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#14 『異界』 躊躇とごめんなさい

外伝(がいでん)です…。


僕は今、泣きそうです。


どうしたら良いか分からんかったとです…。


リア充…。きっとそう言うような状況(シチュエーション)だったとです。


だって、クラスの女子とマトモに話した事もないような僕が、


絶世の美人とも言える先輩を抱きしめていたのだから!


抱きしめて『いた』、…そう、過去形になったとです。


先輩の感触とかニオイとか記憶しとけば良かったとです。


こんなチャンス、もうきっと無かとです。


外伝(がいでん)です…。


外伝(がいでん)です…。


………。


……。


…。




先輩を抱きしめた僕ですが、こんな事には慣れてないので、


すぐに我にかえり、恥ずかしくなりすぐに手を離してしまった。


ギャルゲーとかアニメならヒロインに『意気地無し(ボソッ)


』と言われてしまいそうな体たらく。


僕は女子に対しヘタレなんです…。ヘタレマスターなんです。


気を取り直し、先輩にこれからどうするかを尋ねた。


すると、この葬送列車の先頭車両と二番目の車両の連結を外し


二番目の車両に逃げる事を提案された。


動力は先頭車両にのみにあるから、それを切り離せば


ただ転がっているだけの二番目以降の車両はいずれは止まる。


どうやら先輩は機械や列車などの構造にも詳しいようで、


この手の列車の連結車両の外し方を知っていた。


なんでも、今乗っている汽車の構造はかなり古く、


とても単純(シンプル)。しかし、複雑な構造でない代わりに


とにかく単純(シンプル)頑丈(タフ)という信頼性。


本来、つなぎ目くらいしか揺れの発生源が無いであろう


まっすぐな線路なのに、車両の揺れが激しいこの列車は


サスペンションの類が無いそうで、わずかな段差が


大きな揺れを発生させる。


その為、揺れたはずみで連結が外れたりしないように


とにかく頑丈に、そしてそれだけ揺れたりすれば連結部に


負担が常にかかるから交換やメンテナンス等がしやすい様に


単純な構造になっているらしい。


しかし、この揺れは馬鹿にならない。


一番最初に飛び乗った最後尾の車両にあった木製の硬い座席に


座り続けていたら激しい振動によってそれだけで身体中が


痛くなり、また疲労もしてしまうだろう。


………。


……。


…。


その後、先輩から車両の切り離しの手順の詳細を聞く。


幸いな事に葬送列車の先頭と二番目の車両をつなぎ止める部品は


非常にシンプルな物だった。


しかし、ド素人(しろうと)の僕が一目見ただけで分かるくらいに


ゴツい物で、とにかくデカく、分厚い鉄で出来た四角い


金枠のような物で、それが前後の車両の接続部にそれぞれ


矢印(やじるし)の様な形をした先頭車両末尾から伸びるゴツい『➡︎』と、


二両目車両の先端から伸びる『⬅︎』の形をしたとにかく太い


幅30センチはあるであろう鋼鉄の連結器具が『⇄』の様な形で


噛み合い、上下の噛み合う部品が外れない様に四角い金枠が


二本の矢印が合わさる接合部それぞれの矢尻の根本部品に


『□』状をした先述のゴツくて分厚い金枠がハマっている。


要はこの『□』部分…、連結部の脱却防止器具(ストッパー)を外す事で


先頭車両と二両目は列車走行時の振動で遠からず連結部が外れ


二両目以降はいずれ止まると言う計画だ。


あり得ないくらいの単純な作戦だか、この列車は本来なら


終点まで数千キロを走る事もあり、万一の故障の際には


修理や交換がしやすい単純な構造と、機能性は無くとも長距離と


厳しい自然環境にも耐えられる耐久性が最大の信頼性につながる。


子供でも分かるその単純さが、今は僕たちに味方する。


そして、幸いな事に『□』の形をした金具を車上からでも


外せるようにする槍ほどの長さがある引っ掛ける為の


曲がりを先端部につけた平行棒のような棒状の道具もあった。


希望が湧いてくる。先輩と二人で生き残る為の。


覚悟を決めなきゃ。


多分、時間はあまり無い。


□ ◼️ □ ◼️ □ ◼️ □ ◼️


『⇄(金具)』の真ん中に『□(しかく)』の脱却防止器具(ストッパー)


