20話 巧妙な罠
あれから俺達は、二時間ぐらいかけてようやく霊媒師のいる場所までやってきた。
路地裏を通り、草木をかき分け、たどり着いたそこは山の中にある扉だった。
「ほら、ここが霊媒師さんがいる場所だよ」
「……本当にここにいるのか?」
「うん、そのはずだよ。」
詩織はそう言って扉をノックするが、反応はなかった。
「あー、やっぱりこれも隠し条件があるパターンかな?」
「隠し条件? なんだそれ」
「私がここをネットで見つけた時ね、隠し扉とかパスワードとか、そういう謎を解かないと場所すらまともにしれないようになってたんだよ。だからこの扉もなにか謎解きしなきゃ開かないのかなって」
「なるほど。……あ、ここになんか書いてあるぞ」
俺はそう言って扉の上を指差すと、そこにはこう書いてあった。
「↓↘→+ボタン」
「ふざけてんのかこれ。波◯拳のコマンドじゃねえかん」
「……おかしいな、私今まですっごい難しい論理パズルや暗号解いてきたんだけど。最後が……これ?」
「……扉開いたぞ」
「えぇ……」
俺が波◯拳と言ったからだろうか。扉が一人でに開いた。
「これ、絶対途中で考えるの飽きたでしょ。それか今までの暗号とか全部コピペで、自分で作る力ないか」
「……後者な気がするな。まあいい、入ろうぜ」
俺達は中に入ると、扉の向こうに一人の男が立っていた。
「遅かったな、吸血鬼」
男がそう言ったかと思うと、俺に強い衝撃が襲いかかった。俺は倒れる直前に詩織の方も見ると、やはり詩織も衝撃を食らったらしく、気絶しかけている。
あー、まずいなこれ。多分地面に電気流す装置でもあったパターンか。
俺はなんとか最後の力を振り絞ると、魔物の死体達を一気に放出し、さらにその死体達にありったけの魔力を注入する。
「こういう時はゴリ押しに限るな」
死体達は一斉に爆発すると、辺りを一気に更地にした。その衝撃で俺達も山から放り出され、宙を舞う。
その時、俺は死霊術で衝撃をいなすと、詩織を空中でキャッチし、地面に降り立つ。
「ごめん、完璧に騙されてたみたい」
「そうみたいだな。まあ今更嘆いても遅いしさっさと逃げるぞ」
「あー、優平君。それなんだけど……私達、包囲されてない?」
俺は詩織に言われて辺りを見渡すと、いつの間にか銃を持った男達に囲まれていた。
「……そうだな」
さて、どうしたものか。この様子だと犯人達は結構入念に準備していたと考えるのが無難だろう。正直どうやって俺達が霊媒師を探してることを知ったのか謎だが、今はそれを気にしてもしかたない。
つくづく思うが、やはり護衛は後手に回りがちだ。相手の情報を事前に察知できれば罠にはめて反撃も可能だが、俺はあくまで一介の高校生。そう上手く行くものではない。
つまり、情報戦において護衛側は不利になりがちなのだ。護衛側が大きな組織なら事前に察知したり、数の暴力でゴリ押せるのかもしれない。だが、それでも後手には回ってしまうだろう。
まあ今はそれを考えても仕方ない。死霊術でゴリ押したいとこだが隙がないな。ギリ俺を生贄に詩織だけ逃がせられるかどうかってとこだな。
そう考えた俺が詩織に逃げろというジェスチャーを男達の死角からする。
だが、詩織がそうして逃げる前に男達のうちの一人が低い声で「動くな、動いたらそこの男を撃つ」と脅してきた。
詩織はその言葉にピクリと反応すると、両手を上げて前に出る。
「おまっ……何やってんだ!」
俺は慌てて詩織を止めようとするが、詩織は無視して突き進む。
「いや、これもう二人とも生きるならこれしかないでしょ」
詩織はそう言って男達の方へ歩いていく。
