表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/64

6-4 溝出

R2.10.5 加筆修正 夢見 憂を明確に。ダンディに。

 『異臭がする』という通報を受け、確認の為に訪れた警官により、事件は発覚した。


 発見されたものは、部屋に散乱した一人分の白骨。

 これだけでも充分に異常な事態なのだが、それだけでは済まなかった。

 同室の破損した収納ケースから、骨が全て抜き取られた死体が発見され、更に同じ様な収納ケースに押し込められた男性の死体も発見されたのだ。

 さらに鑑識からの“3体の変死体”についての報告は常識を遥かに超えた代物だった。

 そこには“部屋に散乱した白骨と、収納ケースに入っていた骨の無い高齢女性の死体は同一人物のものである”というのだ。極めつけは、骨を摘出する過程に於いては、内臓を何一つ傷付ける事無く、更には手術無しでは摘出不可能な脳や視神経までもが綺麗に()()()に残されていた。という。

 これだけでもお手上げだというのに、更にもう一つ――収納ケースに納められていた男性の死体なのだが、直接の死因は窒息死――つまり『男性は元々この形をしており、それがケースに収納された事で呼吸が出来なくなった』可能性が高いという話だった。

 そんな事があるものか。

 男性の遺体はまるで箱に入って育てられたかのように、骨が変形し曲がっていた。それが『箱に入って息が詰まって死んだ』だと? まるでカタツムリが殻に潜ったらピッタリすぎて窒息しました。的な言い草ではないか。

 ――論点がズレてしまったが、そもそも箱に入るように大人の身体を曲げるという事自体が無理筋なのだ。

 少し前までこの家に出入りしていたという、死亡した女性の担当をしていたというケアマネージャーの男性に事情を聞いたが、数週間前に訪問した時には、二人ともまともだったらしい。母親の方は寝たきりで身動きがとれず、息子の方は母親の年金を使い込んで酒浸りの生活をしていたという。