単純には外れないよ〜♪鼻歌を歌ってみる。


この『□』部分の上部二つの内角に、先程の平行棒の器具の


曲げて引っかかる様になっている部品を当て上に引っ張る。


最初は力任せに引っ張り上げようとしたが、これは悪手。


走る列車の振動に合わせ、連結部が密着したり離れたりする


様子を見極め、離れたタイミングを見計らい上に引っ張る。


そうする事で少しずつ『□』部分を上げ、結合部の上に掛ける。


そうしてから、『□』部分は『⇄』の結合部より大きいので


後は『□』の下部を押し込む事で脱却防止器具(ストッパー)としての


機能を失う。うん、出来そうだ。


そしてすぐに脱却防止器具(ストッパー)を元に戻す。


「先輩、これなら出来そうです」


先輩は自分の考えた作戦が上手く行きそうな事に安堵(あんど)したのか


嬉しそうに微笑んだ。それだけで僕は癒される。


後は僕たちが実際に脱出すれば良い。


なぜか僕はこの時、妙にウキウキした気分が湧いて来ていた。


この連結部を外す為に平行棒の様な物を握っていると、


不思議と『希望』、そんな二文字が高揚感と共に胸に浮かんた。


□ ◼️ □ ◼️ □ ◼️ □ ◼️


希望、後はそれを実行に移すのみ。


先輩と僕は、最後の打ち合わせをする。


僕は連結部の金枠(□)を外す、先輩は二番目の車両の扉を開けて


そこで待機。僕は金枠を外したら後ろの車両に移動。


もし金枠を外してすぐに車両が外れてしまったら


先頭車両からなんとかして飛び込む。乗り込めなくても


二号車の入り口にへばりつく事でも出来れば、あとは先輩に


引っ張り上げるのを手伝ってもらえばいい。


簡単な作戦だが、これで充分だろう。


………。


……。


…。


さあ、先輩と脱出だ。


金具を外して二号車へダッシュ…、もし金具を外した瞬間に


連結部まで外れて、二号車に向けて身体半分でも飛び込めれば


着地できずともきっと先輩が引き上げてくれる…、はず。


……ぞくり。


急に嫌な気持ちになる。


連結部を外し、すぐに二号車に飛び込まねばならない様な


状況になり、もし二号車内に着地できず宙ぶらりんの状態に


なった時…、『先輩は僕をちゃんと引き上げてくれるだろうか?』


なんとなく浮かんでしまった小さな不安が大きくなっていく。


気がつけば金枠を外そうとしていた僕の手が止まっていた。


どうやら不安が色濃く顔にも浮かんでいたのだろう、


先輩が心配そうに僕の横に来る。


いけない、いけない。


守田(メスゴリラ)や田村達の言動、そして、ある時から


その守田達に手の平返しをした学級内(クラスメイト)の大多数の影響か、


他人をつい疑ってしまうというか、信じ切れない部分がある。


特に話慣れていない女子達、その後の守田へは陰湿を極めていた。


でも大丈夫、先輩なら…。そう…先輩になら…。


そうであって欲しい…。


だから今は目の前の事に集中するんだ。


先輩に「大丈夫です」と声を掛け、僕は連結部に向き直る。


金枠外しに再度取り掛かる。今度は最後まで行う。


外して…、すぐ二号車に…、頭の中で予行演習(リハーサル)


その時、先輩が悲し()に僕の服の袖を握った。


「私も…、一緒に….、…する」


心臓を強く握られたような感覚に声を上げそうになる。


なんて事だ!先輩に『僕を信じて』みたいなアピールを


散々していたのに、肝心の僕が先輩を信じていないなんて。


それを先輩は気付いてしまったのだろう…。


だから、不安よりも心配そうに、そして悲しみを抱えて


僕に話しかけたのだろう…。


ならば僕が取る行動は一つだけ…。


「先輩、ごめんなさい」




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