2本目・名前
毎週月曜予定に決めました!
「君は綺麗な髪の毛だね!」
少年は違和感を持っていたため、余り嬉しくは無かったが
「そう?ありがとう。」
素っ気なくはあったがお礼を言い、窓際に座る少女から距離をとったところで少年は座る。
「あ!名前無かったよね?つけたげる!」
唐突にそう言われ、やめて欲しいと口を出そうとしたところで、口をつぐむ。
名前が無いのは不便だと、今更ながら思ったためだ。
「分かったよ好きに呼べばいよ。ただ…呼びやすい名前にしてくれ。」
(名前はあっても損はないよね)
「じゃあねー、あ!まんまるお月さまだ!」
瞬間嫌な予感が襲う。
「まさか…」
「ふふ!つき!なんてどうかな!」
月が見えたから『つき』…適当に思えて少し嫌な気持ちになり、ムッとなってしまう。
「ちょっと適当じゃないかな?他にない?」
「呼びやすい名前でいいって言ったじゃない!んー、後は髪の毛が冬に見た雪みたいだから、ゆきって言うのは?」
「えー?」
「名前って、こういう風につけると思うんだけどな~…」
そこで少年は考える。
「なら、その二つ合わせてみたら?」
「ゆつきでどう?」
「言いづらくないか?」
「大丈夫!ゆっきーって、呼ぶから!」
なんとあだ名まで付けられてしまった。
しかし悪い気はしなかった。
少し名も知らぬ彼女と仲良くなったような、そんな感じがしたからだ。
「ふふ…」
「あ!笑った!へんなのー!」
「へ、変はないじゃないか!」
「名前も決まったし!自己紹介しましょ!」
「自己紹介…」
「そ、自己紹介。お手本見せてあげる!」
コホン、と小さな咳払いをし少しだけ胸を張って
「私の名前はハルカ!最近髪の白い、少し控えめな性格の、不思議な少年に会い、初めて名前を付けました!よろしく!」
少年の番と言わんばかりの笑顔。この笑顔はかなりの凶器だ。断れない。
ため息をついてしまう。
「こんにちはハルカ!ボクはゆつき。最近、適当な名前を変な少女に付けられる貴重な体験をしました!よろしくね。」
「変ってなによー!」
「「ふふふ!」」
「一人だと寂しいもんね!自己紹介すれば友達なれるよ!」
そんなことを考えてたのか。と、驚く。確かに一人だと楽しくはなかった。誰かと居ると心に余裕が出来てくる。
「ありがと…」
「うん!友達になりたかったからね!」
やっぱり変な子!そんな風に改めて思う。
「眠くなっちゃった。寝よっか。」
「そうだね。…また明日。」
また明日、そう話さないと何処かに居なくなってしまいそうで怖かった。折角見つけた光を失いたくないそんな不安が襲い中々寝付けなかった。
眩しい
窓から日が射し込んでいるらしい。目が若干痛む。そこで昨日の事を思いだし起き上がる。
居ない
昨日最後に見た場所に、居るはずの人影が無い。
「ハルカ…」
思わず名前を呼んでしまう。少年の胸のなかは虚しさで一杯だった。
前の場所かな?それとも気分で動いて立入禁止の場所に入ってしまったか。少し考え立入禁止の所へ行くことに決めた。もっと遠くに行く前に連れ戻したかったのである。
しかし、いざ扉の前に立つと恐怖と不安で進めなくなる。
仕方なくもといた場所へ帰る。
戻ると少女は戻ってきていた。
「ちょっと心配した…」
「ボクも…だよ」
不安や恐怖は既に無くなっていた。安心しほっとしている。
「何処に行ってたのゆっきー」
「朝起きたらハルカが居なくなってて、立入禁止の所にいったんじゃないかって探してたんだよ。」
嘘をついてしまった。諦めたなんて言えない。
「そっか、じゃあもう離れないよ。気を付けるね」
「ううん、こっちもゴメンね。」
「いいよいいよ、それより!きゅけいしつ?だっけ?私が居たとこ、あそこに靴が合ったの思い出して。二人で探した方早いから戻ってきたんだ!」
「探しに行こうか。」
「うん!」
ぐちゃぐちゃになっている机や椅子の下から、使えそうな靴が一足、奥の扉から入る事ができる小さな小部屋から一足出てきた。
「使えなさそうな靴一杯あったね!」
「でも丁度二足見つかってよかったよ。」
黒い大きめな阪本と書かれた靴と、白い少し小さめな佐々木と書かれた靴だ。
「なんてかいてあるの?」
「『さかもと』と、『ささき』だね。大きい方がさかもとだよ。」
誰か使っていた人が書いたのだろうか。今の少年達には知ることはできない
「名前付いてるんだねこの子達!」
(名前…名前か…)
この子達にも名前があった。
でも…ボクには名前が無い。いや…無かった。
ボクは誰だったんだろう。