の家に戻った。
俺達は、家に着くまでお互い一言も話さなかった。理由は色々あるが、一番は真神の……あの行為だった。分かってはいた。だが……いや、考えるのはよそう。
二番目の理由は詩織が消えたからだ。真神も、俺も、恐らくは太一も少なからず責任を感じている。後は詩織が割と良くも悪くも俺達を引っ張っていたのも理由だろうが。
前回の真神による拉致とは話が違う。あの時は半分人質みたいなものだったし、単独犯だったから特定も容易だった。
だが今回は恐らく組織的犯行。そして実行犯どもは詩織の居場所を誰一人として知らない。最悪の状況だ。
詩織の家族はなんとも言えなさそうな顔で、一言ご苦労様と言ってきた。その様子はなんというか、俺達にかける言葉が見つからないようだった。
だが、詩織が言っていたように、詩織を憎んでいるようには見えなかった。
母親は俺が電話で説明したとき「ああ……またなのね」と、少しため息をついていたが、それは詩織というより詩織の不幸に対してのものだったように見える。
それに、俺達が帰って来たとき、外から詩織の安否を心配している内容の会話も聞こえてきた。
そもそもあいつは俺のことを家族に話していると言っていた。
そこから考えると、家族に一番壁を作ってしまっているのは詩織自身なんじゃないのだろうか。
俺はそんなことを考えながら荷物をリュックに入れる。任務が失敗した今、ここに長居するわけにもいかないだろう。救出するのにここを使うこともないだろうし。
久しぶりに自宅に帰れるのに、全く嬉しくない。それどころか罪悪感で押しつぶされそうだ。まるで、初めて魔物を殺した時みたいに食べ物が喉を通らない。
隣の部屋からは一切物音が聞こえない。いつもはうるさく感じていた鼻歌がなんだか恋しく感じる。
俺は荷物をまとめると、ふと隣の部屋を覗いてみることにした。
その部屋の中には本棚が大量に設置されていて、壁にはリュックとテニスラケットが立てかけられていた。
俺はふと机の上に目をやる。そこには、部屋の主の日記が置いてあった。
俺は一瞬見るか迷った後、見てみることにした。詩織も前に俺の日記見てたし別にいいだろ。
俺はそう言い訳しながら覗くと、そこにはその日の感想と、自虐が書いてあった。
「……お前、やっぱりめちゃくちゃ無理してるじゃねーか」
俺はそのまま日記をそっと閉じると、詩織の部屋を後にする。なんとなく、このまま日記を読んではいけない気がしたからだ。
俺はそのまま真神を待たずに逃げるように夜雪家を去ると、自宅へと走る。
正直言って、俺はもうやけくそだった。
任務は失敗。金はもう一回魔物ハンターをやればいいからそこは問題ではない。そう、問題は金じゃないんだ。ああ、頭が痛え。
そうして俺が家に着くと、一人の少女が俺の家の前で仁王立ちをして待っていた。当たり前だが詩織ではない。真神でもない。
その少女はオレンジ色のワンピースを着ていて、手にはよく分からない鳥のぬいぐるみを持っていた。
「誰ですかあんた。そこ俺の家なんですけど」
うん、敬語はやりづらいな、やっぱり。性に合わない。
「あんたが優平って人?」
「そうだがまず先に質問に答えろ」
「うっわいきなり口悪っ! なにその変わり身の早さ。もしかしてDV男?」
「二度言わせるな。お前は誰だ」
俺が苛立ちながらそう返すと、少女はこう答えた。
「あたしの名前は佐山葵。詩織ちゃんの幼馴染みたいなもんだね。一回死んで転生してるから微妙なとこだけど」
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