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1、プロローグ

 薄暗い地下。

 鉄格子の中に閉じ込められた罪人の中に、とてもじゃないが罪を犯すようには見えない、この場に似つかわしくない女がいた。


 女は憂いを帯びた表情で、静かに質素なベットに腰掛けていた。きっとその姿だけを見れば、誰しもが美女が誘拐され監禁されていると思うだろう。それほどに女は美しかった。


 その銀色の髪は艶こそ失っているが美しく、陶器のように白い肌、そこに影を落とす、銀色の長いまつ毛に縁取られた淡い紫の瞳、まるで紅を引いているかのように唇は鮮やかで、その華奢な体格も全て人形を思わせた。儚く、触れたら消えてしまいそうな繊細な美しくさをもった傾国の美女がそこにはいた。そして、とても一般市民には見えない気品。


 それもそのはずだ、彼女はウィスタリア王国No.2のハウストーン公爵家の娘なのだから。


 アメリア・ハウストーン

 それが彼女の名だった。最も今はただのアメリアであるが。

 彼女はもうハウストーン家の娘ではないのだ。家を破門にされ、今は断罪の時を待っている。


「…」


 私は、どこで道を間違えたのだろうか。


 もう何度目になるか分からない自問自答。

 愛する婚約者であった王太子から告げられた、婚約破棄と極刑。

 極刑になるくらいなのだから、きっと私は大きな罪を犯したのだろう。その突きつけられた罪状に対し、納得いかないと声を上げるのはもう辞めた。どうせ、誰にも届きはしないのだから。


 結局、私は誰にも愛されずに終わるのか。

 精一杯尽くしたつもりだった。あの人の為に、あの人の評価に繋がるのなら自分を犠牲にだってした。それが、間違いだったのだろうか。否、きっとそうなのだろう。その末に得た物が、氷の女帝なんていう悪名だったのだから。

 私は人に愛されるような人間では、初めからなかったということなのだろう。

 私は、このまま終わる。それならーーー


「アメリア、出ろ。断罪のときだ。」


 最後のときまで、周りの望む悪女でいて見せよう。


「触らないで下さる?汚らわしい。」


 ごめんなさいね、衛兵さん。貴方が汚らわしいなんて、微塵も思っていないわ。初めて汚らわしいなんて言ったしね。

 涙は流さない。

 最後のときまで私は凛とあり続ける。氷の女帝らしく。


 ーーけれど1つ望んでいいのなら、次の人生は愛されなくていいから穏やかなものがいい。


 彼女は断罪の場でも、前を向き不敵な笑みを浮かべた。周りからの憎悪の眼差しと罵声を一身に受けながらも、決して俯くことはなかった。


 そうして、ウィスタリア王国始まって以来の悪女、氷の女帝はこの世を去ったのであった。










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