閑話 半年前の出来事・前編 〜相容れない他人(クラスメイト)〜
人との関係性を考える度に、僕はいつもある事を思い出す。
今から半年くらい前、先日まで通っていた小学校での出来事だ。
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小学校最後の夏休みが終わりしばらく経ったその頃、クラスではスマホを持ち始める人の割合が目に見えて増えてきた。
半年後には中学生になるし、両親が共働きなどで昼間は子供だけで家で過ごす人が割と多く、その為に親との連絡用などに持つようになったのが主な理由だろう。
しかし、親より友達など家族以外の人間の方が多い訳で…。
夏休みの間は朝から晩まで友達とのメッセージのやり取りで一日が終わってしまうような人も結構いたようだ。
そんなある日、教室いる僕の席にウザい奴が来た。
「アタシさ、スマホのアドレス帳の登録もうすぐ200件行きそうだけど、アンタ何件入ってるの?」
小学校の時、クラスに陽キャの女子がいた。
メスゴリ……じゃなくて……守田…、下の名前は覚えていない。…そいつの発した耳障りな声。
コイツは周りを振り回し、いつもいつも騒がしい。
ハッキリ言ってやかましく、目障りと言っていい。
気に入らない事があれば自分の気が済むまで怒鳴り散らし、
楽しい祭りの当日のようなイベント時は自分中心に振る舞う。
しかし、その祭りの準備の様な地味だったり作業をするような時には全く参加しない。そのあたりがとても気に入らない。
陰キャな僕に言わせれば、普通なら誰からも相手にもされないようなただのワガママ女としか言いようがないのだが、なぜかクラスの女子連中の中では中心的なポジションにいた。
性格に難は有るけど、しかし滅法可愛いくて人気があるから多少のワガママもしょうがない…という訳でもない。
事実、男子のグループからは『お前クラスの女の中で誰が好き?』みたいな話題になった時に『絶対に名前が上がらない』タイプの女子であった。
なぜなら、キテレツな大百科を駆使して活躍する少年を描いた漫画に、ブタとかゴリラみたいなあだ名がついたガキ大将的キャラ(周りを振り回したりはするが、面倒見が良く気の良い奴なのがこの女とは違うが)がいたが、それの髪を長くしたようなのが守田だったので『メスゴリラ』と男子達に陰で言われていた。
「で?アンタのスマホ何件番号入ってんの?」
守田は上から目線で[答えなさいよ]と言わんばかりに聞いてくる。その後ろには他に数人の女子がいて、僕への無言の圧力の為に金魚のフンをして後押しをしている。
集団の力に事寄せて[答えろよ]と圧力をかけてるのだろう。
人生において知ってもクソの役にも立たない、そんな事の為に時間を割いてコイツらはそれで本当に楽しいのだろうか?
そもそも、ただクラスが一緒なだけで、特に仲がいい訳でもない奴になんで僕の情報を教えなきゃならないんだ。僕に何のメリットもないし、そもそも僕はクラスや学校にいる人が『みんな仲良し、大切な友達だ!』なんて立派な思想は持っていない。
気が合わないなとか、どうしたって嫌いだと思う奴もいるし、別に毎日クラス全員と会話しなければならないというルールがある訳でもない。
しかし、ハッキリ言ってシャクだけど答えないとギャーギャー怒鳴り散らされるのは気分が悪いし、周りに座る人も不快だろうから答える事にする。
「20件くらいだな」
その返事を聞いて、ゴリラの口元がニンマリと出来損ないの三日月のように歪む。
「アハハハッ!たったそんだけ?なんでそんなんでスマホ持ってんの?」
勝ち誇ったようにも馬鹿にしたようにもとれる口調で守田は笑う。
「アタシ、200件だよ、200件!この学校だけじゃなくて塾に来てる他の学校の子とか、お姉ちゃんの友達とか違う県の友達とか、アンタと比べ物にならないくらい入ってる」
それがアタシの魅力!能力!と声を大にして騒いでいる。
そのうちの一件は教えたくもない僕から強引に聞いていった僕の番号だろと僕は胸中で抗議する。
「そんだけしかいないのに、なんでスマホ?マジ分かんない!持ってる意味ないじゃん!友達いないのに?」
そもそも僕がスマホを持ったのは、日頃仕事で家に不在がちな両親…、時に泊まりがけの勤務で帰宅できない事もある両親との連絡用に使うのが主目的である。あとは清宮とか気の合う仲の良い友達との連絡、それだけで十分だ。
『友達百人できるかな♪』の歌をゆうに越える、守田の言う友達200人…、しかしこれはどこまで親しいのだろう?
その番号の中には僕のように教えたくないけど、強引に聞かれて渋々教えた…そういったものもあるだろう。
個人的な予想だがそれはかなり多い気がする。
ただ単に番号教えてと言うゴリラ顔のあまりの迫力に断ると角が立ちそうだからと仕方なく教えたに過ぎないのに、それを守田は理解する事ができず「アタシは友人が多い』と勘違いしているのではなかろうか?
そんな僕の疑問を他所に守田はマウントを取り自分がいかに価値ある人間かを、そして僕の価値の無さを声高にまくし立てるのであった。