#3 外伝、陰キャの僕は、美人を前にしてキャラ変した
ありのまま、今起こった事を話すぜ…。
俺は無人の図書室に立っていたんだ。
古木も先生も出て行って無人となったこの部屋。
ほんのわずか…、ほんのわずか視線を手元のメモに移し
その後、図書室を見回したら…
先輩が、いたんだ…。
トリックだ、超能力だ、そんな物では決してねえ!
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。
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「え、えっと…、こんにちは…」
震える声がそれだけを伝える。
僕が必死になって絞り出した声だ。
目の前には絶世の美女がいる。
僕は息を飲む…。女子の制服のブレザー、
身に付けた首元のリボンは深緑の色…。
僕達一年生は濃紺…、二年生は真紅…、
三年生は深緑を学年カラーとしている。
この人は三年生…、先輩だ…。
透き通るような白い肌…、
古木も整った顔立ちをしている方だけど、
この先輩はそれを上回る…。
どうしたらこんな綺麗な人がいるんだろう…。
先輩の左手が…、細い指が新しいページをめくる。
その時の紙が擦れる僅かな音がやけに鮮やかに響く。
彼女の視線は本に並ぶ文字の羅列を離す事はない。
横に続く文字列に、ひらがなや漢字は見られない。
何処の国の言葉か分からないが、
外国書である事だけは僕にも分かる。
集中しているのか、僕に気付いていないのか、
彼女の視線が僕に向けられる事はない。
「…………………………」
沈黙が続く、ここに先輩がいないかのように。
音も無く、熱も無い、
図書室は風のない真冬の夜のようで。
【このままだと先輩は消えてしまうのではないか?】
僕は何故だかそう思った。そんな訳は無いのに。
融ける寸前の雪の様に、儚さを美しさに秘めて、
消えてしまうのではないか?
この美しい人は、消えてしまうのではないか?
恐ろしかった、何よりも恐ろしかった。
しかし、言葉が届いていないようで…、
息をする事さえ忘れた僕が、この人を失いたくないと
名前すら知らない先輩、とても綺麗な先輩、
もう一度だけ…。
「…その本、面白いですか?」
胸に溜めていた息を、思いを言葉に乗せた。
なんて気の利かない事を言ってしまったんだろう…。
でも、こんな綺麗な人に何て話しかけて良いかなんて
分からないよ…。
【住む世界が違うのかな…】
思わず諦めを覚えた時、彼女の視線が僕を捉える。
初めて…、初めて僕を見てくれた!
かすかに首を動かした事で彼女の背中まで伸ばした
まっすぐな銀色の髪の一部が肩からこぼれ落ちる。
さらさらと、音を立てるかのように。
「…ユニーク」
先輩がこちらに向けただけの視線が、
意志を持って僕を見始めた瞬間だった。
第三話、
時間にして約三十秒程度の間の物語です。