13話 人間は愚か?
うーん……あれ、私寝ちゃってたかな? 駄目だなんも思い出せない。
とりあえず私の今日の行動を振り返ろう。まずいつも通り学校行って、それから優平君達と立川に行ったんだっけ。
……………………………………ハッ!
そうだ、私後ろから誰かに襲われて……
それで気絶させられちゃったんだ。
手で口を塞がれてそのまま魔法でドーンとやられたんだったかな? いやー、完璧に油断してたね。
さて、それより問題なのは今だね。ここは倉庫? いや地下室かな。それから……うん、見事に拘束されてるね、こりゃ。
私は体を動かそうとしてみたけど、少しも動く様子はない。
感触的に多分手錠をされてる感じかな。多分中学の時にも付けられた魔法を使えなくさせる奴かな?
それから椅子に紐で体固定されてるね、これ。それに助けを呼べないように口に布噛ませてるね。
しかも足も手錠つけられてるね。よっぽど私を逃したくないんだろうな。
んー、私さらわれるのこれで何回目だっけ? 某桃姫よりかは多分少なかったはずだけど。小学生の時三回で、中学校二回、じゃあこれで六回目か。意外と少ないね。
まあどっちかって言うとデマに踊らされて殺しにかかってくる人の方が多いしね。
ま、どうせしばらくしたら犯人来るでしょ。とりあえず体力温存の為に寝ようかな。
「貴様、随分余裕そうだな」
ちぇ、せっかく寝ようと思ったのに。もう犯人来ちゃったじゃん。帰ってくれないかな。
私がそうして向こうを睨むと、犯人、真神陽子は鼻を鳴らした。
「不気味な奴め。まあいい、貴様は用が済めば適当に東京湾にでも沈めてやる」
「はんへははひほははっへほ?」
駄目だ、まったく質問できない。なんで私をさらったのか聞きたかったんだけど……。
「ふん、命乞いか?」
「ひはふ!」
「さっきから貴様何を言っているのだ!」
いやさっさと布外してよ陽子ちゃん頭悪いの?
そう思っていると、ようやく陽子ちゃんも気づいたのか口の布を取ってくれた。
「ぷはっ! なんで私をさらったの? やっぱり不死? 不死? 不死だよね? あ、それとも不死?」
「……主な理由としてはそれだ」
「だよねー! 私を狙ってくる人の大半がそれだもん。で、なんで不死になりたいの?」
「……緊張感なさすぎないか貴様。自分の立場理解してない訳でもあるまいに」
陽子ちゃんは呆れた顔をし、深くため息をつく。
「いやー、こっちはその辺プロだからね。少しぐらい慣れるよ。で、なんでなんで?」
「……私は少し厄介な体質でな。自分が死ぬと時が三十分前に戻ってしまうのだよ。いわゆる死に戻りと言う奴だな。」
「あー、それで私の不死の力が必要になるわけだ。言い方的にその体質制御できてないんでしょ」
「……話が早くて助かるな。どこかのネクロマンサーとは大違いだ」
「ふふふ、そういうとこがいいんじゃん、優平君は」
分かってないなぁ、陽子ちゃんは。あの割と頭良さそうな顔からのギャップがいいのに。
「貴様の好みは聞いてない! ……とにかく私はこの狂ったループから世界を救いたいのだ!」
「なるほど、陽子ちゃんが死ぬと時間が戻るから、このままだと私達は大体百年後の未来までしか行けなくなるってことね」
「そういうことだ」
なら最初からそう言えばいいのに。変に難しそうに言っても良いことないよ?
