#16 『異界』
『希望』を取り上げられ、『絶望』が突きつけられる。
二号車前面から先頭車両に向け伸びていた『⬅︎』状の連結器が
先頭車両の最後尾う(ケツ)から伸びる『➡︎』状の連結器と
原始的な『□』の形をした脱落防止用金枠に接続されたまま
外れる事はなく不機嫌な猫の尻尾のようにぎこちなく
そして不自然な動きで揺れている。
乗り移る筈だった二号車は、大口径の拳銃や散弾銃で撃たれた
山の獣のように裂けた表皮とぶちまけた内臓を晒すかのように、
外装と内装が無惨な姿となっている。
妙に明るい月明かりのお陰でその姿がかろうじて見えていたが、
走り続ける先頭車両から横倒しの二号車は当然遠ざかっていく。
もうもうと上がる砂煙が車両を相変わらず包み、
所々(ところどころ)キラキラと月明かりを受け煌めいて見える。
あまりの事に呆然と見つめていた僕たちの視界から消えた。
それは僕らの脱出経路。生存の為の唯一の希望だったのだが、
僕らが脱出しようとした「ここしかない!」というタイミングで
御破産にされた。それは性悪な絶対者が、弱者が限界まで
足掻いたところで意地悪く『逃がさないよ』と言うような
意地悪な話。いずれにせよ『希望』は絶たれたのだ。
入れ替わりにやってきた『絶望』、それだけがここに残った。
□ ◼️ □ ◼️ □ ◼️ □ ◼️
すすり泣く声が聞こえる。ひざまづくどころか、
地に両手を付き、悲しみに肩を震わせる先輩。
死を覚悟した後に、僕が生存への道に振り向かせたのに
その希望が途絶えた絶望感は僕よりも大きい筈だ。
所謂『上げてから落とす』、その無慈悲な仕打ちを僕がした。
この短時間での目まぐるしい希望と絶望、死生観の変化に
感情のコントロールをしろという方が無理な話だろう。
そして、その絶望関与している自分に怒りを感じる。
それが先輩を悲しませているのだから。
………。
かける言葉が見つからない。
何も言えない。でも、何か言わなくてはいけないのに。
しかし、次に口を開いたのは先輩だった。
ごめんなさい、と。