2話 早すぎる襲来
あれから数日後、俺は再び詩織の家に訪れていた。
「おはよー!」
声がした方向を見ると、詩織が突撃してくるのが見える。
俺はそれを避けると、詩織の方を向く。
「おはようございます。今日はいい天気ですね」
詩織は一瞬驚いた表情をしたかと思うと、すぐに冷たい目でこちらを見てきた。
「君、なんで敬語なんか使ってるの? どう考えてもガラじゃないでしょ。それに友達に使うもんでもないし」
「いや、今日からお前の家族とも暮らすから外ヅラよくしとく必要あるだろ?」
「別にいつも通りでいいのに。君がどんな人間かはもう私話してるし」
詩織はそう言って笑うと、スタスタと歩き始める。
少しの間の沈黙があった後に、俺が話しかける。
「お前、なんて言ったんだ?」
「何って言われても……日常会話の範囲内だよ。単純に私がたまに話題にしてただけ」
その日常会話の内容が気になるところだが、まあいい。どうせ聞いたところで教えてくれないだろう。
そうして俺達は玄関の扉を開けると、家に入る。
「……って誰もいないじゃないか」
「え? そんなはずないんだけど。でも本当にいないね」
「まさか騙したとかじゃないよな?」
「疑い深いなぁ。そんなことしてないよ。正直今私めちゃくちゃ焦ってるからね?」
詩織は冷や汗を垂らし、不安そうな顔をしている。どうやら完全に想定外らしい。
「……護衛初日からいきなり仕事かよ。ブラックだな」
俺はため息をつくと、詩織と一緒に家を見て回った。
「ただいまー! ……駄目だね。誰も返事しない」
「そうだな……ところでお前、俺と会うまで何してた?」
「えっと……庭で壁打ちしてたよ。家の様子は知らないけど、特に変なことはなかったと思う」
「なるほど。まあとにかく状況把握しないとな」
俺たちは一通り家を見た後、庭も探索する。が、見つからない。それどころか、庭から出ることができなくなっていた。
「これ、もしかしてだけど……ここ、私の家じゃないのかな?」
「いや、それはさすがにないだろう。ただ、恐らく今襲われてるのは俺たちの方なんだろうな。この感じからして幻覚魔法使われてるってとこだろ」
「幻覚かぁ……。だとしたら相当やばいね。私達がこうしてる間にも襲うことだってできるわけでしょ?」
「そうだな。ま、大丈夫だ。なんとかなる」
俺はそう言うと、両手に思いっきり魔力を籠める。
「詩織、もうちょいこっち来い」
「う、うん」
詩織は俺に近づき、後ろに隠れる。
「ふんっ!」
俺は辺り一面に死体を放出し、暴れさせる。
「グオッ!」
すると、どうやら犯人に当たったのだろう。鈍い音と汚い声が聞こえてきた。
「適当にぶん回してみるもんだな」
幻影は消えたらしく、犯人の姿が見えてきた。
犯人は小太りした男だった。多分幻覚で自分の姿を隠して俺達を襲うつもりだったのだろう。手にはハンマーが握られている。
俺はとりあえず警察に通報し、男を死体の山に閉じ込める。
「それにしても君、無言魔法使えるんだね」
「ああ、死霊術だけだけどな」
「へぇー、凄いね。私まだ無言魔法あんまりできないんだよね。かろうじて氷魔法でいけるかいけないかって感じ」
「まあ、その辺は努力次第でどうにでもなる。それよりさっさと家見に行くぞ」
「うん。……ところで幻覚解けたのになんでまだこんなに静かなのかな……?」
「まだ幻覚解けてねえのかもな。その辺は幻覚の性質次第だからなんとも言えねえけど。後は……」
俺は続きを言いかけてやめた。これを言ってどうするつもりだったんだ、俺は。
ただただ詩織を不安にさせるだけじゃないか。
「……とにかく急ぐぞ」
俺はそう誤魔化して、家の方へ走りだす。詩織も慌ててついてくる。
再び家に戻りリビングに向かうとと、そこには地獄が広がっていた。
血の海とうめき声、そして横から上がる悲鳴。
「……まだ全員生きてるな。いや生かされてんのか? まあとにかく死霊術で傷を塞ぐか」
俺は夜雪一家の元に行くと、死霊術を使おうとした。が、詩織が止めてきた。
「待って。それよりいい方法がある」
詩織はそう言うと、自分の腕を包丁で切り落とした。そして、そこから出た血を夜雪一家に振りかける。
「私の血には体を再生させる効果があるの」
詩織の言った通り、夜雪一家の受けていた傷は、どんどん治っていく。
「でも体力や血は戻らないからそこはなんとかしないとまずいね。血は今私が輸血するからいいけど、体力はどうしよう……。なんか案ない?」
「俺が死霊術の性質を応用して直接エネルギーぶちこむ」
「え? そんなことできるの?」
「できる。が、多分全員やった後は気絶するだろうから後は頼んだ」
俺はそのまま夜雪一家の体に触れ、どんどん治していく。
「これでよし。そんじゃ輸血しといてくれ。俺はそろそろ落ちる」
「えっちょっと待っ……」
詩織が言い切る前に、俺の意識は薄れて行った。
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