 それがある日、息子が『母は親戚の家に行った』と追い返された。

 不審に思い、いけない事だと思いながらも上がり込んでみたが、担当する母親の姿は見えなかった――と供述していた。

 それから数日。変わり果てた姿で親子は発見された。


 まただ。

 また人間業とは思えない手口での死に方だ。

 私は女性を担当していたケアマネージャーに()()()()()()()()()をしてみた。

「最後にひとつ、お聞きして良いですか?」

そう言って自分のスマホから一枚の写真を見せる。

「ところでこのお店――ご存知ありませんか?」

すると男性は驚いた様子も無く、至って普通に答えてくれた。

「刑事さんもケーキ好きなんですか?訪問した後とかによく立ち寄っていましたよ。水曜日限定でランチもやってるんですが、なかなか絶品ですよ」

体格の良い、人当たりの良さそうな男性はそう言って笑っていた。

「店員の男性が物凄くカッコいいんですよねぇ」

うん。それは知ってる――ランチも美味しいのか。




「紅茶とショートケーキ、あとフレジエと…いちごシフォンで」

オーダーを聞いた私は、そんなに苺が好きなのかな、この刑事さん。と思いながらも厨房に戻りオーダーを相志さんへと伝えた。

 その時、肩に乗っているサンが私の頬をぽんぽんと叩き、

「あのひと、ママとそうし、うたがってるにおい」

と伝えてきた。

 あの女性は『野宿火』の時に店を訪れた刑事さんだ。小鳥遊さん、と言ったか。印象の強い女性だったのでよく覚えている。

「相志さん…」

不安に思い相志さんに声をかけるが、そんなの関係無いねといった様子で、

「大丈夫です。只の警察が僕達の仕事に辿り着ける訳がありません。普通にお客様としておもてなし致しましょう」

そう言ってテキパキとオーダーの準備を整えていた。だがふと手を止め、

「…とはいえ、何処まで掴んでいるのかは、気になりますねぇ――こんぺい、お願い出来ますか?」

相志さんの言葉に、あいよぉとこんぺいさんが厨房を出て小鳥遊刑事の正面に回った。怨み以外の記憶も読めるんだ。

 こんぺいさんは正面から小鳥遊刑事を一つ目で見つめ続け、そしてのんびりと帰って来た。

「うん。見事な…実に見事な谷間だった」

いやそういうのじゃなくて…見てきて欲しいのは胸じゃなくて記憶なんですけど。 というか見えないのを良いことに正面から胸をガン見してきたんですか。

 私と相志さんとで呆れ顔をしていると、役得だろうがよと言って笑うこんぺいさん。

「何も掴んじゃいねぇよ。ただ、あの女の言う『事件』の何処かしらにこの店が出てくる事で、突飛な発想に辿り着いたみてぇだぜ」

「突飛な発想…とは?」

相志さんの問いに、こんぺいさんはニヤリと笑みを浮かべ答えた。

「若葉ちゃんが依頼の窓口で、相志が実行犯――らしいぜ」

相志さんと顔を見合わせて溜め息を吐く私。

「困りましたね…」

「でも、お客様として来店して頂けるのならウェルカムですね」

本気で困る私に対し、困ったものだといった様子で微笑む相志さん。

「すいませぇん」

その時、既にケーキを二つ食べ終えた小鳥遊刑事が声をあげた。

「紅茶をもう一杯、頂けますか?」

厨房から顔を出し、かしこまりましたと応じ向かおうとする私を相志さんが止め、

「僕が行きましょう――実行犯とは是非お話したいでしょうからね」

そう悪戯っぽく笑って小鳥遊刑事のテーブルへと向かっていった。

 ちくしょう。仕草がいちいちイケメンだな。


「再びのご来店、誠にありがとうございます」

ティーカップに新しい紅茶を注ぐと、丁寧に礼を述べる相志さん。

「よく覚えていますね」

そりゃ警察が来れば覚えているだろう。というか小鳥遊さんのような女性なら大抵の人は覚えていると思います。

「ご来店頂いたお客様のお顔は大体覚えておりますので」

その言葉は多分本当だろう。相志さんなら平然とこなせそうだ。

「お名前を伺っても?」

相志さんへ名前を尋ねる小鳥遊刑事。

「はい。カフェタタリアンのオーナー、不来方相志と申します」

相志さんは自らオーナーであると告げた。嘘ではない。店長は紫苑さんだが、店舗のオーナーは相志さんの名義になっているらしい。

「不来方――東北のお生まれ?」

「何代か前になりますが、そう聞いております」

「貴方がこの店の責任者、という事で宜しいのですね。では――この写真の人に見覚えは?」

小鳥遊刑事はそう言って一枚の写真を出した。

「はい。一度、ご来店頂いた覚えがあります。ご夫婦で仲睦まじい様子が印象深いお客様でした」

私もよく覚えている。依頼をした後で自ら命を絶ち、娘さんと共に逝く事を選んだ『飛頭蛮』のお客様だ。納得したように写真をテーブルに置く小鳥遊刑事。

「この夫婦は、この店で食事をされた後、自殺しています。そして娘さんをいじめていたと思われる生徒達もその後、殺されていました。――では、この写真の人は?」

「はい。珍しく高齢の女性お一人でのご来店で、大層お疲れのご様子でしたね」

私が数え間違えた『帷子ヶ辻』の女性の霊を連れて訪れたお婆さんの写真だ。

「この方の娘さん夫婦は、ご自宅で亡くなられています――では、この人は?」