俺は止めろと言おうとしたが、止めた。この状況は使えるかもしれない。今、詩織に注目が向いている今なら二人で逃げられる可能性がある。
俺は死霊術で巨大な手を作り、即座に中に入ると、奴らの死角に死体で俺の偽物を作る。そして即座にその手で詩織を掴むと勢いよく手ごと空へふっ飛ばす。
「え、ちょっと優平君!? な、なにをして……え、駄目だって死ぬよ!」
詩織は俺が手の中にいることに気づかず、パニックになって叫んでいる。恐らく
山の中にいる俺の偽物を俺だと思っているのだろう。
正直、見ていて面白ったので、放置するか迷ったが、さすがに良心が咎めたので話しかけることにした。
俺は手のひらの部分から人差し指のところまで顔を出すと、詩織に「詩織、俺ならここだ」と言う。
「どうしよどうしよどうしよ早く助けに行かないと!」
駄目だ、まったく聞こえてねえ。
俺はこのままだと埒が明かないので、詩織の頭を無理矢理俺の方に回す。
「あれ、優平君……? なんで?」
「マジックもどきをやったんだよ。あいつらが詩織に釘付けになってる間に速攻で色々やった感じだ」
「あ、ああなるほど?」
詩織はあまり理解できていないのか、少し疑問が残った顔をする。
「ああ、それから勝手に護衛対象が護衛を守るんじゃない! 結果的に上手くいったからよかったが、あのまま連れ去られてたらどうするつもりだったんだ!」
俺は詩織にそう怒ると、詩織は小さく縮こまった。
「ご、ごめん、でも……あのままじゃ君も私もやばかったじゃん」
「ならなおさら降伏なんかするべきじゃねえよ。どうせ不穏分子の俺は殺されるのがオチだ」
「あ、よくよく考えたらそうだね……。少し慌てちゃってたや」
詩織は少し寂しげな笑顔をすると、目を閉じる。
「それに、もし俺がそれで助かったとしても一ミリも嬉しくねぇわ。後味最悪だし金も手に入らないしお前もロクな目に会わないしでメリット少しもねえんだよ」
「本当にごめん……。今後はそういうことしないようにするよ……」
そうしおらしく返事をする詩織の姿に罪悪感を覚えた俺は、慌てて謝った。
「すまん、言い過ぎた。俺にも責任があるのに一方的に責めて本当に……ごめん」
「いや、優平君が謝らなくていいんだよ。実際その通りだし。ただそうだね、君も自己犠牲しようとしてた件についてはじっくり話し合いたいね」
「……なんで分かるんだよ、エスパーか?」
やべえそういや俺も同じことしようとしてたな。完全に自分のこと棚に上げてたわ。
「いやいや、君バリバリ逃げろってジェスチャーしてたじゃん。自分は一切逃げようとしてないくせに」
あー、そういえばそんなことしてたな。
「君のさっきの言葉、そのままお返しするよ。護衛だから最大限私を護ろうとするのは分かるよ。でも私にとって君の代わりはいないの。だから死んでもらっちゃ困るんだよ」
「……護衛が護衛対象の為に死ぬのは別にいいだろ」
「あーもう、うるさい! 四の五の言わずに自己犠牲やめろ!」
詩織はそう言って俺に怒ると、頭突きを噛ましてきた。
「痛っ! いやめっちゃ痛えな。お前石頭かよ」
「ふふふ、悔しかったらやり返してみなよ。痛くなるのそっちだけど」
「ああ分かった。お望み通りやってやるよ」
俺はそう言って死霊術で額の部分を死体で強化すると、頭を後ろに引く。
「え、ちょっと待って魔法使うのは反則でしょ! 待ってごめん謝るからやめて!」
「もう遅い!」
その後、空で一人の少女が悲鳴を上げたことはもはや言うまでもないだろう。
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