21話 喧嘩するほど仲がいい?
「うぅ……痛い」
結局あの後お互い頭突きをしまくり、二人とも額が真っ赤になってしまった。
「めっちゃ冷たい額で頭突きしてくる奴があるか! こっちは凍傷になったぞ」
「うるさい! そっちが鋼鉄の死体と融合して頭突きしなきゃ私だってマイナス二十度ぐらいで勘弁したよ!」
「それはお前が俺のこと凍らせようとしてきたからだろうが! 雪女みたく口から冷気吐きやがって!」
「だって君が連続で頭突きしてくるか…キャッ!」
俺達がそう口喧嘩をしていると、巨大な手は詩織の家に着陸した。
「ちょっと! 着陸するなら前もって予告してよ!」
「悪いな。ついうっかり忘れてた」
「絶対嘘でしょ!」
詩織はそう言ってまた頭突きをしようとしたので、俺は巨大な手から抜け出す。
「あ、こら逃げるなー!」
詩織は怒って俺を追いかけようとするが、巨大な手に阻まれ動くことができない。俺はそんなアホの姿を見て思わず吹き出してしまった。
「あ、なに笑ってんの! 早くこれ外さないとぶっ◯すよ!」
「いやお前外したてもぶっ◯すだろ。お互い頭冷やしたら外してやるよ」
「ふーん、なら今すぐ冷やしてあげるよ。お互いにね!」
詩織はそう言って俺に冷たい水を一気にかけてきた。それは俺に当たると、一瞬で氷へと姿を変える。どうやら彼女は魔法で過冷却水――水をゆっくりと冷やすことでゼロ度以下なのにも関わらず氷にならない水――を作れるようだ。
俺はその氷を死霊術で溶かそうとするが、一向に溶ける気配がない。だから俺は氷を直接身体から剥がすことにした。
だが、それにもやはり限界があり、全ての氷を剥がすことは不可能に近かった。
正直ただの挑発に過ぎないが、やはりイラッとくるものではある。しかし今は我慢だ。ここで怒ってしまえばまた喧嘩になる。
「ほーら、これで頭冷えたでしょ。だからこれ離してよ!」
「駄目だ。お前がまだ頭冷やしてないだろ」
俺がそう断ると、詩織は自分の頭にも過冷却水をかけると、「これなら良いでしょ!」と屁理屈をこねてくる。
だが、物理的に頭を冷やしたことで、本当に詩織は我に返ったらしい。いきなりハッとした表情になると、俺に「ごめん」と謝ってきた。
俺はそれを見て詩織を手から解放する。すると、詩織も魔法で俺についた氷を消してくれた。
「こちらこそ面倒くさいこと言ってすまん。あれ言わなきゃ詩織も怒らなかっただろ」
俺はそう言って例の発言を思い出す。あの護衛うんぬんの発言が詩織の逆鱗に触れたのだろう。
「あー、あれはきっかけにすぎないよ。私が怒ってたのは優平君が私だけ逃がそうとした時だよ。あの時どうせ死ぬ気だったでしょ?」
「……一応できる限り生きようとは思っていたが、半分ぐらい死のうとしていたことは否定できない」
「だろうと思ったよ。……このままだと風邪引くし家の中入ろ?」
そして詩織は俺の手を引くと、家の中に入った。
「さ、風邪引く前にシャワー浴びてきなよ。あの水マイナス十四度ぐらいだったからやばいよ」
俺はそう詩織に勧められ、シャワーを浴びた。そしてその後、待っていた詩織と共に俺の部屋へと戻った。
「それで、どうだったのだ?」
すると、そこには真神が俺のベッドに座りながら待ち構えていた。
「ごめん、ただの罠だった」
「ハッ! そうかそうか、罠だったか。やはり人間というものはクソな生き物だな。まあ私も期待してなかったから別に構わん。逆に貴様はよくあんな胡散臭そうなの信じたな」
そうして真神は俺のベッドから立ち上がると、自分の部屋に戻っていった。詩織に隠れて表情はよく見えなかったが、馬鹿にしたような笑顔をしていた気がする。
「……あいつさては罠ってこと気づいてたのに詩織に行かせたな」
「かもね。ま、証拠はないし分からないね」
詩織は肩をすくめると、俺のベッドに座る。真神もだが、人のベッドにさも当然と座らないで欲しい。
「あ、そうだ詩織。ずっと気になってたことがあるんだが」
俺はふと、疑問に思っていた聞くことにした。自分でもなんでこのタイミングで聞いたかは分からない。だが、なんとなくここで聞かなきゃいけないと、そう思った。
詩織は不思議そうな顔で「なに?」と聞いてきた。
「お前の家族、ごくまれにすれ違うことがあるぐらいで、全然遭遇しないがいつもなにやってんだ?」
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