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23話 滝行

 次の日、俺は詩織と真神、太一の四人で滝行をしに鹿岩山にやってきていた。


 太一は「なんで護衛でもない僕が……」と文句を言いながら歩いている。

 

 その横でも真神が「なんで私が……」文句を言っている。


 更にその横では詩織が二人の胴体にロープを巻きつけ連行しながら歩いている。


 俺はこの惨状に頭を抱えながら、今までのことを思い出す。


 まず、詩織が真神に護衛を頼んだ時に真神が断って逃げた。それから詩織が真神を追いかけて捕まえた。そこまでは覚えている。 

 

 だが、なぜ太一がこうして連行されているのか。それが思い出せない。こいつ神出鬼没だからな。いつも気づいたらすぐそばにいる。だから今回もそういう感じで出会ったと思うんだが……。


 あ、思い出した。こいつ急に瞬間移動で俺達の眼の前に現れたから襲撃者と間違えて俺が倒したんだった。


 それで詩織がせっかくだし連れて行こうと言って倒れてるこいつをここまで連れてきたんだったか。


 そして今の地獄絵図に至ると。なるほど、理解はできた。納得はしてないが。


 そんなことを思い出しているうちに、俺達は今日の目的地の滝に着いた。滝のすぐ隣には小屋がポツリと建っている。


「さて、ようやく着いたな。それじゃまずこの小屋に入れ野郎ども」


 俺がそう言うと、太一が「え、この小屋もしかして君の?」と聞いてきた。


「いや、俺の師匠のだな。つうかこの山自体が師匠の私有地だ」


「いや、待って。君師匠なんているの?」


 そこで詩織が話に乱入して聞いてきた。正直色々ややこしいのであまり説明したくないが、するしかないだろう。


「ああ、一応な。今は海外に行ってるからいねえけど、ここの使用許可は貰ってるから自由に使えるぞ」


「へぇー、師匠がいるのってなんかロマンがあっていいなぁ。ちなみに男の人? 女の人?」


「男だな」


「ほほう、男の人なんだ」


 詩織はそう言って意地の悪い顔で笑うと、小屋の中に入る。


 続けて俺達も入ると、小屋にある椅子に座る。そして、これからの話をする。


「真神、太一。お前ら二人には俺達の警護をしてほしいんだが、いいか?」 


「仕方ないな。ちゃんとギャラは出してよ」


「ふん、どうせ拒否権などなかろう」


 二人はそう言って渋々俺の頼みを引き受けてくれた。正直どちらか片方、あるいは両方とも断ると思っていたから意外だった。


「ギャラはちゃんと出すぞ、詩織が。それで詩織。お前はこの服に着替えろ」


 俺はそう言って行衣を詩織に手渡す。


「うん、払うけど君今サラッと私にギャラの支払い押し付けたね」


「はて、なんのことかわからないな。とにかくさっさとそこの個室で着替えろ」


「あ、話しそらした!」


 俺達はそんな会話を交わしながら行衣に着替えると、滝行の準備をする。


「滝行っつても今回はただ修行するだけだから過程はすっ飛ばすぞ」


 俺はそう言って滝の近くまで行くと、詩織に手招きをする。


「お前の場合寒さにも痛みにも耐性があるからあんまり心配する必要ないかもしれんが、長い間滝にいるなよ。いすぎると低体温症で意識が飛ぶ」


「うん、分かった」


 そして俺達は滝の中に入ると、ただひたすら瞑想をする。


 冷たい水が俺の頭を強く打つ。俺はその痛みと冷たさに耐えながらも瞑想を続ける。


 しばらくしてから滝に出て、休憩をした後、また滝に入る。そんな作業を何回か繰り返し、俺達は滝行を終えた。


 「うん、色々感想あるけど、まずは疲れたから寝ていい?」


「こんなとこで寝たら危ねえからせめて小屋で寝ろ。死にそうなぐらい疲れてるなら俺が運んでやるから」


「大丈夫。さすがに小屋まではいける」


 詩織はそう言っておぼつかない足取りで小屋まで歩いていく。俺はその様子を見て若干の不安を覚えつつ追いかける。


「いやぁ、最初はこんなんで魔法の修行になるのと思ってたけど、結構いいね。精神的にもスッキリするし、魔力をよりコントロールできるようになった気がするよ」


「だろ。今度瞑想だけでいいからやってみるといいぜ。自然と魔力の使い方が分かってくるから」


「うん、やってみる!」


 詩織はこの前の顔が嘘のようにスッキリとした笑顔を見せると、小屋に走っていく。


 そして俺もそれを追いかけ、小屋に急ぐ。


 小屋に着くと、そこには真神と太一が椅子に座っていた。さっきまでは滝の近くにいたので、俺達が話してる間に戻ったのだろう。


「いやー、滝行キツかったよ。二人もやってくれば?」


「いや、遠慮する。あの男の提案を聞く気などない」


「僕も遠慮するよ。前にやったことあるし」


「そっかー、残念」


 三人がそんな会話をしているのを聞きながら俺は一人、軽食として持ってきていたおにぎりを食べる。


 すると、三人の目線が一気に俺の方に向く。無言の圧力が俺に襲いかかる。


「……お前らの分もちゃんとあるから持ってけ」


「わーい、ありがとう!」


「それじゃ一個頂くよ」


 詩織と太一がそう言って貰っていくのに対し、真神は受け取る様子がない。だが、目線だけは確実にこちらを向いている。


 俺は仕方ないので真神の方におにぎりを持っていくと、真神は無言でおにぎりを受け取った。


 そうして俺達は山の中で四人、今だけは平和に食事を取った。


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