プロローグ
乾いたアスファルトの上で、猫が死んでいる。舌をだらりと出し、半目のまま横になっている。数匹の虫が周りを飛んでいて、すでに右先のつま先は白骨化していた。栄養が足りなかったのか、肋骨がくっきりと見えるぐらいにお腹が凹んでいた。死体はコンビニの駐車場と歩道のあいだに横たわっていて、廃棄弁当が大量に入ったゴミ袋を抱えた店員がその死体を迷惑そうに見ていた。
通行人は猫を見向きもせず足早に通り過ぎていくか、あるいは一瞥してその死体を避けて歩いていた。
そこに通りがかった子どもはすぐに猫の死体に気づいて、あとからゆっくり歩いてくる母親のすそを引っ張った。
「ねこちゃんが死んでる」
少年は悲しそうに猫を指さして母親の方を見た。
「生き物はね、みんな死ぬのよ」
と母親が少年に優しく言った。母親は少年が猫の前で止まっても、歩みを止めずその場から離れていく。それを見て少年は猫を気にしながらも、母親を追いかけていった。
ゆっくりと太陽が溶けていって、世界がオレンジ色に包まれた頃、水色の作業着を着た人達が来て、猫は袋に入れられていった。次の日には猫の死骸は跡形も無く片付けられていたが、誰もそのことに気づかずにその道を歩いていた。