更にもう一枚。

「珍しくコーヒーをご注文された、と以前ご説明差し上げた方ですよね?」

小鳥遊刑事が目を付ける契機となった『野宿火』の祟りを依頼した奥さんの写真。

「そうよね…」

そこまで言うと小鳥遊刑事はテーブルに置いた写真に勢いよく手を置き、

「この町で起きている不可解な死。その登場人物を繋ぐ唯一の糸。それがこの店。この店を訪れた数日以内に関係者が死んでいる――貴方達なんでしょ?これをやっているのは」

と、いきなりまさかの直球勝負を仕掛けてきた。

「…これは、探偵漫画の様に『証拠はあるのか』と伺うべきなのでしょうか?」

何を言ってるんだろうと困った顔を見せながら、あくまで無関係と主張する相志さん。

「確かに皆様全員、この店を訪れて下さっていますが――それだけです」

だだっ子を諭すように優しい笑顔で応じている。だが、小鳥遊刑事も退かず。

「貴方達は何者なの?悪人を裁くヒーローでも気取っているのなら、それは間違いよ」

話を聞いていないのか、と疑いたくなる程に持論を展開し続けている。

「見ての通り、ただのカフェオーナーと従業員ですよ。蝙蝠のマスクも蜘蛛の巣模様のタイツも着ておりません」

相志さんもまた微妙な喩えで応じる。だがその姿勢には些かの乱れも無い。


「そう。分かったわ――また寄らせて貰います。ご馳走さまでした」

と言ってテーブルに勘定を置くと席を立った。相志さんはドアの前まで小鳥遊刑事を見送り、

「またのご来店をお待ちしております」

と言って小鳥遊刑事を送り出すと、くるりと私達の方へ振り向いて、

「リピーター一名様、獲得ですね」

と笑った。

「そんな暢気な事…」

たとえ普通の人と言えど、警察に目を付けられているのだから、もう少しは危機感と言うものを持って欲しいのだけど。

「俺は逆に付きまといてぇな」

相変わらずのオヤジ発言なこんぺいさん。

「んもぅ、こんぺいさんまで…」

そんな時だった。


「そんなに邪魔なら俺が片付けましょうか?」

いきなり、こんぺいさんとはまた違う渋い男性の声がした。声の方を振り向くと、扉の鈴を指で押さえて鳴らない様にしながら、これまた容姿の整った、チャラいオジサマといった男性が、入り口に立っていた。

 年の頃は40中頃だろうか。ベージュのストライプスーツを粋に着こなすスマートなスタイル。僅かにパーマのかかった長めの髪を後ろに流し、少し目元の弛んだ気だるげな目付き。一見無精髭に見えるが、実は整えられた髭。軽薄そうに見えるが嫌味の無い笑みを浮かべる口元。

 ちょいエロオヤジという言葉の似合いそうな男性だった。

「お久しぶりです、相志様。こんぺいも相変わらずだね」

オジサマは居住まいを正し、相志さんへと丁寧に頭を下げた。明らかに年下の相志さんを『様』付けで呼び、こんぺいにも話し掛けている。相志さんも、

「これは随分珍しいお客様ですね」

と笑顔で出迎えていた。

「お前さんが外に出るのは宵の口からだと思ってたがな、(うれい)。いい女なら姐さん以外この店には居ねぇぞ」

こんぺいさんも軽口で返している。どうせ私はいい女じゃありませんよ。

「いやぁ居るじゃないのよ。あと十年経ったらいい女になりそうな娘がさぁ――」

いつの間にか私の背後に廻り、私の腰に手を回していたオジサマ。

「ひゃっ――?!」

ゾワっとして変な声が出てしまった私だったが、すぐさまサンがその手に噛みついていた。

「あ痛っ!?――ってあれ?式神増やしたの?こりゃまた随分ちっこい…」

そう言って、手に齧り付いたままのサンを目の前にぶら下げながら眺めるオジサマ。

「その式神は若葉さん――彼女の式神ですよ」

そんなオジサマに相志さんが私を紹介してくれた。

「へぇーこの娘の――って何処の家の娘?菅原かい?」

前に聞いた気がする。陰陽師の家系は『血筋』としてその能力を守り引き継いでおり、それ以外で力に目覚める例は非常に希少なのだと。だから今も『何処の家』かと聞いたのだろう。 

「いえ、若葉さんは紫苑様が見出された在野の方ですよ」

「マジで?天然モノか!いやー珍しいなぁ!」

これまた大袈裟に驚いては私をあちこちから眺め回すオジサマ。私は鮎かと。ちなみにオジサマその間もサンは手に齧り付かせたままだ。私はとりあえず笑顔を見せ、相志さんに尋ねた。

「あの…相志さん、この方は――?」

相志さんは、ご紹介が未だでしたね、と謝った上で丁寧に教えてくれた。

「この人は『夢見(ゆめみ) (うれい)』と言って、この町のゲームセンター『夢見館』の店長です」

その店の名は私も知っている。市内で一番大きなゲームセンターだ。私も学生の時に何度もプリクラを撮りに行っていた。


「そしてもうお分かりとは思いますが、若葉さんと同じ、葛葉の陰陽師ですよ」

次なるお話は幕間でございます。紫苑と相志の悲願、そして語られる『百鬼夜行』とは?-ご期待下さい。


SpecialThanks 夢見 裕様 レビュー感謝致します。お名前を一部改変の上、使用させて頂きました。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