娘よ!ダンジョン経営を一緒にしないか?
「ダンジョン経営をしてみないか?」
一介のサラリーマンだと思っていた父にそう言われたのは、
私がブラック企業をやっとの思いで辞めて、少しふさぎ込んでいた時だった。
だから初めは、励まそうとジョークでも言っているのかと思った。
「はいはい、そもそもこの日本にダンジョンなんてある?」
父はニヤリとすると楽しそうに話を始めた。
「香織、お前は新宿駅や渋谷駅で迷った事はないか?
そして、その時『これって最早ダンジョンじゃねぇ?』と思わなかったか」
「思ったよ」
「だろ?迷宮化されているから当たり前なんだよ」
「誰が何のためにそんな迷惑なことを?」
「まぁ、まず聞け。慣れたサラリーマンは、迷わないで帰れるもんなんだ」
「そうだろうね」
「じゃあ、誰があのダンジョンで苦戦していると思う?」
「みんな困ってる。とりあえず私はデートの時に困った」
「デートの時に困った?ならこちらの思惑通りだ」
私は『その言葉、頂きました』みたいな顔にイラっとした。
「はぁ?」
「ちゃんと改札を出て、待合場所に時間に通りに着くかドキドキさせて盛り上げる為に。
時には遅れた言い訳に使ってもらう為に。迷宮化してるんだ」
「なにそれ!!」
「ふざけるなと言わんばかりだな。いやいや、こっちは大まじめにやっているんだ。
だがな、この頃は迷宮化だけでなく、新たな取り組みも」
「インスタ映えとかでしょ」
「良く解ったな。そうなんだよ、インスタ映えするスポットが必要らしい。とりあえず、MPが回復できる奇怪な形のオブジェを錬成したんだが、まったく人気が出なくてな」
「まって、ちょっと情報多め。」
「奇怪なオブジェと言っても気持ち悪くはないぞ!幾何学模様で…」
「そこじゃない!!お父さん錬成って何か魔法で作れるの?それとMPって?」
「うん? 錬成はいつもしていたぞ。家のお皿は、パン祭りか錬成かのどちらかだ」
「うちの皿って…MP?錬成とか、みんな魔法使えるってこと?」
「いやいや、使えるのはごく一部の人だけだ。そうだなMPは精神力的なものだから普通の人が回復したら良く眠れる!!」
「眠れる?」
「そう、質の高い睡眠!!」
「インスタ映えとは関係ないし、普通には気付かない機能…能力の無駄遣い。デザインも多分微妙だし、それは流行らないかも」
「なるほど、これは親子でダンジョン経営頑張るしかないな」
「勝手に決めないで」
「ものづくりは良いぞ!ちなみにこれがそのオブジェ」
「…えっ?えっ!!」