私はその言葉を心の中で留め、返事をする。
「そういうことなら協力するよ! 私も嫌だからね、そういうのは」
「……そう言って逃げ出すつもりか? ならばそうはいかないぞ」
「嫌だなぁ、私は本当に協力したいだけだよ。皆私と話もしないでこうやって襲ってくるからたまったもんじゃないね」
「本当か……?」
陽子ちゃんは疑いの眼差しでこちらを見てくる。
「私はね、私の力が悪事に使われない限りは基本的に誰にでも手、貸すよ? どいつもこいつも話したくないのか知らないけど勝手に襲ってきて、めっちゃ迷惑なの、正直。別に私この力独り占めしようなんて思ってないし! 私そこまで器小さくないもん」
「……」
「というわけでさすがに不老不死にはできないけど、私の心臓とかなら提供できるよ。私の心臓と血は特別でね。いくらでも量産可能なんだ」
「心臓? それでどうするつもりだ」
「陽子ちゃんの寿命と生命力爆上げするの。もちろん完全に不死身ではないから死ぬときは死ぬけど、少なくとも不老不死にはなるし」
「……私が求めているのは完全なる不老不死、不死身だ。そうでなければ結局時は繰り返し続ける」
陽子ちゃんはまた痛い言葉を発し、私の提案を拒否する。
「そんなこと言われてもね……私は知らないんだよ、その方法」
「ふん、貴様が知らないならこっちがゆっくり人体実験で探ればいい話よ。そしていつか見つければいい」
「えー、人体実験やるの……? やってもいいけどできるだけ優しくしてね?」
「それは無理な話だな。残念ながら貴様には苦しんでもらうことになる」
「そっか、残念。まあとりあえず私の血貰ってよ。スカートのポケットに入ってるからさ」
そう言って私は目でスカートのポケットの位置を教えると、陽子ちゃんに取るように言う。
「……貴様なんでそんなところに入れてるんだ?」
「そりゃ周りがトラブルに巻き込まれた用だよ。私が傷つくのはどうでもいいけど他の人が傷ついて死ぬのは嫌だからね」
「……そうか。まあそれはありがたく頂こう」
陽子ちゃんはそう言って私のスカートから血の入った試験管を取り出すと、近くのテーブルに置いた。
「あ、そういえばなんで優平君殺したいの? やっぱり魔物殺してるから?」
「そうだ。だが別にあの男に限った話ではない。魔物狩りをする者はすべて死ぬべきだと思っている」
「それは……陽子ちゃんが魔物だから?」
「…………そう、だ」
陽子ちゃんは凄く悩んだ後、そう答えた。
「やっぱりね。……少し、小話していい?」
「勝手にしろ」
陽子ちゃんはそっぽを向きながらそう言う。
「ありがとう。それじゃ、まず優平君の日記の話ね」
「前言撤回、なんでそんな話を聞かなければならんのだ」
「まあまあそう固いこと言わずにさ。私ね、この前こっそり優平君が留守の時に彼の日記盗み見しちゃったんだ」
「……どんな内容だったのだ?」
どうやら興味を示してくれたらしい。
「……殺した魔物の数と、一体一体の特徴、それから名前付きの魔物には名前も。後は懺悔と学校での出来事の感想だね。正直引いたよ。今まで殺してきた魔物の数も毎日ちゃんと更新してたし」
「…………………」
「いやー、よく過激派ヴィーガンとかって言うけどあれはもうそれすら超えてるね。あれは将来理系進んだら病むタイプだよ」
正直そういうのはまともに考えちゃだめだと思うんだよね。魔物狩りもそうだけど根本的に真面目すぎるんだよね、彼。まあその分信頼はできるから護衛としては最適だけど。
「……」
「まあ、そういう話。こんなこと言っても優平君が魔物を殺した事実は変わらないけどね。だからこれは心の片隅にでも留めておいてくれると嬉しいかな」
「……それを言えば私が奴を許すとでも?」
「いや、そうは思ってないけど……」
さっきまで黙っていた陽子ちゃんは急にそう私に聞いてきた。しかも、凄く冷たい声で。
これはもしかしたら失言だったかも……。
「……今貴様がやっているのは言ってみれば不良が悪さした後にその被害者に対してアイツ根はいい奴なんだと言っている連れの彼女と同じことだぞ」
「……ごめん」
「今更謝ったところでもう遅い! この脳みそバームクーヘン野郎!」
陽子ちゃんはそう言って私に蹴りを入れ、椅子ごと私を倒す。どうやら本気で怒らせちゃったみたい。
私は弁明しようとしたけど、その前に陽子ちゃんが布で私の口を塞いできた。今度は更に強力に塞いできたのでまったく喋れない。
「ふん、やはり魔物と人間が分かり合うなど不可能だな。そもそも肌の色で争うような種族に期待などしていなかったが」
「……!」
私の反論は一切陽子ちゃんに届くことなく、私の中で完結する。
そしてそのまま陽子ちゃんはどこかへ行ってしまった……。
よろしければ応援お願いします!