2、やり直しですか...?
…眩しい。
朝かしら…?久しぶりの太陽の日差しが目に染みる。…ん?朝?…朝!?!?
「っ!!!」
アメリアは勢いよく体を起こす。…そう、体を起こしたのだ。
「お、お嬢様…?」
恐る恐るといった様子でメイドが問い掛けてくる。
「…っ!?貴方は…!」
アメリアは驚愕に目を見開き、メイドを食い入るように見詰める。
彼女に大いに見覚えがあったのだ。
「な、なんでございましょうか…?」
ミナ。アメリアの専属侍女だった女だ。そう、私の専属侍女だ。
アメリアは無言で立ち上がり、姿見の前に立つ。
そして絶句した。
そこには幼き日のアメリア自身がいたのだ。髪は艶がある白銀、瞳は淡い紫。この色彩を持つのはアメリアだけだった。
だが姿見にうつるのは、どう見てもぷにぷにの幼女だ。
「…ねぇ、私の年齢はいくつかしら?」
ミナは下賎な顔をしてた言う。
「6歳でございますが…」
6歳!!
私が死んだのは16歳のとき。だとしたら…10年前に戻ったの?けど、そんなことがありえるのかしら…?
「お嬢様…?」
アメリアはミナを冷めた目で見る。
ミナは、私を売ったのよね。
私が周りに糾弾されると、いち早く私の元から去っていった。地下牢にも1度も現れるのともなかった。そして虚偽の発言をし、私の極刑にも大きな力添えをした。まぁ、彼女を責める気はないのだけどね。力がおちれば離れる、実に貴族らしい。
「ごめんなさい、驚かせてしまったわね。なんでもないわ。」
アメリアはとても6歳児とは思えない、完璧な笑みを浮かべる。
ミナが目を見開いたのが視界の端に映る。
あぁ、そういえばこの頃の私は全く笑わなかったっけ。正確には笑えなかったのだけど。
今だって笑顔は苦手。けれど王妃として相応しくあれるよう、必死に鏡をみて練習した。まぁ、無駄になったけれど。
「ふふ、お腹が減ってしまったわ。朝食を頂きに行きましょう。」
アメリアは後ろで慌てるミナを置き去りに、すたすたと歩いていく。責めないとはいっても、あえて優しくしようとは思えないわよね。
なぜ彼女がこんなにも落ち着いているのか。それは決して彼女の順応能力が高い訳ではなく、ただ単に態度に出ないだけである。実はまだ夢ではないかと疑っている。現実だったら最悪だと本気で思っている。アメリア・ハウストーンなんて、なにもしなくても大変な身分を持ってしまっているのだ。やり直せなんて冗談ではない。
そんな内心の動揺が表に出ない可愛げのない女、それがアメリア・ハウストーンなのだ。
だがそんな彼女にも、動揺を隠しきれない相手というものが居る。対面すると言葉に詰まってしまうのだ。それは16歳になっても変わることはなかった。
「…リア?」
「…っ!」
こ、このバリトンボイスは…!
アメリアはあくまで優雅に、ゆっくりと後ろを振り返る。
「…」
そして思った通りの人物に、アメリアは一瞬固まる。
ウィスタリア王国の重鎮、ハウストーン公爵家当主にして、剣と魔法の腕は王国随一であるーーー
「お父様…」
アメリアの父、ウォルスタンである。
ありがとうございました!