1話 ネクロマンサーと不死?の少女
「はぁ……これで今日の魔物三匹目かよ。最近魔物多くて嫌になるな」
俺、神谷優平は目の前にいるカエルのような形をしたバケモノを殺し、そいつに手を合わせる。
正直、魔物を殺すのは気分がいいものではない。いくらが奴らが人を襲うとはいえ、一つの生命を奪っているのだから。
この世界が劇的に変わってしまったのは二十年前。突如、全ての生物に魔力なるものが宿り、人々はその魔力を使い、より社会を発達させて行った。
そして、その魔力とやらの影響で生まれてくるのが魔物だ。魔物は他の生物に似た姿で生まれてくることが多い。極稀に人間が作り出した架空の生物として生まれることもあるらしいが、俺はまだそういう奴には出会っていない。
俺はため息をつくと、アスファルトでできた道路にしゃがむ。
「さて、衛生的にもよくねえしさっさと回収するか」
俺は左手をさっきの死体に向けると、死霊術を使い、死体を左手で封印する。
……この魔法も、使っていて気分が悪くなる。まるで、死者を冒涜しているみたいだからだ。
でも仕方ない。これしか適性がないのだから。
俺がそうして自分に言い訳をしていると、突然電話がかかってきた。
「詩織から電話か。珍しいな」
――夜雪詩織。うちの学校のクラスメイトの一人だ。席が隣なので、よく絡みはするが、電話は恐らく初めてだ。
俺はスマホを手に取ると、通話ボタンを押す。
「なんのよう――」
「なんのようじゃないでしょ! 頼みたいことあるから私の家に来てって言ったじゃない!」
「やっべ素で忘れてたわ。すぐ行く」
そういやそんなこと言ってた気がするな。確かその時金欠でどうしようか悩んでて、ちゃんと話聞いてなかったんだよな……。
俺は電話を切ると、すぐに走り出す。
現在地は詩織の家からは離れている。そして今の所持金はゼロ。さらに俺はテレポートを使えない。よって全力疾走以外の方法なし。
あー、クソ、いくら貧乏だからって交通費ケチったのが裏目に出やがった。
そうして俺は、大体二十分位かけて詩織の家まで行った。
詩織の家は山の中腹にあった。見た目はまさに和風の豪邸といった感じだろうか。庭も広く、正直嫉妬する。
「遅い! 電話するまでの時間も考えると一時間六分五十ニ秒の遅刻だよ」
声の主――夜雪詩織は、家の玄関で制服姿で待ち構えていた。
短く黒い髪に白っぽい肌。そしてテニス部の厳しい練習により鍛えられた筋肉は、
まるで人ではないような妖しさを秘めている。
彼女の氷の結晶のような髪飾りが太陽の光を反射して、こちらを照らす。
「すまん……ところで秒数まで数えてるのは突っ込んだ方がいいのか?」
「それ聞いちゃ駄目でしょ。ちなみにストップウォッチで測ってたから間違いないよ」
「そうか。で、頼みごとってなんだ?」
俺は適当に流してそう聞くと、詩織は深刻そうな顔をしてこう答えた。
「実は……三億円で私の護衛をしてほしいの」
どうやらイヤホンの使いすぎと耳掃除のしなさすぎで聴力が落ちたらしい。三億円という単語が聞こえてきた。
「すまん、よく聞こえなかった。もう一度言ってくれないか?」
「だから、三億円で私の護衛をしてほしいって話」
聞き間違いではなかったらしい。また三億円という単語が聞こえた。
「……冗談なら帰らせてもらう」
「待って! 冗談じゃないから話を聞いて!」
俺が帰ろうと背を向けると、詩織が慌てて止めてくる。
「冗談じゃないならなんだよ。新手の詐欺か?」
「違うよ! いいからとりあえず席に戻って!」
そう言って詩織は俺を無理矢理こちらを向かせる。
「結論から言うと私、悪い人達から狙われてるの」
「……被害妄想じゃなくてか?」
「違うってば! あー、もう説明めんどくさいから実演するね」
「は? 実演?」
俺は詩織の言っていることが理解できなかった。狙われるのに実演も何もないだろう。
俺がそう考えていると、彼女はいきなり制服のポケットからハサミを取り出すと、自分の首に突き刺した。
そして、みるみるうちに血が流れ、詩織はその場に倒れる。
「ッ! 何やってんだお前!」
こいつ何考えてやがる!? もしかしてヤクでも決めてたのか?
「ふふふ、いいねその理解できないって感じの表情。でも大丈夫。私不死身だから」
詩織は何事もなかったかのように立ち上がり、ハサミを引っこ抜く。
すると、詩織の首の傷は傷跡一つ残さず消えてしまった。
「……もしかしてそれが原因で狙われるって話か?」
「そーいうこと。嫌なもの見せちゃってごめんね」
「ごめんねで済む話かこれ? 普通に夢に出てくる自信あるんだけど」
やっぱりこいつヤクやってるだろ。ス◯ードとかチョ◯とか。後アンパンも。
「いやー、だってこのまま私が不死身だって説明したら優平君間違いなく帰るでしょ?」
「そりゃ帰るけどよぉ……でも首に刺すことねえだろ。腕とか手のひらとかあるだろ」
「でも首が一番近いし刺しやすいじゃん?」
「知らねぇよ」
俺は食い気味にそう返すと、ため息をつく。
割と絡みはあったから、多少お互いのことを理解できていると思っていたが、そんなことはないらしい。俺は今、こいつのしていることが一つも理解できない。
「ま、というわけでこれから護衛よろしくね!」
「いやまだするなんて言ってねえよ。詳しく内容聞いてから決めるわ」
グイグイ来るなこいつ。そういう所前からあるなとは思っていたがここまでとは。
詩織は「えー、めんどくさいなぁ」と不満をもらしながらも、説明をし始めた。
「まず優平君にはうちに住んでもらいます」
「この話はなかったことに」
俺は走って庭から出ようとした。が、すかさず詩織が俺の足に抱きついた。
「待って! どうしてそんなにすぐ帰ろうとするの!」
「逆になんで分かんねえんだよ! 同居とか絶対ろくなことにならねえの想像つかねえのか?」
「つかない!」
「即答してんじゃねえ!」
俺は詩織の手を剥がそうとするが、なかなか剥がれない。力は俺の方が明らかに上だが、奴の執念が強すぎる。
「あ、ちなみにもう学校と私と君の親には許可取ったよ」
「既に外堀埋めてるじゃねえか! どんだけ俺を雇いたいんだよ!」
「死ぬほど雇いたいね。死なないけど」
ここまでだな。正直嫌だが三億円は欲しい外堀は埋められてるし、しかたない。
「あー、もうわかったよ! やればいいんだろ、やれば!」
俺がそう言うと、たちまち詩織の顔が笑顔になった。
「やったー! それじゃ前金五千万円後で君のお母さんの口座に振り込んどくね」
「……後悔しても知らねえよ」
「しないよ。君のことは信用してるからね」
「そうか。俺はたった今お前のことが信用できなくなったよ」
俺は深くため息をつくと、静かに詩織の家をあとにした。
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